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八千代松陰(千葉) 選手同士の会話が生んだ結束力【前編】

2018.05.11

 今夏、千葉県は、第100回記念大会として、西千葉、東千葉に分かれて大会が行われる。そしてちょうど20年前の第80回記念大会で、東千葉代表として、甲子園出場を果たしたのが八千代松陰である。

 当時は、多田野数人投手(元石川ミリオンスターズ、北海道日本ハムファイターズで通算16勝)が防御率0.23と圧巻のピッチングで甲子園に導いたが、今年は最速145キロ右腕エース・清宮虎多朗を擁し、20年ぶりの甲子園出場を目指す。昨秋の県大会でベスト8入りし、今春は地区予選免除で県大会出場のシード権を得た八千代松陰に躍進のきっかけ、今後の課題を聞いた。

選手間のコミュニケーションと監督の合致

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八千代松陰 主将の笹川快渡

 現在の八千代松陰を率いるのは兼屋辰吾監督。沖縄出身の兼屋監督は沖縄尚学時代に比屋根渉選手(現・東京ヤクルトスワローズ)とともに甲子園出場。その後、筑波大に進学し、八千代松陰中学校での顧問生活を経て、昨年春から八千代松陰の監督に就任。まだ高校野球の監督は2年目という若き指揮官の下、チームはまとまってきた。

 新チーム当初、兼屋監督が秋に勝ち進むため、145キロ右腕・清宮を中心としてチームを作り上げた。

 「清宮は春からメンバーに抜擢した投手で、練習試合でも好投を見せて、昨夏も起用しました。清宮を軸に守り勝つ野球がベストかなと思いました」

 もちろん打撃力をアップさせるという案もあった。ただ新チームスタートでは、守備力を鍛えたほうが秋は勝てるという考えは指揮官だけではなく、選手たちも合致した。

 兼屋監督が「特進クラスで、学力も高く、話すことができる選手。主将として選手と私の板挟みになることもあると思いますが、しっかりとやってくれています」と絶大な信頼を置くのが主将・笹川快渡。笹川は「清宮も良い投手ですし、まずは我慢して、我慢して、守り勝とうとチームメイトと話し合いました」

 

 笹川は選手たち同士の話し合いを最も大事にしている。笹川が主将に就任してから話し合いの時間は前チームと比べるとだいぶ増えた。たとえ短い時間でも、話さない日はほとんどない。その意図について笹川はこう話す。

 「うちの学校は平日の最終下校が19時。休みの日もそんなに長くありません。だからなんとなく過ごしているようでは、練習時間も長い強豪校と比べるとあっという間に差をつけられてしまいます。だから練習の目的を一個一個確認して、練習を進めていくようにしています」

 こういう選手との対話は笹川の役割。守備を鍛えなければならないというのは兼屋監督の方針であったが、その認識を強くさせたのは選手同士の話し合いだった。

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守備強化で掴んだたしかな結果

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秋季大会の様子(習志野戦)

 そして夏休みの練習は、ノックが中心。ただその中身は兼屋監督が打つノックではなく、選手が打つノック。スタンドティーを置いて、選手は全力でゴロを打つ。いわゆる実弾ノックで、選手の打撃練習も兼ねてやるものだった。効果てきめんで、堅守の遊撃手・長岡(2年)も「打球は速いし、一定して転がる打球は来ないし、予測もできないし、数も多いですし、下半身がふらふらになりましたけど、それでもだいぶ打球が捕れるようになったと思います」と効果を実感する。

 「どこにも負けない守備ができたと思います」と主将の笹川が語るように、八千代松陰の戦いぶりはしぶとかった。地区予選の初戦・千葉英和戦から延長再試合。再試合の末、代表決定戦へ進出した。笹川は千葉英和戦の状況をこう振り返る。

 「延長になっても自分たちに焦りはありませんでした。点を与えなければいい。そして点を与えず、何回でもやれる自信が僕たちの中にありました」

 そして地区予選を勝ち抜いて、県大会でもその戦いぶりは変わらなかった。1回戦の館山総合戦でも延長12回を制し、初戦突破。2回戦の千葉工戦も、清宮が登板せず、右サイド・広瀬啓(2年)、技巧派左腕・佐藤圭悟(2年)の好投で、2対0と完封勝利。

 「広瀬、佐藤が本当に頑張ってくれました。秋の躍進は2人の活躍が大きかったと思います」と笹川主将も称える力投を見せ、3回戦に駒を進めると、3回戦では志学館と対戦。

 エース・清宮が2失点完投勝利で、ベスト8進出を果たした。そして準々決勝・習志野戦。0対2で敗れてしまったが、いずれもロースコアで勝ち抜けたのは、エース・清宮虎多朗を筆頭にした投手力の高さと共に、「習志野打線はめちゃくちゃ打球が速いんですが、そういう打球に対してもしっかりと対処してくれて、だいぶ助かりました」と清宮が答えるように夏からずっと鍛えてきた守備力があったから。県内屈指の強力打線に対しても守れるチームとなった。

 兼屋監督も「どうしても、秋は打力がないので、どうしても守り勝つチームになってしまいますが、それでも夏から鍛えてきた守備力というのは発揮できましたし、エース・清宮も夏まで変な崩れ方をすることが多かったのですが、本人の中で我慢して投げることを覚えて、試合の中で崩れることがだいぶ少なくなりました。守備力の面で成果があった秋の大会だったと思います」と成果が出たことに手ごたえを感じていた。

 後編では秋季大会で浮き彫りになった課題に対して、どういった形で取り組んでいったのか。その意図や考えを中心にお話を伺っていきました。

(文=河嶋宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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