明豊vs聖心ウルスラ
明豊打線、145キロ右腕・戸郷を終盤に攻略し、ベスト8へ!
143キロを計測した戸郷翔征(聖心ウルスラ)
春季九州大会2日目。[stadium]小郡市野球場[/stadium]では大分県の春王者・明豊と宮崎県の春王者・聖心ウルスラが激突。高校通算36本塁打を放っている濱田 太貴(3年)を中心に巧打者が揃う明豊打線と、プロ注目の聖心ウルスラエース・戸郷 翔征(3年)の対決に注目が集まった。
この試合、明豊は戸郷攻略へ球数を投げさせる作戦に出た。明豊の川崎 絢平監督にゲームプランと作戦の意図を聞いてみよう。
「うちは後半勝負で、ロースコアで競り勝つことを考えていました。相手の戸郷君は本当に良い投手。特にスライダーは大分県内ではお目にかかれないものがあり、低めのスライダーに対しては『振るな』と指示しても、振ってしまうほどの切れがあります。ただ投球フォームを見るとスタミナが落ちやすい投げ方でしたので、球数を投げさせれば、後半でチャンスが巡ってくるかなと思いました」
明豊打線はきわどいコースを見逃し、粘り打ちで投げさせる。1回は17球、2回には27球を投げさせ、作戦をしっかりと遂行させる。
試合が動いたのは4回表。明豊の5番・川野 大樹(3年)が中越え三塁打を放ち、その後、聖心ウルスラのバッテリーミスの間で1点を先制する。
聖心ウルスラもすぐに反撃。その裏、バッテリーミスで同点に追い付くと、6回裏には一死一、二塁から5番園田 玲久(3年)の適時二塁打で勝ち越しに成功。戸郷も球数を投げさせられながらも、最速143キロを計測したストレートに加え、変化球も125キロ前後の縦横のスライダー、130キロ近いカットボール、130キロ台のスプリットと多彩な球種を投げ分け、7回まで1失点に抑えた。
それでも明豊・川崎監督に焦りはなかった。「1点、2点のリードは問題なかったです。後半勝負だよと選手に言い聞かせました」。そして8回表、ついに「その時」が訪れる。
逆転の適時打を打った大平晃也(明豊)
球数が100球を超えた戸郷に対し、2番伊谷 幸輝(3年)が中前安打。3番濱田も左前安打。無死一、二塁。その後、二死二、三塁とすると6番大平 晃也(3年)が値千金の中前2点適時打で逆転に成功。さらに9回表も2番伊谷の適時二塁打が飛び出した。
この終盤、戸郷は1イニングに3~4球は140キロを記録していた序盤と比べると、ストレートも130キロ前半~130キロ後半まで落ちており、得意のスライダーも高めに浮いていた。そこを見逃さなかった明豊の作戦、2イニングで6安打を放った打線の集中力は見事といえよう。
もちろん、この逆転劇を支えた明豊投手陣の好投も特筆すべきもの。先発の寺迫 涼生(2年)は、左腕をぐっと高く掲げ、真上から振り下ろすオーバーハンドから常時135キロ前後の速球と縦横のスライダー、チェンジアップを投げ分け、6回まで2失点。4回裏には最速142キロを計測するなど、力がこもった投球を見せた。
2番手・前田 力(3年)のあとを受けてマウンドに登った3番手・大畑 蓮(2年)も183センチ65キロと長身の右の本格派らしい、しなやなかな腕の振りから繰り出す常時130キロ前半~136キロのストレート、スライダーを低めに集め力投。9回裏、聖心ウルスラの4番馬﨑 航太(2年)の適時打で1点を返されるが、6回裏に適時打を打った5番園田を右飛に打ち取り、明豊が4対3で準々決勝進出を決めた。
川崎監督は「ロースコアの接戦を制するのは前からやりたかったことで、戸郷君のような好投手から打ってこの勝ち方ができたのはうれしいですし、選手たちも自信になると思います」と試合内容を高く評価。2年連続の夏の甲子園出場を目指す明豊にとっては自信になる1勝だった。
対して、敗れた聖心ウルスラのエース・戸郷。「明豊打線は、変化球もなかなか振らないですし、投球の組み立てで苦労しました。まだ自分は県外の強豪校に通用しないことが分かりましたし、修正課題が多く見つかりました。4失点したことは悔しかったですけど、こういうチームと対戦できたことは楽しかったですし、夏へしっかりとつなげていきたいです」と悔しさをあらわにしながらも夏へ向けて気持ちを切り替えていた。
(文・写真=河嶋 宗一)