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ケガの応急処置~冷やす、温めるの判断とは

2018.07.31

ケガの応急処置~冷やす、温めるの判断とは | 高校野球ドットコム

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 夏の地区大会も終わりましたね。甲子園出場を決めたチームの皆さん、おめでとうございます。そして新チームとして始動している選手の皆さんは、すでに秋の大会に向けて練習を始めていることと思います。野球に限らずスポーツを行っている以上、突発的なアクシデントは避けられないものもあるのですが、ケガをした時に行う応急処置や冷やす、温めるの判断について、おさらいをしておきましょう。

基本は「患部を冷やす」

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デッドボールや接触プレーによるスポーツ外傷はまず患部を冷やす

基本は「患部を冷やす」

 スポーツをしている時に起こるケガは、突発的に起こる「スポーツ外傷」と慢性的にだんだん痛くなる「スポーツ障害」に分けられます。予測がたてられないケガの多くはスポーツ外傷であり、デッドボールや選手同士の交錯、フェンスへの激突等、アクシデントによってケガをしてしまうものです。
 こうしたケガは時間の経過とともに痛みが出て、患部が腫れたり、内出血が見られるといった炎症症状がみられます。このような場合はまず氷などを使って患部を冷やすRICE処置を行いましょう。患部を冷やすことによって出血量を抑え、炎症症状をこれ以上拡げないようにします。炎症が拡がってしまうと、傷んでいない部分まで細胞の状態が悪くなってしまうのでそれを防ぐ目的があります。またケガの急性期と呼ばれる期間(48時間〜72時間程度)についても一般的には患部を冷やして炎症を抑えるようにします。

冷やすデメリットとは

 患部を冷やすと当然のことながら血流は抑えられるので、内出血や腫れなどの炎症症状を拡げないことに貢献します。一方で患部を冷やすことによるデメリットもあります。その一つは「冷やした部位の動きが悪くなってしまう」こと。患部だけではなくその周辺部の関節や筋肉、神経などもあわせて冷却してしまうため、動きが悪くなってしまったり、感覚が鈍くなってしまったりといったことが起こります。
 そしてもう一つは「アイシングはケガの修復速度を遅らせる」ということ。血流が抑えられるということは、傷ついた細胞に必要な酸素や栄養素を送り届けるのに時間がかかってしまうということです。細胞の新陳代謝をうながし、患部の状態をよくするためにより時間がかかってしまうため、急性期を過ぎたら冷却から温熱へと対応を変えていくことが一般的です。ただしケガの状態にもよりますので、自分で自己判断せず、医療機関で診察を受けて医師に相談するようにしましょう。

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急性期を過ぎたら温める

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患部を温めるためには全体でのウォームアップだけではなく、個別にも行いたい

急性期を過ぎたら温める

 ケガの急性期が過ぎると炎症症状もおさまってくると考えられるため、状態を確認しながら患部を温めるようにしていきます。冷却を中心に応急処置を行っていた場合は周辺の筋肉や関節の動きが悪くなっていますが、温めることで患部周辺の血流を改善し、動きやすくしていきます。特に関節可動域(関節の動く範囲のこと)がもとの状態まで戻るように改善していくことが大切です。また温めることは損傷した組織を再生する手助けとなりますので、医師の指示の元に行うようにしましょう。およその目安としては、患部に熱感がないこと、腫れや内出血の程度がおさまってきていること、運動をしていない状態では痛みがないことなどが挙げられます。

 実際に患部を温める方法としては入浴や蒸しタオルなどを使って体の外から温める方法と、ウォーミングアップ等を十分に行って体の中から温める方法があります。練習前であれば全体練習前に各自で個人アップを行い、体温や筋温を上げるように心がけましょう。また患部周辺の筋肉などを軽くほぐす、ストレッチを行うことは筋肉の柔軟性が高まるだけでなく、血流も良くなりますのでオススメです。練習後、痛みをあまり感じないようでしたら入浴や蒸しタオルなどで患部を温めましょう。蒸しタオルは濡らしたタオルをしぼり、電子レンジで1分〜2分程度温めると素早く準備できます。

迷ったら冷やす

 お風呂の温度を調節し、水風呂に近い状態で入るようにすると一気に体を冷やすことができます。温かいお湯との交互浴を行うと全身の血流をうながし、疲労回復効果も期待できます。暑くて体全体に熱がこもっているように感じるときは、入浴のタイミングで体を冷やすこともオススメです。ただし入浴後に寒気を感じ、体調を崩すことのないように配慮が必要です。クーラーなどの冷気に直接当たらないことや、温度設定(外気温との差を5℃以内)を確認し、体を冷やしすぎないように注意しましょう。

 慢性的な肩の痛みや肘の痛みなど、野球によくみられるスポーツ障害は筋肉の柔軟性が低下していたり、関節などの動きが悪くなっていたりといったことでも起こりやすいと考えられます。そのため患部を温めて動きをよくするように対応することも多いのですが、痛みがある場合は痛みによる炎症があると考えて冷やすようにしましょう。また冷やすか温めるかで迷った場合は、冷やしておくほうが患部の状態を「これ以上悪くならないようにとどめる」ことにつながります。

 「冷やす」と「温める」の境界線はケガをしてからの経過時間や、ケガの程度などによって判断することになりますが、わからない場合は応急処置としてのRICE処置を行い、専門家の指示を仰ぐようにしましょう。

【ケガの応急処置〜冷やす、温めるの判断とは】
●突発的なアクシデントによる「スポーツ外傷」は応急処置としてまず冷やす
●ケガの急性期期間(48時間〜72時間程度)は炎症を抑えるために冷やす
●患部を冷やすデメリットは「動きが悪くなること」「ケガの修復速度が遅くなってしまうこと」
●急性期を過ぎたケガは痛みや腫れの状態を確認し、温めるようにする
●温める方法は体の外から(入浴・蒸しタオル等)と体の中から(ウォームアップ等)がある
●冷やすか温めるかで迷った場合は「冷やす」

次回コラム公開は8月15日を予定しております。

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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