自分たちの野球ができなかった最後の夏 石川昂弥(東邦)【前編】
今年のドラフト候補に挙がる高校生は佐々木朗希、奥川恭伸をはじめとした投手のほうが脚光を浴びるが、野手でナンバーワンの評価を受けるのは、東邦の石川昂弥だ。高校3年間で積み上げた本塁打は55本。そのうち甲子園では3本塁打、ワールドカップでは1本塁打と大舞台で強さを発揮するスラッガーだ。
石川にセンバツやワールドカップでの活躍を振り返っていただいた。
厳しいマークばかりで甘い球をしとめるのに苦労した
石川昂弥(東邦)
センバツでは計3本塁打。U-18代表では4番打者として出場。まさに世代のトップを走る活躍だった。だがその活躍とは裏腹に夏の大会までの内容は石川にとっては満足するものではなかった。
まず3本塁打を放ったセンバツでは「調子も、内容も良くなかった」と振り返る。では3本塁打を打てた理由とは何か。特に決勝戦の習志野戦は2本塁打を放ち、石川の凄さを存分に見せた試合だった。
「割り切りを意識しました。準々決勝、準決勝は打てていなかったですし、あの時は投手で投げることが多かったので、打てなくても抑えられればいいという気持ちがありました。全然打てないので、悔いが残らないように、思い切って振っていこうと。割り切りの気持ちがあったからこそ打てたと思います」
2本のホームランは右中間へ飛び込むものだった。
「自分は逆方向のほうが良く伸びるので、自分の持ち味が出た2ホーマーだと思っています」
自分の持ち味といっても、なかなか打てるものではない。どう意識して打っているのか。
「あまり意識したことはないですが、小学校の時から右中間へ打つのは得意で、バットを乗せる感じで打っています」
石川が技術的な表現をするとき、ワンセンテンス程度。言葉少なだが、それを実践する石川の素質は改めてずば抜けている。
ただセンバツ後は苦しんだ。
「センバツ後はうまくいかなかったといいますか、どうしても意識してしまい、なかなか自分たちの野球ができなかったですし、公式戦や練習試合でも全然勝てませんでした。」
センバツではMVP級の活躍を見せた石川に対しては必然的に攻めが苦しいものとなった。
「より攻めが厳しいものとなりましたね。抑えようと思ったら、相手投手としてはきわどいところに投げるじゃないですか。だからボールが多くなりまして、こちらは突然来る甘い球を打たないといけないので、そこに難しさを感じました」
常にストライクで来る投手よりも、ボールが多い投手の対応に苦しんだ。それは夏になっても思い通りにいかなかった。
「打席数は少なかったので、なんともいえないですが、少なくとも自分の打撃内容に納得していないのは確かです」
敗退後、石川は世界大会へ向けてすぐに切り替えて練習を行なった。
[page_break:150キロ近い速球を打ち続けて木製バットに順応した]150キロ近い速球を打ち続けて木製バットに順応した
大学日本代表戦での石川昂弥(東邦)
U-18ワールドカップでは木製バットを使う。木製バットに対応するために取り組んだことは何か。
「芯に当てないと飛ばないですし、たとえ芯に当たってもパワーがないと飛ばないので、スイングスピード、いかに芯に当てるかを考えて練習をしていました」
よく木製バットの練習を始めた選手から聞かれるのは、木製バットはヘッドが重く振りにくいということである。もちろん石川も始めた時はそういう感覚があった。ではどう乗り越えたのか?
「それは打って慣れていくしかないと思います。大会が終わって1か月あったので、ピッチングマシンでは150キロ近くに設定して毎日打っていました。それぐらいの速度で打ち込まないと慣れませんし、また国際大会の投手は150キロぐらいのボールを投げてくるので、そういうのも踏まえて150キロ近い速球をどんどん打っていきました」
また、石川は昨年12月、愛知県選抜に選ばれ、木製バットで練習してきた経験もあったため、木製バットには順応していた。
前編はここまで。後編では大会での活躍のきっかけ、そして得た経験について振り返っていきます。(後編を読む)
(取材=河嶋 宗一)