Interview

二度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭の主将・中川卓也(早稲田大)が濃密な3年間で得たもの

2020.03.30

 2018年、史上初の二度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭。主将としてチームを引っ張ったのが中川卓也である。早稲田大で入学してからもレギュラーとして活躍した中川は大阪桐蔭の3年間を「人間的に大きく成長した期間」と振り返る。今回は前編で高校時代、後編では大学時代の取り組みと今後の決意を語った。

練習の雰囲気1つ意識するだけで、成果は天と地の差の違い

二度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭の主将・中川卓也(早稲田大)が濃密な3年間で得たもの | 高校野球ドットコム
高校時代の中川卓也

 早稲田大の練習の雰囲気は黙々としており、とても緊張感がある。罵声が飛ぶ場所ではないが、少しでも緩んだ雰囲気があれば、元ロッテの小宮山悟監督から厳しい指摘が飛ぶ。そういう中で、中川卓也は自分のペースで、練習ができていて、どことなく余裕が感じられる。

 「大阪桐蔭で学んだことは取り組み方、取り組む姿勢です。大阪桐蔭の3年間は早稲田大に入って改めて生きていると実感します」

 毎年、早稲田大は全国クラスの強豪校、進学校、早稲田系列の選手など毎年40名~50名の選手が入部する。選手たちの体つき、身のこなしを見ても、新入生でも意識の違い、身体つき、技術レベルが一目瞭然で分かる。小宮山悟監督は改めて選手に意志を確認する。大学野球で終えたいか、社会人に行きたいか、プロに行きたいか。プロに行きたい選手に対しては一段と厳しく接する。

「プロというのは1球に対する執着心が違いますよね。少しの凡ミスが首につながるものなんです。 とはいってもプロと学生ではどうしても差がでてしまうものなのですが、それでも私は意識レベルはプロレベルを求めていきたいんです。それは能力的に無理なことを要求しているのではなく、起きた瞬間から野球のことだけ真剣に考えてやっていればできることなので」

 早稲田大に入る選手はプロ志望をする選手も多い。だが周囲のレベルの高さ、要求レベルの高さ、環境の違いに圧倒されて、自信とモチベーションを失う事が多い。それでもフェードダウンせず、前向きに取り組めるかは高校時代から目的意識を持って練習をできていたかが重要だ。

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練習中の中川卓也

 そういう意味で中川は大きなアドバンテージがある。史上初の二度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭の主将であり、あの強力チームを形作った中心人物だからだ。高校時代、中川は練習の雰囲気を大事にしていた。

「雰囲気はとても大事だと思うので、雰囲気の1つで、内容の濃さは天と地の差ではないですけど、内容は変わってくる。雰囲気というのは自分もこだわっていました」

中川だけではなく、大阪桐蔭出身で、中川の1年先輩・徳山壮磨(早大3年)も「本当に大阪桐蔭の練習は張り詰めた雰囲気でした。部員同士でプレッシャーをかけあうので、常にピリピリしていましたね」と振り返る。

 もちろんそういう練習の雰囲気の中でも意識が低い選手はいる。中川は「そういう選手に対して厳しく言い続けていました」と引き締めは忘れなかった。

 同級生に対してこれほど厳しく物言いできるようになったのは、ただ甲子園で優勝したいという気持ちだけではなかった。西谷浩一監督の存在がきっかけだ。

[page_break:日々、選手のために行動する西谷監督の想いに応えたかった]

日々、選手のために行動する西谷監督の想いに応えたかった

二度目の春夏連覇を達成した大阪桐蔭の主将・中川卓也(早稲田大)が濃密な3年間で得たもの | 高校野球ドットコム
実際の野球ノート

 中川は西谷監督がチームの勝利、選手の成長のために日夜考えている姿を目の当たりにしていた。

「やはり選手以上に野球のこと、チームのことを考えていて、逆に選手のほうが『西谷監督、大丈夫かな?』と心配になるぐらい考えていました」

 過去に大阪桐蔭OBに野球ノートの取材をしたことがあるが、この取材で驚かされたのは、西谷監督は選手たちの返信だけではなく、全部員へ、春、夏の大会までの必要事項や訓示など事細かく書かれているのである。特に夏の大会前に「春夏連覇への道」というタイトル・内容で、選手にメッセージが送られていた。中川はこう振り返る。

「(返ってきた野球ノートを見て)本当に寝てないじゃないか…と思うぐらい考えているので、そこに応えたい思いがあって、選手に対してきつくいうこともありました。」

 中川は主将として常に苦労はあったが、それでもその任務を全うできたのは野球ノート上で、西谷監督からの励ましがあったからだ。

「野球ノートは毎日提出するんですけど、そこで毎回返ってくる言葉はぐさっとくる、考え直されることはたくさんありました。
 特に自分は主将で、ほとんどチームのことばかり書いてくださって、チーム作りは本当に大変で、主将という立場でも懸命にやらないといけないかなと思いました」

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打撃練習中の杉崎成(東海大菅生)

 そして、大阪桐蔭は2018年、史上二度目の春夏連覇を達成。主将としてチームをまとめた実績が認められ、高校日本代表の主将に就任した。

 大阪桐蔭の3年間をこう振り返る。

「当時は腹立つことはたくさんありましたし、大阪桐蔭は寮生活なので、家に帰りたいと思うことも多くありました。ですが、終わってみると、野球面でも人間的に大きく成長できました。
大阪桐蔭の3年間は『今の自分はない』というぐらい充実していて、成長させてくれた場所だと思います。周りが見えるようになりました。
 西谷監督と3年間野球をやらせてもらったことは、自分の野球人生にとっては大きな財産です 」

 中川は早稲田大入学後、1年春からスタメン出場。二季で16安打に終わったが、それでも名門・早稲田大でいきなりレギュラーとして抜擢されたのは、トップレベルで試合に出場できるだけの技術、心構えを大阪桐蔭の3年間で培った証だといえる。

 中川は昨年1年間について「自分の実力不足を思い知らされたシーズンでした」と振り返る。では活躍するためにどんな課題を追って練習していたのかは後編で迫っていきたい。

 

(記事=河嶋宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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