3年生座談会 大冠高等学校(大阪)「27年ぶりの公立校Vに挑んだ夏」【後編】
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今夏の大阪大会を振り返った際、公立校の大冠(おおかんむり)高校の躍進を思い浮かべる高校野球ファンはきっと多いに違いない。力強い打撃を軸にしたチームカラーで強豪私学を次々と撃破。公立校としては実に19年ぶりの決勝進出を果たした。甲子園切符をかけた一戦では大阪桐蔭と壮絶な打撃戦を演じた末の惜敗。センバツ王者をあと一歩のところまで追いつめた戦いざまは強烈なインパクトを残した。
今回は決勝戦のスターティングメンバーに名を連ねた7名の大冠戦士が恒例の3年生座談会企画に登場。2017年の熱い夏を中心に振り返ってもらった。
「今日はよろしくお願いします!」
座談会の会場となった放課後の教室。元気な挨拶と共に登場した7人の大冠戦士。その顔ぶれは以下の通り。
飯隈亮太(1番・セカンド)
寺地広翔(2番・ショート)
冨山翔也(3番・サード)
辻晃志(4番・ファースト)
猪原隆雅主将(5番・キャッチャー)
金栄健(7番・センター)
丸山惇(9番・ピッチャー)
※カッコ内は決勝戦時の打順及びポジション
公立校として19年ぶりの決勝進出!
辻 晃志(大冠)
――しかし、大阪大会はまだ道半ば。5回戦の相手は二年前に準決勝で敗れた大阪偕星でしたが、3対2で接戦を制し、ベスト8入りを決めました。
飯隈:ヒット数は相手が10本でうちが5本。よく勝てたなと思います。
寺地:チャンスも少なかった。向こうのエースが出てきてからヒット0本やもんな。
――先制ソロホームランと決勝タイムリーを放った4番・辻選手の勝負強い打撃が光りました。
辻:たまたまです。
一同:謙虚やなぁ(笑)。
――準々決勝では同じ公立の春日丘を10対0で退け、ベスト4進出。飯沼選手に本塁打が出ましたね。
飯隈:ここまで勝ち上がってきたチーム。絶対に油断は禁物だと思いながらプレーしていました。
――2日後に行われた上宮との準決勝では丸山投手が上宮打線を1失点に抑える完投勝利。公立校としては1998年の桜塚以来、実に19年ぶりの決勝進出。相手は大阪桐蔭に決まりました。
冨山:正直いうと、履正社がきてほしかったです。練習試合でも勝ってるので。
金:エースの竹田(祐)が連投で疲れてるだろうし、履正社来いと思ってましたが、桐蔭がきた。やっぱり来たなと…。
――決勝の舞台に臨む際の心境を振り返っていただけますか?
飯隈:自分たちのペースに持ち込み、打線全体を活気づけるためにも、1番を打つ自分が初回から出塁したいなと強く思いました。とにかく、ここまできたらやるしかないなと。
寺地: ぼくらは小技を駆使して1点を積み重ねるチームじゃないので。ヒットを連ねてビッグイニングを何度か作りたいと思っていました。
冨山:大差のスコアで敗れてしまうと、ぼくたちが勝ってきたチームに申し訳ない。一方的な展開で敗れることだけはしたくないという気持ちが強かったです。
辻:乱打戦に持ち込めたら勝機は十分あるんじゃないかと思っていました。先発はエースの徳山(壮磨)ではないかもと思いましたが、出てきましたね。
猪原:試合前のシートノックを見ていて、個人の能力で比較されたら勝てないなと思いました。でもチームとして戦うことを考えたら、負ける気はしなかった。絶対に勝てるという気持ちで入っていきました。
金:日程がつまっていたせいか、観客が多い練習試合みたいな感覚で決勝を迎えられたんです。あまり緊張することがなかったので自分にとってはいい感覚でした。
丸山:相手は春の全国優勝チーム。自分の投球がどこまで通用するのだろうかという思いが拭えなかったです。
大阪大会決勝プレイバック
寺地 広翔(大冠)
――試合は、2回に1点を先制されたものの3回表に2本の2点タイムリーで一挙4点を奪い、逆転に成功しました。
寺地:チャンスを作れてしっかり点に結びつけられたので。ここからまだまだいけるぞ、もっと点とれるぞ!という雰囲気でしたね。
辻:立ち上がり、徳山のボールがあまり来ていないという情報がベンチで飛び交った時は「いけるかも!」という雰囲気になった。
猪原:やはり前日に履正社相手に完投してたこともあって、ストレートがぜんぜん来ていなくて。本調子ではなかったけど、アウトコースへのコントロールなどはやはりいいなと。
丸山:むこうは3点差なんて点差のうちに入らないと思っていそうだったので、とにかく四球でランナーをためて自滅しないようにと心がけました。
――大阪桐蔭打線の迫力は感じましたか?
丸山:感じましたね。モノが違うなと。
――猪原くんは丸山投手をリードする上でどういった点を心がけていましたか?
猪原:いいバッターが揃っているからと外角中心の配球をすると打たれてしまうと思ったので、とにかく思い切ってインコースを真っすぐでついていこうと。攻めた結果打たれたら仕方ないなと。ゲームの前半はこの攻め方がいい感じに作用したと思います。
――5回には二死満塁から二者連続押し出し四球で同点に追いつかれてしまった。
猪原:序盤は低めのボールになる変化球に手を出してくれたんですけど、5回あたりはローボールは完全に捨ててる感じで振ってくれなくなりましたね。四球になるのもいやですが、甘く入ったら長打を食らいますし。難しかったです。
――6回には大阪桐蔭の藤原恭大選手にソロ本塁打が飛び出し、勝ち越されてしまいました。
一同:あのホームランはえぐかった。
丸山:1回に藤原から三振が奪えたので、自分の球でも通用するんじゃないかと調子乗ってたら打たれました。
猪原:アウトローに構えていたのが内に入ってしまった。甘かったらこの打線には打たれて当たり前と思っていたので、そこまで気持ちが下がることはなかったです。
――8回裏に5点を奪われ、スコアは4対10。「大冠もここまでか…」という空気が球場に流れた感がありましたが、ベンチの雰囲気はどのようなものだったのですか?
金:まだ終わりじゃないぞと。あきらめなかったらなにが起こるかわからないぞという空気でしたね。
――結果的には怒涛の攻撃で4点を奪い、2点差まで迫った。あとワンアウトでゲームセットの場面でタイムリーを放った猪原くんの食らいつくような打撃も強く印象に残りました。
猪原:みんながつないでくれて。甲子園でキャプテンが最終打者になるシーンをよく見るので、一瞬そのことが頭をよぎったんですけど、いざ打席に入ったら、打てないかもなんて気持ちはすべて消えて。ここで打つんだという気持ちだけでしたね。
大冠戦士としての3年間を振り返って
冨山 翔也(大冠)
――最終スコアは8対10。1990年の渋谷以来、27年ぶりの公立校Vにはあと一歩及びませんでしたが、春の王者を最後まで追いつめた見事な戦いぶりでした。
寺地:やりきった感じはありました。
飯隈:やり切った感はあったので悔いはなかった。
冨山:負けたときはやりきったと思ったんですけど、甲子園大会を見に行ったらやっぱり出たかったなぁと。
辻:僕は最終打席で打てなかったので悔いしかなかったです。最終回のあの好機で打ちたかったです。
金:ぼくは最終打者になってしまったので…。つなぐ意識を持って打席に入りましたが、ホームランを狙うくらいの意識でいけばよかったという悔いがあります。
丸山:5回の2つの押し出しがなかったら自分たちが大阪桐蔭の立場だったかもしれないと考えてしまいましたね。
猪原:監督は「このチームなら絶対に甲子園にいける!」とずっと言ってくれていました。
「公式戦は負けたら全部監督のせいや」と言わはるんですけど、実際にプレーしてるのは僕らなので。勝って監督の言葉を証明したかったという思いはあります。
――最後に大冠野球部で過ごした3年間を7名全員に振り返ってもらった。
飯隈:入学した時に比べたら野球の面でも普段の生活面でも成長できたと思う。最後の大会でスタメンメンバーとして決勝まで勝ち進めたことは嬉しかったです。
寺地:入った頃に比べたら野球の技術面も含め、いろんな面で成長できた。今後に生きる三年間でした。
冨山:入学した時に理想としてた自分に近づけたかなと思います。特に人間性の面で大きく成長できた気がします。
辻:試合で結果を残せたのは朝早い時間からティーなどの練習に付き合ってくれた仲間のおかげ。チームメートにはものすごく感謝しています。最高のチームです。
猪原:1、2年生の時はチームをまとめることなど考えず、上級生に任せっぱなしで、自分のことだけ考えて野球をやっていればよかった。でも、キャプテンという立場になって、そういうわけにもいかなくなり、負担は感じた1年でしたが、いいメンバーに恵まれて野球ができたなという気持ちはキャプテンを務めたことでさらに強まった。ついてきてくれた仲間たちには感謝したいです。
金:大冠野球部に入るまでは野球は大人に指示されて動くものという感じだったのですが、高校では自主的に練習をすることができるようになり、その分、技術の向上幅も大きかった気がします。野球人として大きく成長できた3年間でした。
丸山:入部した時はベンチ入りできれば上出来だなと思っていた自分が決勝の舞台で1番をつけて先発マウンドに上がることができた。でもそれはチームメートのおかげ。みんなには感謝したいです。
大学進学後も野球を続ける予定の7人。大冠野球部で培った考え方、技術を幹とし、大好きな野球と向き合う日々はまだまだ終わらない。
(構成/服部 健太郎)
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