エースは俺だ！神宮大会優勝投手へつなげた投球改革 西原健太（札幌大谷）
平成最後の明治神宮大会を制したのは初出場の札幌大谷だった。龍谷大平安、国士舘、筑陽学園、星稜といった甲子園出場校を撃破し、初の頂点へ。MVPといっていいのが、エース・西原健太だろう。強打の星稜打線を1安打1失点完投勝利。最後まで気持ちを崩すことなく、投げ切った姿はまさにエースだった。そんな西原の軌跡を振り返っていこう。
太田の快投が西原のハートを燃えさせた
好投を見せた西原健太（札幌大谷）
全国大会に勝ち上がるチームは前評判通りの実力を発揮するチーム、一戦ごとに力をつけていくチームの2つにわかれるが、今年の神宮大会決勝に勝ち進んだ2チームを見ると、星稜が前者で、後者は札幌大谷だろう。龍谷大平安、国士舘、筑陽学園といった強豪を打ち破り決勝戦まで勝ち進んだ。その中で神宮大会で巻き返しに燃えていたのがエース・西原健太である。全道大会では防御率4点台と悔しい結果に終わった。
その立て直しのため、神宮大会まで期間が空いたので、札幌大谷大の監督である神田幸輝氏の元でフォームの修正に励んだ。神田氏はJR北海道のエース右腕として活躍し、2007年には4強に導く活躍を見せた北海道野球のレジェンドと言っていい存在。そんな神田氏から指摘されたことは軸足の使い方だった。
「自分は軸足の膝が前に折れすぎる癖があって、突っ込み気味だったんです。そのため、軸足の膝の折り曲げを緩和させて、軸足を後ろに残して、体重移動することにこだわりました。以前は、リリースポイントが安定せず、高めにいったり、低めにいったりしていました。北海道大会では、ストレートが全くダメだったので、打たれて、変化球を投げても、ストレートがダメなので、見極められました。良いストレートを投げるために取り組んできました」
フォーム修正は実り、龍谷大平安相手に7回まで5失点。守備の乱れもあり、自責点は1だった。だが、西原は「僕が大事なところで踏ん張れなかったところが課題です」と、仲間をかばい、そしてこう告げた。
「みんな神宮球場に慣れたと思うので、もっと良いプレーを見せてくれると思います」
その言葉通りだった。準々決勝以降の札幌大谷の選手たちの打撃、守備は見違えるものだった。迎えた決勝戦。燃える気持ちは人一倍強かった。それは準決勝で8回まで無安打に抑えた太田流星の存在があった。
「一塁で太田のピッチングを見て、すごいと実感しましたし、決勝では自分がしっかりと投げないといけないと思いました」
[page_break決勝戦で最高のピッチング でも大事なのはここから]決勝戦で最高のピッチング でも大事なのはここから
西原健太（札幌大谷）
先発マウンドに登った西原。その投球内容は「エースは俺だ」と言わんばかりのピッチングだった。
初回から二者連続三振。常時135キロ前後のストレートは回転数が高く空振りが奪える。同じ腕の振りからスライダー、カーブ、チェンジアップを投げ分け、神宮大会で強打を発揮していた星稜打線のバットを沈黙していた。特によかったのは左打者へチェンジアップ。西原自身も「左打者へのチェンジアップがしっかりと投げられたことが良かったです」と語れば、星稜の林監督も「対策はしてきたんですけど、チェンジアップが良かったです」と、チェンジアップが効力を発揮した。
マックスは140キロを計測。打席に立った星稜・奥川恭伸は「ストレートは結構手元できていましたし、球質が重かった」とストレートの威力の高さに苦しんだ。西原も球威あるストレートに投げられたことに手応えを感じている。
「自分は切れのあるストレートが投げられないので、球威あるストレートを投げることにこだわりました」
5回表、スクイズで1点の先制を許したが、それでも西原は落ち着いていた。7回裏逆転に成功。西原は喜ぶことはなく、「目の前の打者を1人1人抑えることに集中しました」と集中力を途切れることなく、打者を抑えた。迎えた9回表、二死一塁から5番奥川を二ゴロ併殺に打ち取り、試合終了。見事に胴上げ投手となった。
1安打1失点完投勝利。「まだ優勝の実感がないです」と正直な気持ちを話してくれた西原。神宮大会でも背番号1をつけさせてくれた船尾 隆広監督の期待に見事にこたえた。
小学1年から投手をはじめ、親の勧めで、札幌大谷中に入学し、札幌大谷高へ進んで実感したのは指導者の実績だ。船尾監督は社会人野球・新日鉄室蘭、室蘭シャークス、NTT北海道で活躍し、都市対抗には13回、日本選手権には7回出場するなど、北海道のアマチュア野球のレジェンド。
大学には前述したように、社会人野球で活躍した神田監督、そして部長の五十嵐大先生は高校時代、駒大苫小牧で夏連覇（2004年、2005年）を経験した三塁手だ。五十嵐先生からは田中将大投手のエピソードを交えながら、メンタルの重要性を話してくれた。西原は「監督さんなど札幌大谷にはすごい実績がある指導者がいて、僕に対して親身にアドバイスしていただいたり、指導をいただきました」と指導に対しての恩を忘れない。
優勝した札幌大谷だが、西尾監督は「勘違いせず取り組みたい」と話すように、大事なのはこれからも自覚をもって取り組めるかである。西原ももちろん「今のままではだめなので、これからグラウンドが使えない期間になりますけど、それをマイナスと思わず、しっかりと下半身を強化して、今よりもレベルアップを遂げたいです」とレベルアップを誓ってくれた。
札幌大谷期待の大器がようやく開花を予感させる投球を見せてくれた。来春の選抜でその素質が完全開花したとき、甲子園の舞台でも大観衆を魅了させるピッチングに見せてくれるに違いない。
取材＝河嶋 宗一
