試合レポート

木更津総合vs広島新庄

2016.08.18

早川隆久(木更津総合)の投球は「高校野球のアート」

  作新学院対花咲徳栄戦で叶えられなかった屈指の投手戦は、木更津総合広島新庄戦で叶えられた。この試合で樹立された記録があるのでそれをまず紹介しよう。無失策試合は今大会4度目で、両校の1試合残塁4は第59回大会の智弁学園対今治西以来の大会タイ記録。さらに記録ではないが、1時間23分という試合時間の短さも特筆される。とにかく両校のピッチャーがよくなければこれらの記録が達成されることはなかった。

 広島新庄の先発、堀瑞輝(3年)は内角攻めが執拗だった。左打者4人、右打者5人とバランスの取れた木更津総合打線でも、左打者にはスライダーを内角にこじ入れ、外角に逃がすスライダーで打ち取るという高等技術を見せれば、右打者にはいわゆるクロスファイア―で内角を突くという必勝スタイルで凡打の山を築いた。

 球数103球、被安打6、奪三振7に加えて与四死球0というのが見事。7回表の無死一塁の場面では相手5番打者のバントをサードが猛チャージするが打球が頭を越えてしまった。しかし、その背後には堀がきちんとカバーに入っていて、無死一、二塁の局面を作らずに済んだ。2死後に7番井上瑞樹(3年)にセンター前タイムリーを打たれるが、このバント処理がなければもっと得点されていた可能性が高い。

 走者が一塁にいるときのクイックの速さもすごい。最速で1秒を切る0.96秒というのがあった。堀は左投手なので、セットポジションで顔が合う一塁走者は大きなリードも取れないので二盗はまず不可能。これほどディフェンス能力の高いピッチャーでも2失点した。

 1回の1点は2番打者のホームランによるもので、球種は左打者である木戸涼(3年)の内角寄りストレート。強気に攻めるというピッチングスタイルがこの勝負に限っては裏目に出た。

 普通のピッチャー相手なら初回の先制点は何ということはないが、木更津総合の先発、早川隆久(3年)は今春選抜の3試合、今夏選手権の1試合、計4試合で自責点がわずか5というピッチャー。初回の1点は広島新庄各打者の焦りを誘うには十分だった。

 この早川に対して広島新庄打線は見逃しが多かった。全投球に占めるストライクの見逃しの割合、つまり見逃し率は18.2パーセント。木更津総合の13.6パーセントにくらべると4ポイント以上高い。それほど見逃しているのに、早川が要した球数はわずか99球。見逃しが多ければ球数も多くなるはずなのに不思議である。

 早川は1回の先頭打者相手でも、1点も与えられない9回裏2死満塁のようなピッチングをする。最初から最後までコーナーや高低へのコントロールが緻密で、配球もキレのいいストレート、スライダー、ツーシーム、カーブをバランスよく混ぜ合わせ、一方に偏らない。打たれないのは当然と言っていい。

 これらの投げ分けや緻密なコントロールをもたらす要因となっているのが完璧な投球フォームである。

◇前肩が開かない、
◇下半身が伸びて、それに引っ張られるように上半身が時間差で伸びていく

というのが早川の最大の美点で、いつまで見ていても見飽きない。
「高校野球界のアート」
 そう言っても過言でないほど早川のピッチングは美しい。

(文=小関 順二

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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