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国民的人気だった韓国の高校野球はなぜ凋落したのか? “韓国の甲子園球場”の撤去、少数エリート制度の弊害……【韓国高校野球事情③】

2024.05.18


東大門球場(写真提供:大島裕史)

前編を読む【韓国高校野球事情①】
前編を読む【韓国高校野球事情②】

1960年代、70年代、韓国では高校野球の人気が高まり、球場は連日超満員になった。日本以外で高校野球人気がこれほど高い国はなかったはずだ。しかし今は、そうした過去を想像できないほど、人気が落ち込んでいる。82年に誕生したプロ野球は、地域対抗の要素など、高校野球人気に最大限に便乗した。その一方で高校野球はかつての人気の中でプロ野球のような雰囲気になった。ともにプロのような野球であれば、力がある本物のプロに関心が高まるのは当然の流れであった。

さらに追い打ちをかけたのが、2007年に高校野球のメイン球場で、かつてはソウル球場と呼ばれていた東大門(トンデムン)球場が都市再開発のため撤去されたことだ。日本でいえば、甲子園がなくなるようなものである。
韓国の高校野球では、多くの観客が期待できるソウルの伝統校の試合や決勝戦などはプロ野球と同じようにナイターで組まれることが多い。地下鉄1号線、2号線、4号線、5号線が通る交通の要衝で、中心部に近い東大門球場ならば仕事帰りに寄る人もいた。しかし、新たな拠点球場となった木洞(モクトン)球場は、ソウルの西のはずれにあるうえに、最寄りの駅から20分近く歩かなければならず、不便である。客足は一層遠のいた。

ソウル木洞野球場(写真提供:大島裕史)

木製バットの使用で公聴会を開催

韓国の学校スポーツは少数エリート制度をとっており、スカウトされた人のみが入部できて、基本的に全員がプロを目指す。高校のチームの中で出場機会を得られない人が、他校に転校するケースも多く、日本のように転校後に公式戦に出場できない期間はない。また、同年代に好投手が多く、相対的に自分の評価が低いとなれば、一定の条件はあるものの、留年することは可能で、そうした選手も多い。
公式戦の記録は、個人の細かいデータも含め全て大韓野球・ソフトボール協会のホームページで公開されている。これはファンや関係者の利便性はもちろんだが、不正防止という側面もある。プロに行けない選手は、スポーツ特待生で大学を目指すが、かつてはスポーツ推薦の条件を満たすため、データを改ざんすることもあった。それを防ぐという意味もあるわけだ。

そもそも高校野球の公式戦は、プロのスカウトのチェックの場であり、大学に推薦入学するための条件作りの場でもある。韓国ではどの高校チームも、年に最低3回は全国大会に出場することができるようになっている。全部で100校程度だが、予選なしで全チームが出場する大会が2つあり、地域の前期リーグ戦の偶数順位のチームが出場する大会と奇数チームが出場する大会があり、これでどのチームも3回は全国大会に出場できる。それに地域の後期リーグ戦の上位チームが出場する大会もある。

少数エリート主義が始まったのは、70年代半ばである。76年のモントリオール五輪でレスリング・フリースタイルの梁正模(ヤン・ジョンモ)が優勝するまで、解放後韓国は五輪で金メダルが1個もなかった。当時は北朝鮮と体制の優位さを競い合った時代である。結果で優劣がはっきりするスポーツに優秀な人材を確保する必要があった。そのために設けられたのが五輪のメダリストやアジア大会の優勝者に対する兵役免除や、国際大会での成績優秀者に対する生涯年金であり、同様の流れで、スポーツ特待生の制度の充実があった。韓国は日本以上の学歴社会であり、スポーツで大学に行けるのは魅力であった。けれどもそれが、勉強をしないでスポーツに専念するということになり、少数精鋭のエリート制度になっていった。

そうした経緯があるため、学校の運動部のそもそもの目的は、国際大会で通用する人材を育てることにある。したがって、基本的に国際ルールに準拠することになる。
98年から野球の国際大会にプロ選手も出場できるようになり、99年のシドニー五輪の予選から国際大会では金属バットではなく木製バットを使用するようになると、2004年から高校野球でも木製バットの使用に全面的に移行した。けれどもそれが今、問題になっている。

大韓野球・ソフトボール協会のHPを開くと、「18歳以下部の大会使用バットに関する公聴会」という告示が目に入る。18歳以下部(高校)の大会の使用バットに関する関係者の意見発表、木製・金属バット使用の長所、短所の比較をするための公聴会を2月28日に開催するということだ。
木製バットを使用するようになって、大会で柵越えの本塁打は数本に激減した。昨年春のWBCで韓国が第1ラウンドで敗退したことから、この問題が改めてクルーズアップされた。大型打者が減り、投手が高校時代から実力以上の評価を受けているということからだ。日本は今年から新基準の低反発バットを使用することになっており、使用バットは重要な問題ではある。けれども、国際大会での成績不振との関係となると、本筋ではないような気がする。

次のページ:少数エリート制度の弊害

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この記事の執筆者: 大島 裕史

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