Interview

スマートフォンの人気野球ゲーム『八月のシンデレラナイン』はどのようにして生まれたのか? プロデューサー・山口修平氏

2019.02.13

 スマートフォンゲームで次々とヒット作を生み出しているアカツキ社のスマートフォン向けゲーム『八月のシンデレラナイン』をご存知だろうか。

 女子高生が野球部を立ち上げ、その活動を通して、彼女達の様々な青春の悩みや葛藤を描くストーリーが人気を呼び、2017年6月に配信開始されてから現在まで100万以上のダウンロードを記録している。
 さらに2019年4月7日からは、テレビアニメの放送も決定し、多くの注目を集めているのだ。

 そんな『八月のシンデレラナイン』のプロデューサーである山口修平氏に、その開発に至るまでの背景や、魅力を聴いた。

ゲームプロデューサーは元・スポーツ少年?高校時代の怪我をきっかけにゲーム作りの道へ

スマートフォンの人気野球ゲーム『八月のシンデレラナイン』はどのようにして生まれたのか? プロデューサー・山口修平氏 | 高校野球ドットコム
『八月のシンデレラナイン』タイトル画面

 膨大な数があるスマートフォンゲームで、アニメ化されるまでの人気作品を作り上げた山口氏。これまでにも様々なヒットタイトルに携わっている。

 現在のプロデューサーという仕事の魅力を尋ねると、「企画をあれこれ考えている時が一番楽しいんです。これが世に出たらきっと楽しんでもらえるんじゃないかということを前提に取り組むので、その時間って当然ワクワクしていないとおかしいですよね。」と語る。

 「どう人を驚かせてやろうか、笑わせてやろうかと企んで、いいアイディアが浮かんだ時がもっともテンションが上がります」と話す山口氏は、ここまでの人生で意外な道を歩んでいた。

 「実は中学時代はバスケ、高校時代はアメリカンフットボール部に所属して部活動に打ち込む、スポーツ少年だったんです。」

 ただ、高校時代に足に大きなケガを負い、半年以上の松葉杖生活。そこから部活動に復帰し、なんとかレギュラーも見えてきたものの、怪我のトラウマもあり部活動を断念したのだそうだ。

 ただ、このケガが山口氏にとって大きなターニングポイントになっていた。
 「松葉杖でまったく動けない状態で、放課後やることが無かったので、当時パソコンを買ってもらったんですよね。
 その時にパソコンをインターネットに繋いでホームページ作ったりとか、ブログ的なものを書いたりとか、それがゲームを作ることとちょっと似ていて楽しかったんです」

 元々テレビゲームも好きだった当時の山口氏は、ケガをきっかけにクリエイティブな仕事に就きたいという想いが芽生えた。

 この想いを胸に、大学ではゲームを作ることを専攻し、国民的RPGを手がける大手のゲームメーカーに就職。そこでプロデューサーとしてのいろはを学びながら、携帯電話のアプリやサービス、家庭用ゲームの開発に従事した。

 その後は、現在のアカツキで、様々なゲームのプロデューサーを歴任して数々のヒットを飛ばすこととなるのだが、その中の1つが『八月のシンデレラナイン』だ。

スマートフォンの人気野球ゲーム『八月のシンデレラナイン』はどのようにして生まれたのか? プロデューサー・山口修平氏 | 高校野球ドットコム
八月のシンデレラナインってどんなゲーム?
八月のシンデレラナイン 公式ホームページ
詳しい情報はこちらから↑

[page_break:『八月のシンデレラナイン』の大事にしている”リアリティ”とは?]

『八月のシンデレラナイン』の大事にしている”リアリティ”とは?

スマートフォンの人気野球ゲーム『八月のシンデレラナイン』はどのようにして生まれたのか? プロデューサー・山口修平氏 | 高校野球ドットコム
『八月のシンデレラナイン』の選手育成画面(デレスト)

 「ゲームで野球モノというと、プロ野球をリアルに完全再現!
とか、いかにもゲームらしい”魔球”
とかが飛び交う“ハチャメチャ野球”といったものが多いんです。

 ただ今回はより野球自体のリアルさや仕組みの面白さだけでなく、部活動を通しての青春ドラマを中心に描きたいという思いがありました。

 その際、男子がやることが多い硬式野球の世界をそのまま描くのではなく、あえて野球が好きな女の子たちを主人公に据えて、男子よりもっと困難な環境下で硬式野球や、部活動に向き合う姿を描いた方が、他にはあまりない題材だし、面白くなるのではと思い、今回の『八月のシンデレラナイン』の形がつくられていきました。」
と、制作の背景について語る。

 しかしなぜ“青春”だったのか。それには高校時代のケガが無関係ではなかったという。
 「部活を辞めてしまって少し後ろめたい想いというのがずっとありました。僕が辞めたあともチームメイトは大会で優勝するなど結果を残していて、やりきれなかったということにどこか気持ちの引っ掛かりがあったんです。心のどこかで、「ちょっと逃げてしまったなあ」という後悔があったんですよね。もしあの時そのままやっていたら・・・ということをよく夢に見ていたりしました。

 ただ、そういった想いを抱えている人は、スポーツはもちろん、青春時代に限らず、大人になってからでも、世の中けっこう多いんじゃないかと思っています。そんな人たちにゲームを通して、青春をもう一度追体験でき、そのストーリーから、目の前の困難に向き合う勇気をもらえたりしたら、それは、世の中にとってもいいものなんじゃないか…という思いがありまして。それで、“青春”をテーマにしました。」

スマートフォンの人気野球ゲーム『八月のシンデレラナイン』はどのようにして生まれたのか? プロデューサー・山口修平氏 | 高校野球ドットコム
野球が好きという気持ちを貫いてほしいと願った山口 修平氏

 その際に、大事にしたのがストーリー(実際のゲーム画面はこちら)とキャラクターの“リアリティー”である。
 「それがないと感情移入が難しくなってしまうと思うんです。野球の描写にこだわるというのもそうですし、選手自体が生きたキャラクターとして生き生き描かれているかということも重要だと思っています。」

 キャラクターだけでも30人がいる『八月のシンデレラナイン』だが、彼女たちはシニアの全国優勝経験者から、まったくの野球未経験者まで、様々な経歴の持ち主がおり、それぞれが、等身大の悩みや葛藤を抱え、それを乗り越えようとしている。そんな彼女達の中のどれかと自分の姿を重ね合わせることできるのではないか、と山口氏は考えている。

 また、4月からアニメ化されることについて山口氏はさらに手軽に物語に入り込めるようになると語る。
 「『八月のシンデレラナイン』は物語がすごく良いと言っていただいているのですが、ゲームという特性上、時間を使ってクリアしないと体験できない部分も多いんです。それが、テレビアニメという形になると物語を体験するハードルがすごく低くなる。誰でも簡単に『八月のシンデレラナイン』の世界を体験することができるようになるので、ぜひたくさんの人に見て欲しいですね。」

 ゲームの『八月のシンデレラナイン』も、これから始まるセンバツや夏の甲子園に連動する形でどんどん盛り上げていくとのこと。山口氏の創意工夫の日々は続いていくこととなるが、最後にメッセージをもらった。

 「全力で何かをやりきった後に残るものは、勝利という形じゃなくても絶対にあると思うので、野球が好きだという気持ちがあればそれを貫いてもらいたいと思っています。僕はできなかったので(笑)
 他の全てのことを捨て置いて好きなものに集中して取り組めるというのは、青春時代しかないと思うので、全力で楽しんでもらいたいです。」

 過去に挫折を経験し後悔を感じながら野球を続ける球児も、そうでない人も、その挫折をピンチと捉えるか、それともチャンスを捉えるか。捉え方1つでどのようにも活かせる。

 山口氏は自分の実体験からヒットゲームを生み出すことができた。1つ1つの体験が後になってプラスになるかもしれない。だから1日1日を全力で楽しむことが大事なのだ。

スマートフォンの人気野球ゲーム『八月のシンデレラナイン』はどのようにして生まれたのか? プロデューサー・山口修平氏 | 高校野球ドットコム
八月のシンデレラナインってどんなゲーム?
八月のシンデレラナイン 公式ホームページ
詳しい情報はこちらから↑

文=編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.04

【春季愛知県大会】注目の師弟対決の決勝、享栄が中京大中京を下して8年ぶり8回目の優勝

2024.05.04

1500人近くの中学生が肩肘検診を一斉に受ける!ポニーのお祭り行事・ポニーフェスタは今年も大盛況!

2024.05.04

【新潟】東京学館新潟、糸魚川がコールド勝ちでベスト16入り<春季県大会>

2024.05.04

【神奈川春季大会】東海大相模・藤田琉生が涙の1失点完投!昨秋準決勝で敗れた横浜相手にバットでもリベンジ果たす!

2024.05.04

【大阪】大阪桐蔭、大体大浪商などがベスト16で夏シード獲得、履正社は2年連続ノーシード<春季大会>

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.29

【福井】福井工大福井、丹生、坂井、美方が8強入り<春季県大会>

2024.04.29

【春季埼玉県大会】今年の西武台はバランス型!投手陣の完封リレーで初戦突破!

2024.04.29

東海大相模の149キロ右腕・福田拓翔が6回10奪三振の快投!「甲子園で150キロを投げたい」とセンバツV・健大高崎の石垣をライバルに!

2024.04.29

【石川】金沢、遊学館がコールド勝ちでベスト16入り<春季県大会>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>