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いなべ総合学園と菰野の公立勢が競い、2014年準優勝の三重高と津田学園も【三重・2018年度版】

2018.05.12

四日市が起こした奇跡から始まる三重県の歴史

いなべ総合学園と菰野の公立勢が競い、2014年準優勝の三重高と津田学園も【三重・2018年度版】 | 高校野球ドットコム
奇跡の優勝と語られる四日市

 歴史的には、第1回全国中等学校野球優勝野球大会に山田中(現宇治山田)が栄えある東海地区初代表になっている。しかし、以降は代表を出なかった。夏はもちろんのこと、春の代表もなく、三重県勢が次に甲子園に姿を見せるのはなんと1947(昭和22)年春の富田中(現四日市高)まで待つことになる。その富田中にしたところで2対22というとんでもないスコアで負けているので、三重県としては、低迷状態が続いていた。

 戦後になって夏の東海大会は愛知県が独立して愛知大会となるので、岐阜県と三重県とで争う三岐(さんぎ)大会で争うということになった。しかし、実質は岐阜県勢にすれば当時は三重県からどこが出てこようが、眼中になかったというのが正直なところではなかったかという印象だ。

 というのも、わずかに1度だけが1953(昭和28)年に代表になっているだけだからだ。しかし、そんなも甲子園では善戦はしたもののまたしても勝利はならず、宇都宮工に1対2で惜敗する。いずれにしても甲子園未勝利県のままだった。

 そんな三重県代表が甲子園初勝利を果たしたら、そのまま優勝してしまったという奇跡が起きたのがその2年後の夏だった。高橋正勝投手(読売)を擁して、夏の大会初出場を果たした四日市は、初戦の芦別に勝って勢いづいた。準決勝では、当時は地元ではとても相手にならないと思われた中京商に6対1と快勝。当時の資料を見ても、高校野球の歴史に残る奇跡の優勝であるというような表現が目立った。

 この年は和歌山新宮(和歌山)に前岡勤也という凄い怪物投手がいるという評判だったが、事実上の優勝戦といわれた試合で、その和歌山新宮を中京商がバント攻撃で攻略。ところが、その中京商があろうことか四日市に足元を救われてしまったのである。まさに勝負は水物であるということを改めて思い知らせた四日市の快挙だった。

 一発屋的な印象も残した四日市だったが、この後再び甲子園に姿を見せるのは、干支が一回りした12年後である。そして、その後は現在まで甲子園出場はない。

[page_break:三重と海星の台頭に食らいつく四日市工]

三重と海星の台頭に食らいつく四日市工

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海星と三重のライバル校

 四日市の快挙はあったものの、それが即、三重県そのものの高校野球のレベルアップにはならなかったようだ。その後の三重県勢はまたも三岐大会で勝つことに窮するようになる。甲子園出場は1県1校の記念大会の年頼りだった。わずかに松阪商が抵抗を見せていた程度である。

 三重県の低迷に刺激を与えたのが、愛知の名門・愛知中京の兄弟校として梅村学園が松阪市に設立した三重高だった。校訓も愛知中京と同じ“真剣味”で、創立は61年だが、甲子園初出場は創立5年後の春である。ユニフォームも胸文字こそ違ってはいるが、愛知中京のそれと非常に似たデザインと雰囲気だった。ストッキングも愛知中京と同じ紺に白の3本線というものだった。

 三重が全国に存在を示したのは、初出場から3年目の春だった。開幕戦で和歌山県の和歌山向陽を抑えると、以降も試合ごとに調子が上がっていくかのようでもあった。そして、決勝では堀越を12対0と圧倒的なスコアで倒して初優勝を飾った。これで三重県勢も強いぞということを十分に知らしめた。

 この頃から、三岐大会でも五分五分からむしろ三重県のほうが上というようになってきた。

 その背景にはライバルの出現もあった。カトリック系の男子校・海星である。海星は65年夏に初出場。2度目の出場となった72年には皮肉にも同校名の長崎県の長崎海星と対戦することになる。甲子園ではキャリアの古い長崎に及ばなかったものの、その17年後、再度長崎・長崎海星と対戦となった試合でしっかりとリベンジしている。

 こうして三重海星が県内をリードしていった。そこに三重明野が割って入ってきた時代もあったが、存在を示したのが尾崎英也監督率いる四日市工だった。井手元健一郎投手(中日→西武→JR東海)で甲子園初出場。3回戦の松商学園との延長16回の死闘は、死球で押し出しの負けという結末だったが、全国に四日市工の存在は十分に知らしめた。そして、その後も毎年のように好投手を輩出。99年には明治神宮大会で優勝して、全国区としての力も示した。

[page_breakいなべ総合と菰野の登場に加え、宇治山田商などの南勢地区の健闘]

いなべ総合と菰野の登場に加え、宇治山田商などの南勢地区の健闘

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台頭してきた、いなべ総合と菰野

 尾崎監督は06年から、統合で新校となったいなべ総合学園に異動。早速環境整備から始めてのチーム強化となったが、10年夏には初出場を果たした。その指導力は評価されたが、その後は甲子園まであと一歩に何度も迫りながらも苦悩が続いた。そして、15年の秋季東海大会で県3位校からの躍進で準優勝。悲願の春初出場を決定づけて感涙にむせぶということもあった。

 今やいなべ総合の一番のライバルともいえる存在が、同じ公立の実業系の菰野だ。戸田光信監督が一貫して指導をし続けており、05年夏、08年夏に甲子園出場。13年春にも出場を果たした。西勇輝(オリックス)など、毎年のようにプロ候補の投手が育成されることでも定評がある。

 また、三重高もその間にもコンスタントに実績を残していた。そして、3季連続出場となった14年夏には初戦で延長の末に広陵を下すと大垣日大、熊本城北、沖縄尚学日本文理を下して決勝進出。大阪桐蔭には敗れたものの三重高健在ぶりを示した。同市内の松阪も12年夏には甲子園出場を果たしている。

 他には03年夏に25年ぶりに復活した宇治山田商皇學館伊勢工なども南勢地区では健闘している。
 90年代には桑名西も春ベスト4になるなどの実績を残している。桑名市勢としては津田学園も96年春に出場を果たしている。その後はやや低迷していた津田学園だったがPL学園出身で明治大から日本通運を経て08年に就任した佐川達朗監督がチーム再建。17年夏に出場を果たしている。

 他には98年春と04年夏には鈴鹿が甲子園出場を果たした。鈴鹿は愛知県の強豪享栄学園の系列校として設立され、その後、鈴鹿享栄学園として学校法人が分離独立した学校である。

 15年夏には津商が悲願の初出場。甲子園でも強豪の智弁和歌山を下すなどの大健闘だ。勢力構図的にはやや苦戦していた中勢地区としては、21世紀枠校の候補として推薦され近年は上位進出の多い津西とともに地元の期待は高い。

(文:手束 仁

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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