精密なコントロールは根気強さから生まれる 中村晃太朗(東海大菅生)後編
3月10日の暁星国際との練習試合で登場した中村晃太朗(東海大菅生)の姿を見て思った風格があるなというのが第一印象だった。その声はこの練習試合に詰めかけた記者たちの声からも聞かれた。
その風格はどこから出てくるものかといえば、東京大会、キューバ遠征といった苦しい試合を多く潜り抜けた自信からだといえる。高校生屈指の技巧派左腕・中村はいかにして制球力、変化球を極めていったのか。テクニカルに解説していきながら迫っていきたい。
3種類のチェンジアップを投げるまでに日ごろから握る練習を続けた
中村晃太朗投手
今でこそ多くの球種を投げる中村だが、中学時代まではまっすぐとカーブしか投げられなかった。
「スライダーを投げようと思っても抜けてカーブになってしまうことがありました。高校に入ったら、このままではまずいと思いましたし、左投手で落ちる系の変化球がないことに先輩から驚かられました。
そこで若林先生からスライダー、チェンジアップを教わりました。いろいろ試す中で3種類のチェンジアップを投げられるようになりました」
近年、左投手のトレンドとなっているチェンジアップを何と3球種も操る中村。スクリュー系の落ちるチェンジアップ、真下に落ちるチェンジアップ、120キロ後半のスプリット系のチェンジアップを状況に応じて投げ分ける。
中村晃太朗投手が操る3つのチェンジアップの握り(左からスクリュー系、スプリット系、真下に落ちるチェンジアップ)
特にスプリット系のチェンジアップは内野ゴロ、空振りを奪うのに適した球種だ。握りを見せてもらうと、中村は指がそれほど長いわけではないのにスプリット系のチェンジアップは挟むことができている。それには中村のたゆまぬ努力があった。
「学校にいったときでも、硬式球を挟む癖があって、それをずっとやっていたら、指が開くようになったんですよね」
このように挟む習慣があると、いざ投げるときにしっかりとフィットする。
「セットに入るときもすっと握ることができるんです」
中村のチェンジアップは走者がいてもいなくても冴え渡る。それは常日頃から挟む習慣があったからだ。
このようにいろいろな球種を操れる指先感覚を身に付けたのは日ごろのキャッチボールにある。
「遊びながらカーブを抜いてみたり、スライダーをなげてみたり、そうしていく中で自分に合う変化球を自分で探すことができたので、それは自信になっていると思います」
中村は自分のことを器用な投手ではないという。「自分は何回もやり続けないと、体に染みついていかないので、そこは大事にしています」
自分の弱みを理解しているからこそ誰よりも試して練習をする。その姿勢が中村を築き上げたのだ。
[page_break:コントロールはメンタル、技術が伴ってこそ身に付く]コントロールはメンタル、技術が伴ってこそ身に付く
東京代表の時の中村晃太朗投手
技術的なこと、コントロールについて話を切り出したが、メンタル面でも踏み込んでいく。レベルが高い強豪校相手に内外角をしっかりと投げるためにメンタル面で意識していることを聞いていくと、
「打たれることを考えすぎないことですね。打たれることを考えてしまうと、腕が縮こまってしまうので、打たれたら打たれたで、次の打者を抑えればいいと思いますし、良い打者から逃げるというのは高校に入ってなくしました」
それを強く認識したのが2年夏の西東京大会準決勝の日大三戦だ(試合レポート)。中村は先発したものの、1回途中で降板した。
「自分のせいで負けてしまった試合でした。だから野球をやめたいという思いもよぎることもありました。そんな中でも若林先生からプレッシャーをかけられて強くなったと思いますし、秋からエース格として使ってもらうことが多くなり、責任を負う立場となりました。そういう中で投げたことで自分は成長できたと思います」
秋にはエース格として活躍。この大会は中村の修正力の高さを見せた大会でもあった。都大会初登板となった桜美林戦(試合レポート)では6回まで投げて4失点、7四死球という内容。中村自身、大反省の内容だった。3回戦の二松学舎大附戦まで1週間の準備期間があり、調整方法を見直した。
「火曜日、水曜日にはど真ん中でもいいのでしっかりと腕を振ることを意識しました。そこで腕を振る感覚を取り戻して、木、金で小山 翔暉に受けてもらって調整をしていったことが良かったと思います」
チェンジアップを武器に東京を勝ち上がる!
二松学舎大附戦(試合レポート)では湘南ボーイズ時代のチームメイト・海老原凪と投げ合った。
「あいつ(海老原)とは普段から仲良しでいつも一緒にいることが多かったんです。でも野球になったらライバルで、あいつだけには負けたくないと思っていたので、あいつの方が先にマウンド降りた瞬間に勝ちを確信しました」
その後、都大会準優勝に貢献。中村は東京代表としてキューバ遠征を経験した。そこで学んだことも多かった。
「本当にキューバの選手は見たことがない体格をした打者ばかりで、良い経験になったと思います。そういう打者と対戦したことでどんな打者でも立ち向かう精神面が鍛えることができましたし、僕が得意としているチェンジアップはキューバ打線にも通用したので自信になりました。
オフはウエイトトレーニングで75キロまで体重が増量。サンドボールを使った手首を鍛えるトレーニングを鍛え、ストレートの強化にもつなげた。中村の投手人生を振り返ること、根気強い性格ということが分かる。最後に中村に投げかけた。
投手がコントロールを身に付けるには根気強さが大事だと。その問いに対し中村は
「やはり、ただ投げるだけなら誰もができることだと思います。でも投手はアウトコース低めに何球も続けるなど、上達につながるためにはどうすればいいのか、そういう練習を突き詰めて、継続することが必要だと思います」
中村の投手人生をしっかりと現した答えだといえるだろう。
文=河嶋 宗一