安田尚憲(履正社)のホームラン論「正解論はない。ただ強く振ることは大前提」【後編】
10月26日、ドラフト会議にて競合の末、千葉ロッテマリーンズからの1位指名が決まった履正社・安田尚憲選手。高校通算65本塁打を記録した超高校級スラッガーに「ホームラン」のインタビューテーマをぶつけるべく、大阪府茨木市に位置する履正社高校野球部グラウンドを訪ねると、188センチ95キロのボディを誇る、ビッグな17歳が柔らかい笑顔とともに出迎えてくれた。
「『ホームランを打とう!』という特集に掲載するインタビューなんですね。わかりました。今日はよろしくお願いします!」
後編では、更なるバッティングのポイント、そして高校球児へのメッセージを語っていただきました。
■安田尚憲(履正社)のホームラン論「振ってから回す」【前編】から読む
「ホームランを狙う」という感覚はない
安田尚憲(履正社)
――球界では「ホームランはヒットの延長」とおっしゃる方もいれば、「ホームランは狙って打つもの」「ホームランの打ちそこないがヒット」とおっしゃる方もいます。安田選手はどちら寄りの考え方ですか?
安田尚憲選手(以下、安田):ぼくの中で「ホームランを狙う」という感覚はないですね。ホームランを狙うというよりはとにかく自分のスイングをきちんおこなうことを強く意識する。「自分のスイングで、いいタイミングでいいポイントで打てれば、結果、ホームランになる」という感じです。
――「きちんとやることをやれば結果ホームランになるはず」という感覚。
安田:そうです。「ならばきちんすることだけを考えよう」という感じですね。
――安田選手にとって一番ボールが飛ぶベストのポイントはどこですか?
安田:ぼくの場合は「おへその延長線上」が一番距離が出るポイントですね。
――ボールの中心のやや下を叩いてボールにバックスピンをかける、といった意識は打席の中でありますか?
安田:試合ではないです。でも練習では「ボールの下にバットをもぐらせてバックスピンをかけてみよう」といったことを意識しながら打つことはありますね。練習ではたくさん考えます。
――練習ではいろんなことを試すけども試合ではそういった意識は入れない。考えない。
安田:そうです。もっといえば、「練習で試したことが試合で無意識の状態でもできるようになるくらいまで練習で必死に考える」という感じでしょうか。
――なるほど…。スイングする際の力の入れ加減についてもお聞きしたいのですが、100パーセントの力で全力で振ったほうがボールは飛ぶ感覚がありますか?
安田:ぼくは100パーセントの力で振ろうとすると、力みが生まれてしまうので、試合では意識的に力を落とし、7,8割の力で柔らかく振る事を意識しています。自分の場合はそのくらいまで力を落とすイメージの方がいい打球を生むことにつながる。そのかわり練習では120パーセントの力で振る事も多いです。練習でめいっぱい振る事で100の器をどんどん大きくしていければ、同じ7割の感覚で振ったとしても、以前よりも大きなパワーをボールに伝えることができるはずなので。
連続写真の形と意識はイコールとは限らない
――ボールを遠く飛ばすためには「弓を引くようなしっかりした割れが必要」と、半ば常識のように言われたりしますが、安田選手も「割れ」は強く意識しているのでしょうか。
安田:以前は弓をひくようなイメージで割りを作ることを意識していたのですが、自分の場合は割りを作ることを意識しすぎるとカチッとした硬い感じのトップになってしまい、スムースにバットを振り出せない感覚があったんです。そこで今年の春くらいから割れをつくる意識をあまり持たないようにしようと決めたんです。
――そうだったんですか。
安田:そのかわり、自分は調子が悪くなると、前足を踏み出した時に頭と手が一緒に前にいく傾向があったので、頭と手が前にいかないようにすることだけを意識するようにしました。でも頭と手が残れば、結果的に割れって自然に生まれるんです。しかも自分の場合、そうやって自然に生まれた割れのほうが硬さがなく、しっくりとしたトップが作れることがわかったんです。
――割れの意識をなくして、違う意識をもつようにしたら、結果的に求めていた理想の割れが手に入った。逆方向の本塁打が打てるようになった話とかぶりますね。
安田:そうなんです。そういったことってバッティングの世界で多々起こりうることだと思うんです。だからイメージの持ち方を変える試みって大事だなと。なにが自分にはまるかなんてやってみないとわからないですから。
――飛距離を生むために「インパクトの後に腕を伸ばす」「フォローを大きくとる」といった指導表現も現場で用いられがちですが、このような意識は安田選手の中にありますか?
安田:連続写真でみれば、腕は伸びているように映っているでしょうが、腕を伸ばすという意識はありませんし、フォローを大きくとろうという意識もない。そのあたりはインパクトの後に自然に起こる「結果」という感覚です。
――「腰を入れる」「腰を回転させる」といったような下半身にまつわる表現もよくつかわれますが、それも安田選手の意識にはない?
安田:そのあたりもとくには意識してないですね。下半身主導、下半身始動といった表現もよく聞きますが、自分の意識下にはない。はためには腰は回っているように見えるんでしょうけど、ぼく自身は「回そう、回転させよう」といった意識はもっていないです。
[page_break:成長はたくさん悩んだ先にある!]成長はたくさん悩んだ先にある!
安田尚憲(履正社)
――となると、意識のベースにあるのは、やはり飛躍の大きな要因となった「インパクトまでは右肩をとめておき、振ってから回る」イメージですか?
安田:そうですね。それがぼくのイメージのベース部分です。でもこのイメージが、この記事を読んでくださっている読者の球児全員にはまるとは思わないです。現にこのイメージを後輩に伝えて試させても、うまくいかない選手もいますから。でも最低一度は試してみることは大事だと思う。
――安田選手はいただいたアドバイスは一通り試しますか?
安田:最低一度は試します。もしかしたら合うかもしれないので。ひとつひとつのアドバイスの中に自分が上手くなれる可能性が隠れていると思いながら試します。この「振ってから回る」という指導表現もある方からのアドバイスでした。最初は「なんだそれ? どういうこと?」と思いましたが、実際に試してみたら自分にはばっちりとはまった。
でも「トップを深くとるために最初から腕を捕手方向へ引いておく」「フォローを大きくとりなさい」「足を大きく上げてタイミングをとりなさい」といったアドバイスは自分にはあまりしっくりこなかった。でも広陵の中村奨成くんのように最初から腕をめいっぱい引いたような構えが合う選手もいる。大事なことは最低一度は試し、取捨選択を積み重ねることではないかと。
――大切なのは、試す勇気と自分に合わないと感じた時に捨てる勇気。
安田:そう思います。その2つの勇気をバランスよく携えながら自分のベストのイメージやアプローチ法を探し続ける。その作業が「練習」の最大の目的であり、本当の意味で「考えて野球をする」ということなんじゃないかと思います。
――最後にホームランを打ちたいと願う全国の球児にメッセージをお願いします!
安田:理想の形やイメージというのは人によって異なって当たり前だと思いますし、「こうすれば必ずホームランが打てる」という法則のような答えはないと思っています。でもホームランを打てる打者になるための大前提は「強く振れる」ことだとは思うので、あまり形を気にせず、ひたすら「強く振る」ということを追求する時期は経験してほしい。ぼくも中学の時にひたすら「強く振る」ことを徹底した指導を受けたからこそ、高校で65本のホームランが打てたのだと思っています。
バッティングと真剣に向き合えば向き合うほど、悩むことも多くなると感じます。ぼくも相当悩んだ時期を経験してきましたが、成長は悩み続けた先にあることが多いとも感じます。たくさん悩んだ先に、たくさんのホームランが打てる世界が待っている。そう信じ、頑張ってほしいです。ぼくもプロの世界でホームランバッターになれるよう、たくさん悩み、もがいていきたいと思います。
(インタビュー/文・服部 健太郎)
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