桜美林大学 大平 達樹選手「教えた方々のアドバイスを無駄にしなかった」【後編】
■前編「打者の動きを見てのリードを心がけよう」から読む
後編では、大学に入ってリード面で覚えたこと。キャッチング技術を磨くために工夫していること。そして最後に今年にかける意気込みを語っていただきました。
大学に入ってリードの幅が広がった
大平 達樹選手(桜美林大学)
大学入学後は視野も広がったと大平は言う。
「大学に入ってからは、このケースは長打がダメだから、こういうボールを要求しようとか、ここは三振が欲しいからこういう配球をしようという、状況に応じたリードも心掛けるようになりました。高校時代はそこまで余裕が持てなくて徹底し切れていないときもありました。特にリスクマネジメントですね。バッターのスイングにもよりますけど、長打がダメな場面で、高めとか、それが出やすい球を要求してしまうと、失点のリスクが上がってしまう。佐々木千隼さん(16年ドラフトロッテ1位<関連記事>)のような抜けた力を持っているピッチャーでもリスクのあるボールは出さないようにしていました。状況によって出す場合でも、外野手に後ろに下がるように指示をした上でした」
1球の配球ミス、1つの指示が勝敗をわける試合もある。慎重さはキャッチャーにとって必携条件と言える。
「高校3年生の夏は初戦で負けてしまったんですけど、あの試合はすごく覚えています。負けるとは思っていなかったのですが、1対2での敗戦。そのときは最善を尽くしたと思っていたんですけど、今考えると、打たれてはいけないバッターに打たれてしまったり、出塁させなくていいところで塁に出してしまったり、そういうことが積み重なっての負けでした。
先制点を取らなければいけないのに、それができずに流れに乗れなかったな。それに先発投手が2年生で、初先発だったんです。もう少し声をかけてあげれば良かったなと思います。結構、緊張していて、5回で降板したんですけど、『すみません』と責任を感じさせてしまった。それが申し訳なかったです。もっと声を掛けて思い切り投げさせてあげられたらなと。後々、反省点がいくつか出てきましたね」
そう回想できるのは、大学での成長が確かなものである証であろう。キャッチングもリスクを恐れずに大きな変更に挑んでいる。
難易度が高い体の近くで捕球する方法に挑戦
桜美林大・大平 達樹選手の現在の捕球位置
「大学に入ってから、いろいろな方に出会う機会があって、様々な話を聞いて体の近くで捕球するようになりました。前で捕る人もいると思うんですけど、そうするとどうしても左肩が中に入りやすい。左肩が入ると審判はボール球に見えるという話を聞いたことがあるので、そういうのも考えて体の近めでさばくようにしています。
あとは審判心理としては捕球の瞬間にミットを動かすとやっぱりボールと言いたくなるみたいなので、際どいコースでもしっかり止めるようにしています。ピッチャーもその方が、どこに投げたかきちんとわかるみたいなので、そっちの方がいいのかなと思って変えました。それと音も大事だそうで、いい音が出せるように捕っています。これもピッチャーは同様で、『いい音を鳴らせてほしい』と言ってくるので意識しています」
ただし、捕球位置を近くするのは技術的に難易度が高い。そこはひたすら数を受けることでつかんでいったという。
「難しかったです。今までとは距離感が違ってきますし、音も鳴りづらいと思います。目線も変わります。最初は全然、慣れることができませんでした。とにかくブルペンで受けるときは意識して、見やすいようにそれまでよりも腰を低く落とすようにもしました。それによって前屈みにならないように胸を張ることも忘れないようにしています。こちらが低くなる分、ピッチャーも低めに投げてくれるようにもなりますし、スローイングのトップの位置までに持っていく時間も速くなりました」
その時間差はほんのわずかだが、盗塁阻止など、そのわずかが、いかに大きいかは言うまでもない。桜美林大学・津野 裕幸監督が「リーグ戦に出られなくても腐らずにやっていた」と評するように、レギュラー奪取はそうした努力と工夫の末に手にしたものだった。
佐々木 千隼の凄さは投げるだけじゃない!
そんな大平捕手は出会いにも恵まれた。
「千隼さんと組ませてもらって、本当に勉強になりました。配球もそうですし、キャッチングもそうです。配球は試合でも、打たれても大けがにならないケースでは、間違っていると思っても僕のサインに首を振らずに投げてくれて、打たれた後に『今のは違うよ』と合図してくれたり、ベンチに戻って『あそこはこの球でしょ』と教えていただきました。バッターのこともすごく見ていて、立ち位置の変化に気づいて伝えてくれたりもしました。
相手の狙いを読むことにも長けていて、キャッチャーのようなことまでできてしまう。千隼さんはカードの初戦に投げていたんですが、バッターの特徴など試合で感じたことを2戦目の先発ピッチャーに教えたりもしていた。それを僕も共有させてもらったりもしたのですが、このバッターは最初の打席の初球でセーフティバントの構えをしたから、バッティングの調子があまり良くなくて球数を投げさせようとしたんじゃないかとか、すごく助かりました。頭がとてもいいんです。千隼さんとバッテリーを組ませてもらって1試合、1試合、成長できたと思います」
明治神宮大会の日大戦の本塁打は理想的な打ち方だった
大平 達樹選手(桜美林大学)
秋のリーグ戦、明治神宮大会で成果をあげたバッティングも津野監督のアドバイスをもとに、試行錯誤によって生み出された賜物だった。
「1、2年生のときはバッティングでアピールして試合に出られるようにと思っていたので、自由に使える時間はバットを振る方に割いていました。特にティーバッティングはいろいろな打ち方ができるので、あれこれ試しましたね。そんな中、監督さんに膝の使い方を教えていただいたんです。それまでの自分はバットでボールをとらえるまでに体が伸びあがる癖があって、それでは打てないだろうと。
左足を踏み込んだときに沈むイメージを持つように言われたんです。その感覚がつかめてから低めの変化球や抜き球を拾えるようになりました。感覚なので伝えづらいのですが、膝から行く感じで踏み込んだときの左膝もそれまでよりも深く曲げるようにしました。体が前に突っ込んでいるように見えるかもしれないですけど、左足の内転筋でしっかり受け止めて重心はちゃんと軸足に残るようにしています。バットもまだ体の近くにあるので、そこから粘って、インパクトのときに体重を乗せられる。僕には1番体重が乗る打ち方なんです」
明治神宮大会準決勝の日大戦でチェンジアップを打って先制のホームランにしたときも、外から見ると少し体を前に出されてしまっているように見えるのだが、大平捕手の中ではイメージ通りの打ち方ができた打席だったという。
「しかもレフトフライかなと思ったんですけど、思ったより伸びてくれて。この打ち方のおかげかなと。膝をうまく使えたなって思います。あとバッティングで変わったのは、しっかりバックスピンのかかった打球を打ちたいのでボールの下をとらえるイメージを持つようになったことと、ずっとしっかり握っていたグリップの握り方を軟らかく持ってヘッドを立たせたいので、手ではなく指で持つようになりました。これらはティーを打っていて見つけたものです。どのバッターにも当てはまるものではないと思いますけど、高校生もそうやっていろいろと試すことは大切だと思います」
昨年11月、今夏のユニバーシアード夏季大会の代表候補選考合宿を経験したことで、さらに上を目指す意識が高まった。
「他のキャッチャーは高校時代から名の知れた選手ですし、動きの良さ、体の強さの違いを感じて刺激になりましたし、課題も見つかったので今はそれに取り組んでいます。プロに行きたいという気持ちはありますけど、客観的に見て今の僕ではまだまだなので、手が届くようにとにかく練習するしかないですし、まずは春のリーグ戦で結果を出せるように頑張ります」
(インタビュー=鷲崎 文彦)
オススメ!
第89回選抜高等学校野球大会特設サイト