Column

健大高崎(群馬)葛原美峰コーチ流ゲームプラン立案メソッド 「精巧なプランの下、実行される機動破壊」【Vol.2】

2017.05.10

健大高崎(群馬)葛原美峰コーチ流ゲームプラン立案メソッド 「木」ではなく「森」を視る【Vol.1】から読む

 もはやおなじみの「機動破壊」。だが、健大高崎はそれだけではない。走攻守にわたり緻密に練られたゲームプラン。その存在がチームの力を何倍増しにもしている。いったい、どのような流れでゲームプランは練られていくのか。立案者である葛原美峰コーチに秘訣をうかがった。

走:最も相手にダメージを与える方法を採用する

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葛原美峰コーチ(健大高崎)

 健大高崎にとって、もっともストロングポイントとなる「走」。冒頭で示したように、また、過去の野球部訪問の記事にもあるように、健大高崎の走塁の胆は「ピッチャーにバッターと1対1の勝負をさせない」心理状況を作らせることにある。

 その威力は年々進化を遂げているわけだが、対戦相手に応じて機動破壊のプランは変わる。葛原コーチが最も印象的なゲームとして挙げるのは、2015年夏の甲子園3回戦秋田商(秋田)戦(延長10回3対4で敗戦)だ。
秋田商には、その後千葉ロッテにドラフト3位で入団した成田翔投手がいました。分析した結果、正直、打てない――特にスライダーは――という結論になり。それでも勝つための方法を考えた時に、『とにかく打たない』と考えました。そしてとにかく球数を増やす。追い込まれたらがんばって2球ファールする。そして『散兵戦術』でいこうと」

「散兵戦術」とは、明治維新期に外国の軍隊が見せた戦術で、兵が一箇所に固まらず散開することであらゆる角度から敵軍を攻撃した兵法である。これに勝機を見出そうとした。
「塁に出たらあらゆる方向からピッチャーを攻める。そしてとにかく牽制球をもらう。牽制も球数にカウントするイメージです。結局、3回までに15球以上は牽制をもらったのではないかな。それで7回以降に勝負をかけようと」

 試合は中盤まで1対3と2点ビハインド。だが、8回裏に2点を取り追いついてみせた。まさにプラン通りである。
「8回の攻撃も同点にした後、一死三塁の状況を作りだせたのですが逆転まではできず。結局、力及ばず不運もあり負けてしまいましたが、自分の中では戦略がはまったベストゲーム。選手のみんなは打ちたいはずなので我慢して一生懸命ファールを打ってくれた。その姿に、本当に涙が出そうでした」

 結局この試合、成田投手には161球を投じさせた。牽制球も入れると、200球近く投げさせたことになる。このように、ゲームプランによっては、盗塁よりも牽制をもらうことの方が重要になる場合もある。
この間のセンバツ(2017年春)の札幌第一戦でいえば、徹底的に戻ることを意識させました。戻って戻って戻りまくる。どんなに牽制を工夫しても、ピッチドアウトしても、牽制された時には既に戻って塁上に立っているぐらいきっちり戻る。そうすれば、盗塁よりリスク少なく重圧をかけられますから」

 この試合、健大高崎の盗塁は1。だが、牽制球は1、2回だけで13を数えた。試合序盤からランナーを意識し続けさせた時点でペースは握っている。結果、11対1の勝利。「機動破壊」がいかに精巧なプランの下、相手心理を巧みに突いているかがよくわかる。

[page_break:「何点勝負か」からプランを練る]

攻:「できること」「できないこと」を明確にする

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練習風景(健大高崎)

 健大高崎は打撃を重視するチームカラーだ。ランナーがピッチャーにプレッシャーをかけることで、球種やコースを限定させることができる。その時に、狙った球をきっちり打ち返せる打力が必須になるからだ。実際、打線がつながってビッグイニングを作り出すケースも少なくない。今回のセンバツで、山下航汰選手が放った2本の満塁ホームラン(関連記事)が最たる例だろう。

 だが、どの試合でも「打てる」わけではない。問題なのはロースコアの接戦が予想される場合。「機動破壊」もランナーが出なければプレッシャーは弱まる。そのような状況の中で、いかに1点を取りにいくかが問われる。
「アウトになっても遂行できるプランがあります。それは例えば『見逃し』でなく『見送り』で三振すること」

 先に挙げた秋田商戦の場合、好投手を相手に葛原コーチは徹底して「打たない」ゲームプランを考えた。その意図とは何か。
「相手ピッチャーのアドレナリンが出るような三振をしない、ということです。もちろん痛みを伴いますが、ウインニングショットを空振り三振したり、ワンバウンドになるボールを空振り三振したりすると、勢いづかせることになります。であれば、悠々と見送って三振した方がまだいい」

 常識的な見方では、バットを振らずに三振するケースは最悪の結果ととらえられがちだ。だが、考えようによっては相手を調子づかせない戦術に有効な場合もある。好投手を相手に球数を投げさせようと考えた場合、打者は待つぶんカウントが不利になることが多い。そこから出塁を求めるのは酷な話だ。

 であれば、ピッチャーを疲れさせることに目的を集中する。出塁することは「できないこと」だが、勢いを削ぐアウトになることは「できる」。もちろんケースバイケースだが、最初からそういうプランで試合に臨めば、打者は見送り三振をしても余裕を保っていられるだろう。その余裕が、試合終盤のここぞという場面で集中力につながる。

 先にも書いたように「できること」「できないこと」を明確にするとは、例えばこういうことなのだ。もう一つ例を挙げてみる。打てる選手の前にランナーを置くことは定石。では、どうランナーをためるか。

「重宝するのは三振が多い一発屋より、三振をしない選手。超高校級のスラッガーでも夏の予選で決勝までに1本打つぐらいの確率です。それで三振が多いよりも、ボールに触れられる打者の方が、健大高崎の野球には合っている。球数を多く投げさせられますし、進塁させることができる。ですからうちは『打て』とは言わずに『触れ』と言っています」

 データからもたらされた確率の高い出塁法に沿って、ピッチャーのタイプによってバッターの立ち位置を変えることもある。そして得意なコースに投げづらくさせたり、デッドボールをもらいにいったり。これらの狙いに即効性を求めることは難しい。だが、1試合、チームが徹底し続けることで、相手ピッチャーにとってはボディーブローのように効いてくる。それが試合終盤に勝負どころを作る布石となるのだ。

第三回へ続く

(取材・文=伊藤 亮

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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