都立の強豪校の片倉を率いるベテランの宮本秀樹監督も苦悩
都立片倉ナイン(写真は昨年の秋季大会 淑徳巣鴨戦より)
年度始めとなる4月は、学校では毎年一番フレッシュな空気が漂う時期である。在校生たちはそれぞれ、一つずつ学年が上がったことで、新たなやる気、思いが漲ってくる。そして、後輩となる新入生を迎える気持ちでワクワクしているはずだ。
しかし、今年の春の学校には、そんなワクワクする空気はまったくない。コロナウイルスの感染拡大が止まらないまま、休校が続いている。生徒も教員の姿もない校庭が、寂しく桜の花が散っていくのを待っていただけのところが多かったのではないだろうか。
今春に入学して、高校野球の舞台に足を踏み入れようと勇んでいた1年生たちも、まだ本当の高校野球を始められないもどかしさに戸惑っていることであろう。
通常であれば、練習参加可能となる新学期前の3月25日に入部希望の新入生を集めて、最初の顔合わせ。そして、そこから徐々に高校野球に馴染んでいくことになる。ことに、中学時代には軟式だった生徒にとっては、高校で握った硬式球に、ことのほか高校野球をやるんだという意識が高まっていくことになるはずだった。
ところが、今年は入部希望者の招集もままない。東京都立片倉の野球部では、あらかじめ昨夏や秋に行われた体験入部に参加していて、実際に入学してきた生徒などに対して、宮本秀樹監督が片倉野球部としての考え方や活動方針などを記載した封筒を用意して、登校日にそれを持って行ってもらうというやり方で意図を伝えた。
「30通くらい用意しておいて、26人くらいだったかな、持って行ってくれたから、それで新入生の名前は、おおよそ把握はしています。だけど、その子がどんな選手で何が出来るのかということはまったくわからない。体験入部って言ったって、ウチのようなところでは、中学時代から周囲に知られていてような、そんなものすごい選手が来ているわけじゃないからね。一回見ただけじゃ、よっぽどの子じゃないと、覚えていませんよ」
今の過ごし方を電話で聞いた時に、そんなことも話してくれた。
とはいえ、毎年のように春秋の東京都大会本大会には進出し、夏の西東京大会ベスト4などの実績もあり、都立校としての実績の高い片倉である。2年生や3年生には、LINEでトレーナーから、トレーニングメニューが送られてきているという。それに対して、選手が個々の診断でさらに強化トレーニングや課題を見つけて、それをこなしていくということにしている。
「中には、『毎日20キロ、ランニングすることに決めました』とか、バットスイングを何本とか時間を決めてやることにしたなんていう連絡も来ます。スイング用のバットがないヤツは、登校日の時に部室から自分の気に入ったバットを持って行ってもいいよ、ということも伝えました」
今は、全員で集まることが出来ない状況なので、それぞれが登校日に時間差で会って、お互いの情報交換なども行うようにしているという。
当初の予定通りに自粛要請が続くとしたら、5月7日からの授業再開となっていくであろう。そうなった場合、学校の授業などの遅れもあって、夏休みはどうしても短くなっていくことは否めない。ただ、4月の1週目はオリエンテーションなどが予定されていたし、休校期間にゴールデンウイークも含まれているということもあって、実質の授業のロスということでいえば、10日から2週間くらいのものではないかと思われる。
「夏の大会がどうなるのかということわからないですよね。授業日も多分7月いっぱいまでにはズレ込んでいくことになるし。そうやって、いろんなことがズレ込んでいくとなったら、夏の大会は出来ないですよね。だけど、8月になってもいいから、東京大会だけでもやれたらいいんだけれども、というのも思うよね。とはいえ、それだって各校事情がありますからね。いろいろ難しい問題ですよ」
教育現場に40年もかかわってきているベテラン教員としても、今回のような事態は初めてのことである。さまざまなことを配慮しながら、いろいろな思いを込めながらも苦悩の日々が続いていることは確かだろう。
(取材=手束仁)
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