中村 勝 (春日部共栄-北海道日本ハムファイターズ) 「僕がグラブに込めた思い」 【前編】
その選手の個性を知るには、愛用するグラブを見ることが近道になる。春日部共栄高校から2009年ドラフト1位でプロ入りした中村 勝投手。そのデザインに隠された個性、刺繍に込められた思い、そしてグラブに収められた高校野球の思い出。高校時代のグラブを眺めながら紡ぎ出された学びとは。
自らグラブのデザインを考案
中村 勝投手(北海道日本ハムファイターズ)
「長い時間練習をしたり、いつも帰宅が夜遅くなったり…学生特有の時間を過ごしたといいますか、本当の青春だったな、と思います」
自身の高校時代を振り返った中村 勝投手の第一声だ。目の前には高校時代に愛用していた黒いグラブ。きれいに手入れされ、型も全く崩れていない。試合専用として大切に扱った跡がくっきりと残っている。青春時代をともに過ごした相棒、もしくは戦友といえるグラブは、時間が経てば高校時代の自分に一瞬で立ち返らせてくれるスイッチになる。
2009年ドラフト1位で、春日部共栄高(埼玉)から北海道日本ハムファイターズに入団。2010年のルーキーシーズン、8月11日の千葉ロッテマリーンズ戦で高卒新人投手初登板初先発初勝利。日本ハムの投手としては現テキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手以来の快挙を成し遂げた。2012年には読売ジャイアンツとの日本シリーズ第4戦に登板。7回を無失点に抑える好投を見せ、対戦成績を五分に戻す勝利に貢献した。そして現在。プロ入り7年目を迎え、今後の飛躍がさらに期待されている注目株だ。
そんな中村投手にとって、高校時代のグラブは「どうせ身につけるならかっこいいものにしたい」というこだわりの結晶だった。
「形もそうですし、見えない部分に自分の秘めている思いを乗せたり…手にはめてウキウキしてくるように、まずはかっこうから入りました。授業中にどういうデザインがいいか、落書きしながら考えていたものです(笑)」
そのうち、「革の厚さがなじんで、柔らかすぎず、フィット感が抜群と感じた」ウイルソン製のグラブにいきつく。そこでかねてから思い描いていたグラブを作ってもらった。
「こだわりというほどではないんですけど…」と本人は言うが、傍から見ると十分こだわっているように見えるのがウェブだ。既存の型を使用したものでなく、中村投手が描いたオリジナルのデザインを「手断ち」と呼ばれるハンドメイド加工で再現。たしかに、入れられた切れ目には手作り感が漂っている。
「高校時代の後輩のピッチャーたちは僕の影響を受けて、同じウェブのグラブを作っていたような。当初は僕だけウェブを特注で作ってもらっていたのですが、それが珍しかったんでしょうか(笑)」
腕の振りに見える「気持ち」の強さ
中村 勝投手(北海道日本ハムファイターズ)の高校時代のグラブ
グラブ一つとっても、高校時代の想いや考えが次々に見えてくる。さらに当時の中村投手を知るうえでの重要なヒントが、平裏にあった。
「全国制覇」
「気持ち」
という2つの言葉が刺繍されているのだ。
「『全国制覇』というのはチームの目標でもあったので。やはり高校野球で1番になりたい、という想いを込めました。『気持ち』というのはバッターに向かっていく中で最も重要な要素といいますか。僕は私生活の時は別にどうでもいい人間なのですが(笑)、野球でマウンドに登るとすごく勝気になるというか、誰にも負けたくない気持ちになるんです。それが時に独り相撲になってしまうケースもありましたが、冷静な中にも熱い気持ちを持ち続けられるように大事にしていた言葉です」
中村投手のピッチングスタイルの特徴は、90キロ台のスローカーブとスピードガン以上に速く感じさせるストレートを軸に配する緩急だ。その緩急をより効果的にしているのが思い切りのいい「腕の振り」である。どんなにピンチでも、相手がホームランバッターであっても、気持ちのいいほど腕を振る。
「腕を強く振ることは大事にしていることで。ピンチの時でも思い切って腕を振った方が、案外いいところにボールがいく、というのが経験としてあるんです。きっかけとなった試合までは覚えていないですけど、それこそ高校時代から打たれた後に半ばやけくそ気味になって投げたら、意外といいボールが放れたみたいな経験が積み重なって。とはいえ、いつも納得のいく腕の振りができているわけではないんです。鈍くなっていると感じた時は意識的に振るように心がけてます」
いつ何時も腕を振る、というのは勇気がいる。その勇気の源となっているのは、中村投手の場合、「肚をくくる」覚悟からきているようだ。
「良くも悪くも、試合の結果というのは決まっている、と考えています。例えば、勝負どころの結果も決まっている、と。思い切って投げても尻込みして投げても結果はいっしょ、と考えたら、自分の気持ちの整理がつく=納得する投げ方でその結果を受け止めたい。そう考えるようにしています」
心底開き直る、本当の意味で肚をくくるというのは、じつはとても難しい。退路を断って向かっていく覚悟が求められるからだ。その覚悟を持つ気持ちの強さが中村選手の生命線といえる。「誰かに言われたわけではなく、自分で考え決めて」グラブにしたためた「気持ち」という刺繍。それは今もなお心にとどめておくべき大切な言葉なのだ。
(インタビュー・文/伊藤 亮)
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