試合レポート

至学館vs名古屋市工芸

2019.04.21

これが至学館の野球、2点のビハインドをラスト3回でひっくり返す

至学館vs名古屋市工芸 | 高校野球ドットコム
至学館先発の渡邉都斗

 今、愛知県の高校野球で一番面白い野球をすると言われているのが至学館だ。打てなくても何とかして得点を奪っていくスタイル。それを手本として いきたいという学校も多いという。必ずしもスーパースターがいなくても十分に戦えるのが高校野球だ。至学館の浅王義之監督はそんな思いでチーム作りをしている。だから、走者が出たら、相手に対していろんなことを仕掛けていく。そして、相手に対して「今度は何をやってくるのだろうか?」と、不安にさせていく。それを“思考破壊”と呼んで、一つの戦術としている。

 前日は、昨夏の代表校愛工大名電を接戦で下して進出してきた至学館。「昨日は、苦しい試合でしたけれども、今日はどんな試合をお見せできるか、楽しみにしてください」と試合前に語っていた麻王義之監督。
 これに対して名古屋市工芸は前日の2回戦では満塁本塁打もあって半田にコールド勝ち。1回戦から連続コールド勝ちで、打撃好調ぶりを示してきていた。

 その名古屋市工芸が初回、至学館の先発左腕渡邉都斗君の立ち上がりを攻めた。先頭の南出君が中前打で出ると、しっかりとバントで送り、西村君が右中間へ運ぶ二塁打で帰して先制。さらに四球とけん制悪送球で二死二三塁とすると、6番赤堀君も中前へ鋭くはじき返して2点目。まさに、打撃好調の勢いに乗った鮮やかな名市工芸の先制攻撃だった。
 至学館は、毎回走者を出して塁上を賑わせながらも、この試合ではもう一つ本来の味というか、相手をかく乱していく技を発揮しきれないでいた。と言うよりも、名古屋市工芸の冷静な守備もあって、至学館に付け入れさせずに持ちこたえていた。


至学館vs名古屋市工芸 | 高校野球ドットコム
代打で出場し活躍した至学館・富田君

 ただ、至学館の渡邉君も2回からは本来の投球を取り戻していた。4回は、一死一三塁でスクイズを外して三塁走者を刺すなどピンチも逃れていた。
 何とか勝君を攻略したい至学館。7回は先頭の8番渡邉君のところで麻王監督は代打富田君を送り出す。冨田君が起用に応えて粘って安打で出塁。冨田君は二塁盗塁も決めるが、その後に送って一死三塁を作る。そして、1番佐野君が遊撃ボテボテの内野安打。至学館らしいと言えばらしい得点の仕方だった。それがその後も続いて、関君のバントは送球ミスを誘って二、三塁。最も信頼のおける打者と言ってもいい牧山君が中犠飛を放って同点。さらに二死二塁となって、4番名城君が中越二塁打して逆転の走者となった関君が生還。
 鮮やかな至学館の終盤の攻撃だった。

 これは、8回にも続いて、一死から松本君が四球で出ると、暴投で一気に三塁まで進む。ここで、名古屋市工芸の西尾智之監督は連投ながら粘りの投球をしてきた勝君を諦め、瀬古君を投入した。しかし、代打で安打しその後は外野手として入っていた冨田君の一打は内野失策を誘発して、もう1点入った。ゴロGO戦術とも含めて、一死三塁になったら、何かやってくるぞと思わせる至学館野球が、終盤でその威力を示したとも言える。

 麻王監督は、「いつもながら、どことやってもこういう接戦ですよ。前半はなかなか攻めきれないみたいな感じでしたけれども、そういう攻めがボディブローみたいになっていって…、それが終盤に効いてくるんですよね。前半は、ダウンしない程度についていきながら、何とか機会を窺っていって終盤勝負ですね」と、苦しみながらも自分たちのチームの持ち味を出し切れた戦いでもあり、これで夏のシード権も得られたということでこの日の戦いも合格点ということである。

 守りという点で言えば、至学館は4回に一死一三塁で相手のスクイズを外した場面。スクイズを読んだ段階で、一度フェイクを入れながら、外していくという、高等技術なのだが、捕手の牧山君の能力が高いということで、麻王監督としては、そういう外し方もできるという判断だったのだが、練習通りにやれたことも、大いに満足できる要素だったとも言えよう。

 こうした一つひとつのプレーの質の高さ、これこそが至学館の目指す野球だということである。
 中盤までリードをキープしていながら、終盤でひっくり返された名古屋市工芸。前半は、それこそ至学館のお株を奪うかのような積極的な攻撃を仕掛けていたのだが、二回以降は得点できなかったことが、終盤になって響いてしまった。それでも、西尾智之監督は、「戦いとしては悪くはなかったと思います」と、いいムードで戦えたことは感じていた。ただ「このボールで勝負だというところで、確実に決められるかどうか、そのあたりの緻密さが最終的に出た」と振り返りつつも、大会を通じて、勝投手をはじめとしてチームは大きく成長できたのではないかということは実感していたようだ。

(文・写真=手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.28

春の福岡地区を制した沖学園(福岡)、勝利のカギは異例の「決勝直前沖縄合宿」だった

2024.05.28

【大分】佐伯鶴城は4戦3勝、杵築は4戦で1勝<強化試合>

2024.05.28

【鹿児島NHK選抜大会】錦江湾が1点差勝利!出水工の追い上げ、あと1点及ばず

2024.05.28

【鹿児島NHK選抜大会】川内商工が2試合連続逆転サヨナラ勝ち!雨のため2試合が継続試合

2024.05.28

【北海道】北海が逆転勝利、27連勝で4季連続V達成<春季全道大会>

2024.05.25

【熊本】九州学院、熊本工が決勝へ<NHK旗>

2024.05.25

【関東】白鷗大足利が初、逆転サヨナラの常総学院は15年ぶり決勝<春季地区大会>

2024.05.25

首都2部優勝の武蔵大の新入生に浦和学院の大型左腕、左の強打者、昌平の主軸打者など埼玉の強豪校の逸材が入部!

2024.05.25

【岩手】盛岡大附がサヨナラ、花巻東がコールドで決勝進出、東北大会出場へ<春季大会>

2024.05.25

【佐賀】佐賀北が初戦突破!九州地区大会4強の唐津商は1回戦で姿消す<NHK杯>

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【岩手】盛岡中央、釜石、水沢が初戦を突破<春季地区予選>

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商