Column

県立南陽工業高等学校(山口)

2016.03.23

「JK」テーマに「勝ちたい」42人で立ち向かう

 大会第4日・3月23日(火)の第2試合で市立和歌山(和歌山)との初戦を戦う5度目のセンバツ出場・山口県立南陽工業高等学校。岩本 輝(阪神タイガース)を擁し8強入りした前回出場から7年、彼らは昨秋中国大会準優勝後、どのようなテーマを持って冬を過ごしてきたのか?「弱気は最大の敵」と記された炎のストッパーOB・津田 恒美さん(元広島東洋カープ・故人)の碑が見つめるグラウンドで、その詳細をうかがった。

練習テーマは準備(JUNBI)と確認(KAKUNIN)の「JK」

山崎 康浩監督の話を聴く南陽工の選手たち(県立南陽工業高等学校)

 取材日の練習内容は主将の山崎 大輔(3年・右投左打・168センチ68キロ・周南市立岐陽中出身)いわく「守備は3点以内に抑え、走塁で相手をかき回して4点以上取る」チームコンセプトを体現するための、ランナーを付けたケースノックが中心。けがを防ぐために足首を緩めながらベース近くで滑り、素早く次の動作に移るスライディング。紙一重ところまで取る第1リードなど、細かなところを確認しながら1つ1つのメニューが進んでいく。

「脚が速いからセーブ、遅いからアウトという感覚をなくしたい。そして相手に『ひょっとしたら何かやってくるんじゃないか?』というプレッシャーを与えたい。1対1でなく、チームとしてそこを積み重ねていかないとウチのようなチームは強豪私立に勝てないんです」。この走塁を採用している意図を語るのは山崎 康浩監督である。

 2009年にはセンバツ8強進出。下関中央工監督時代は「非力で小さくても取り組みがすごい。高校生にもいい参考になっているし、今でも高校生以上に高校野球をしている」三輪 正義(山口産業<軟式>~四国アイランドリーグplus・香川オリーブガイナーズ~東京ヤクルトスワローズ)を指導。2005年から赴任し2006年から指揮を執る南陽工でも2010年夏甲子園出場時のエース・岩本 輝を阪神タイガースに送り出すなど、個の育成にも優れる熱血漢に対する選手たちの信頼は、「スピードを緩めないことでより速さを魅せられます」。50メートル6秒1の笹部 航介(3年・左翼手・168センチ71キロ・右投右打・下関リトルシニア出身)と語るように極めて高い。

 そしてボールの動きが止まると、グラウンド上に声が飛び交う。「JUNBI!」「KAKUNIN!」。「これがウチのモットー、JKです」指揮官の声が加わる。

 もちろん「JK」は女子高生のことではない。「準備」と「確認」。起こりうることは万が一も含めて準備し、声を掛け合う。そこで声をかけて起こったことを改めて確認。「授業と同じです。授業内容が事前にわかっているんだから、先生が来て席に戻るのではなく。座って教科書を開けて1行でも2行でも読んでおけと思うんですが……。実際はしませんねえ(笑)」。国語科教諭の山崎監督は、全国球児にとって耳の痛い話も交え、グラウンド内だけでなく授業などの日常生活でも「JK」が使えることを話してくれた。

 事実、南陽工でもこの走塁面での「準備」「確認」は二次的効果をもたらした。練習中、走塁でプレッシャーをかけられることによって守備側の「JK」も向上。結果、彼らは「10年間で一番弱いチーム」の指揮官評価を覆す躍進を昨秋見せる。
中国大会決勝戦を除いてはビックイニングを作られず粘っていけた」と振り返るのは3年生外野手の藤井 誠己(170センチ65キロ・下松市立末武中出身)。

 さらに中国大会準決勝・如水館(広島)戦で8回表に一挙5点を奪い、逆転勝ちを収められたのも、「30年来お付き合いがあって、プレッシャーをかけても動じないことが分かっている」(山崎監督)名将・迫田 穆成監督ではなく、相手選手たちへプレッシャーを与えることを心掛け、重冨 将希(3年・投手・右投右打・182センチ84キロ・下松市立末武中出身)、藤本 大輔(3年・捕手・右投右打・178センチ85キロ・周南市立鹿野中出身) のバッテリーが中盤以降「外角で簡単に追い込んで、打たせてとる」スタイルへ素早く切り替えたからだ。

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[page_break:週末合宿で高めたチーム力 / 「勝ちたい」42人で市立和歌山に立ち向かう]

週末合宿で高めたチーム力

中国大会決勝戦のスコアが書かれたスコアボードの前を走る南陽工の選手たち(県立南陽工業高等学校)

 このようにいまや南陽工を支える大きなキーワードとなっている「JK」をより縦横に巡らすため、南陽工はこの冬、新たな行事を入れた。一昨年までは年末に1週間だけの合宿を、今年は保護者・後援者・地元旅館街の多大なる協力も頂きながら金・土・日を使い毎週実施することにしたのだ。
「仕事を持っている親御さんにとって、週末1時間でも2時間でも長く寝ることは大事」。主将・山崎 大輔の父親的視点もからも編み出した新機軸。

「僕も昨年11月途中から8キロ増えましたし、仲間同士でも『がんばろうぜ』という雰囲気を作れる」リードオフマンの山口 勇太(3年・中堅手・182センチ80キロ・周南市福川中出身)がパワーアップの源が蓄えれば、山崎は「選手個々の性格や、信頼できる選手もわかる」と、合宿をキャプテンシー発揮の参考にするようになった。

「チームとしていいところも悪いところも出た」(山崎監督)昨秋からさらにレベルアップして晴れ舞台に臨むために。「1対12」。中国大会決勝戦創志学園(岡山)戦のランニングスコアをグラウンドのスコアボードに掲げつつ、「自分が持っているものを全部出して甲子園で校歌を歌うために」(藤本)3年生18人・2年生24人のチーム力向上へ取り組んだ南陽工は、この週末合宿を通じ大きな成果を手にしつつある。

 現在は校舎耐震工事のため、南陽工校舎北側に仮住まいを構える故・津田 恒美さんの記念碑。1978年2勝(ベスト8)・1勝をもたらした剛腕。広島東洋カープ時代も炎のストッパーとして鳴らした碑に刻されているのはもちろん生前、座右の銘としていた「弱気は最大の敵」である。そして現役時代の投球フォーム写真もある碑の眼下では、南陽工の選手たちが「強気へ変化する」胎動を確かに示していた。

「勝ちたい」42人で市立和歌山に立ち向かう

「まず1つ勝ちたい」。選手たちのミーティングトーク中にしきりに漏れた言葉である。その手順は踏んでいる彼らにとって、決め手になるものとは何か?参加選手全員に聴いた。

「強いチームばかりなので向かっていく気持ちを持ってがんばりたい」(藤本)
「どこと当たっても勝てるように頑張ること」(笹部)
「バットを振ってホームランを打てる打力を付ける」(山口)
「三振をとれる投手になる」(重冨)
「結果的に岩本さんのベスト8を越えられるように頑張る」(藤井)

 最後に42人の想いを総合して主将・山崎が語った。
「身体の大きさやボールの速さでは負けていても、42人の勝ちたい気持ちは負けない。チームとして立ち向かっていきたい」

 そんな彼らがセンバツ初戦で立ち向かう相手は、市立和歌山(和歌山)となった。「まだ勝利への決め手を探している部分もある」と本音も語っていた取材日から1か月。選手たちにその結論は見つかっただろうか。ただ、これだけは言える。そこも「準備」と「確認」の積み重ねであるということを。

 そんな「勝ちたい42人」を迎える聖地・甲子園は、多くの観客や周南市をはじめとする山口県民の期待と共に、「NANYO」のユニフォームが躍動する瞬間をいまや遅しと待っているということを。

(取材・写真:寺下 友徳


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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