トレーニングの習慣と年間計画
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
各地方で行われていた秋季大会も終盤となり、多くのチームは実践練習とともに体力レベルを上げるためのトレーニングを並行して行っていることと思います。トレーニングは試合期にも必要なものですが、その時期ごとにあった内容を選択することが大切であり、本格的なオフシーズンと試合期では行う内容に違いが見られます。今回はトレーニング習慣と年間計画ということでお話をしたいと思います。
トレーニングの重要さはわかっているけど
トレーニングは年間を通して行うことが望ましいが、内容は時期にあったものを選ぶ
ここ数年でTwitter、インスタグラムといったSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)が爆発的に普及し、高校野球選手たちが憧れるプロ野球選手のトレーニング動画やその方法などに関する記事などが誰でも簡単に見られるようになりました。今では高校生の多くが「トレーニングは大切」であることを理解していると思います。一方で「プロ野球選手が行っているものだから、自分もやる」ということは、正しいケースもありますが、間違ってしまうケースもあります。そのエクササイズは自分にとって必要な体力要素を鍛えているものなのか、そもそも土台となる筋力レベルがプロ野球選手とでは大きく違うのではないか、そして正しいフォームでできているのかどうか、といったことをチェックしながら進めていく必要があります。
またトレーニングはただ回数をこなせばいい、ただ体(=体重を含む)が大きくなればいいというものではなく、野球選手には野球選手に必要なものをしっかりと身につけていく必要があります。取り組みやすい上半身や腕周りばかりを鍛えていないか、腹筋や背筋といった体幹部分のバランスは適切か(背筋が強すぎたり、太ももの前面ばかりが強くなると反り腰になりやすく、腰椎に負担がかかるため)といったトレーニングの内容が大切になってきます。体力には大きく8つの要素があると言われており、トレーニングを行う際はその時期、その時期にあった「期分け(専門用語ではピリオダイゼーション)」を行いながら、野球の技術練習だけでは偏りがちな8つの要素を効率よく高めていくことが必要なのです。
《8つの体力要素》
1)筋力(筋肉が発揮する力)
2)スピード(筋肉が力を発揮する速さ)
3)パワー(筋力×スピード、いわゆる瞬発力)
4)敏捷性(方向転換を伴う動きの調整力)
5)柔軟性(筋肉・腱等の柔らかさ、関節可動域の広さ)
6)バランス(自分の身体を支えるバランス感覚)
7)全身持久力(心肺機能の強化、スタミナ強化)
8)筋持久力(筋肉を継続的に動かす力)
公式戦終了後の秋〜冬にかけて(筋肥大期)
メディシンボールなどを使い、野球に近い動作なども取り入れてみよう
トレーニングのピリオダイゼーションを設定するためには、チームの年間スケジュールを把握することから始めます。夏の大会以降になる新チームの結成時から公式戦の予定(秋、春、そして夏)を確認し、一番大切な時期に最大のパフォーマンスが発揮できるように、体のコンディションを整えたり、トレーニングの効果をピークに持っていくように計画します。その一例をご紹介しましょう。
【公式戦終了後の秋~冬にかけて(筋肥大期)】
この時期は基礎体力の向上をメインとしてトレーニングプログラムを考えます。筋線維を太く、強くするためのトレーニングとしてはある程度反復できる回数を数セット繰り返すことが大切です(たとえば10回できる重さを3〜4セット)。軽すぎる負荷ではトレーニング効果を得られませんし、土台が出来上がっていない状態で重すぎる負荷を扱うと、ケガのリスクも高まるため注意が必要です。少し軽いかなという負荷設定から始めて、少しずつ重量を挙げるようにしましょう。基本的な下半身強化の種目(スクワットやパワークリーン、デッドリフトなど)を多めに行い、パワーを生み出すもととなる筋肉量を増やします。
【冬~春にかけて(筋力向上期)】
ある程度のトレーニングに慣れてきたところで(1ヶ月〜)、少しずつ扱う重量を重くしていきます(たとえば6回できる重さを3セット程度)。必ず補助者をつけて、重量が上がらなくなったときにサポートできるようにしておきます。今まで「貯筋」してきた筋肉が力を発揮できるように継続して行います。またこの頃から少しずつ野球の専門的な動作に近い種目などを取り入れるようにすると良いでしょう。たとえば捕球動作に似たフロントランジやサイドランジ、投球動作に似たプルオーバー、スイング動作に似たメディシンボールを使ったサイドスローなどを取り入れます。
【試合期(パワー向上期)】
試合期はトレーニングにかける時間も短めに行います。継続してトレーニングを行っていると、ある程度体の変化も見込めますので、扱う重量をさらに重くし(たとえば3回できる重さを3セット程度)、そこにスピードを加えるように意識していきます。特にパワークリーンやスナッチなどの瞬発系の動作は試合期でも継続して行いたい種目の一つです。回数×セット数が少なくなるので、重いものを素早く持ち上げることがメインとなります。
これらは一般的なピリオダイゼーションの一例ですが、トレーニングプログラムの考え方は理解していただけるのではないかと思います。同じものを毎回行うのではなく、時期にあわせて変化をもたせていくことが大切ですので、数ヶ月に一度程度は見直しをはかってトレーニングを続けるようにしてみてくださいね。
(文=西村 典子)