Column

県立川崎北高等学校(神奈川)

2016.03.26

各自がそれぞれの役割分担を果たすことが大事という意識を育てる

 全国一の激戦区神奈川、ということは高校野球ファンの間ではしばしば語られることである。それは、全国一二の参加校ということもあるが、昨夏の全国制覇東海大相模をはじめ横浜桐光学園桐蔭学園慶應義塾日大藤沢など、全国レベルの私立校がいくつも存在しているからでもある。そんな中で、公立校の一角として健闘している川崎北を訪ねた。

私学優位の神奈川県でも戦える理由

選手たちで話し合うことも大切(県立川崎北高等学校)

 あまり知られてはいないが、川崎市にも有馬温泉がある。東急田園都市線の鷺沼駅から、車で10分程度というところなのだが、川崎市内の小高い丘にある。そもそも、丘陵に沿って住宅が建てられている川崎市。フラットなスペースが取りにくい地形なのだが、そんな住宅街の丘陵地帯に神奈川県立川崎北高校はある。だから、学校も校舎と、公道を挟んでグラウンドがあるという状況。

 グラウンドへは横断歩道橋を渡っていかなくてはならない。しかも、内野のダイヤモンドを作ったら、ほとんど使用可能なスペースはいっぱいになってしまうくらいに狭い。決して恵まれているとは言えない。普段の練習は、そんな狭いグラウンドにサッカー部や強豪としても知られたハンドボール部などとも共有している。だから、フリー打撃練習もバックネットへ向かって打てるというのがせいぜいだ。

 そんな環境であっても、圧倒的に私学勢力が優位に立っている神奈川県の高校野球で、川崎北は公立校の野球部としては一目置かれる存在である。それはどうしてなのだろうか。
過去には駒澤大を経てプロ野球の巨人にドラフト1位指名されたプロ野球選手の河原 純一投手を擁して、ベスト4に進出したこともあった。また、07年には秋季県大会ベスト4に進出して21世紀枠代表校候補にも推薦されている。

 そして、昨秋も県大会一次ブロック予選では桐光学園に敗れたものの、その後に勝って、何とか進出した秋季県大会では藤沢西に完封勝ち。4回戦では古豪の横浜商に競り勝つなどしてベスト8に進出を果たした。

 チームを率いる西野 幸雄監督は、「去年も新チームができたときに、決して強いチームじゃないよということは、言っていたんですよ。それが、最初に桐光学園と当って、それでそこそこいい試合(1対3)ができたということが、選手たちには自信になったんですね。『オレたち、案外やれるんじゃないか』と、いい意味で勘違いしてくれたんですね」と、苦笑しながらもその成果と自信を持ってくれたことを喜んでいる。

 高校野球の現場で指導歴30年以上というベテランの西野監督は桐蔭学園から日体大へ進み、その後は桐蔭学園でコーチを務めていた。やがて神奈川県の公立校の教員採用となり上溝霧が丘神奈川工を経て、12年に川崎北へ異動してきた。神奈川工時代には就任3年目でベスト8に進出して、04年夏には準優勝。悲願の甲子園に手が届きそうなところまで導いた。

 100人をはるかに超える大量部員を抱えていた神奈川工時代には、練習試合ユニフォームには全員背番号をつけるようにして、自校会場での試合の時は選手名簿も作っていた。「そうすると、見に来てくれた人が、背番号を見て、選手を名前で呼んで応援してくれるんですよ。これは、やはり選手たちにとっても励みになりますよね。それに、やってきたOB達も、自分の背番号を引き継いでいっている選手には、声を掛けくれるんですよ。それも、やはり選手にとっては嬉しいことでしょう」と、背番号効果について語ってくれた。

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[page_break:自分たちのカラーを引き出すことが大切]

自分たちのカラーを引き出すことが大切

同ポジションの選手は仲間でありライバル(県立川崎北高等学校)

 河原投手でベスト4に進出した後は、一時、川崎北自体もそれほど目立つ存在ではなくなっていた時代もあった。そんな川崎北が、再びスポットを浴びたのは中学の野球で全国制覇4度という実績をあげた佐相 眞澄監督が、中学の指導者から高校指導者に転じて、05年に川崎北に赴任してきてからだった。
中学野球の指導者たちからも圧倒的な支持を受けていた佐相監督を慕って、地元川崎市界隈だけではなく、相模原地区などからも多くの有望中学生が、川崎北を目指して入学してきた。狭いグラウンドということも承知で、それでも工夫した練習方法をアピールして、個々のモチベーションを上げていったということも大きかった。

 そして、07年秋のベスト4進出するなど川崎北へ多くの選手が集まりだした。しかし、公立校教員の常で異動はつきものである。その際、佐相監督はここまで育てた野球部を信頼できる指導者に引き継ぎたいと思っていた。そこに、神奈川工で実績を上げた西野監督の異動期と重なっていたということもあって、西野監督に白羽の矢が立った。実は、二人は日体大での同級生でもある。図らずも、佐相監督は法政二、西野監督は桐蔭学園と、神奈川の高校野球時代から競い合っていた気になるライバル同士でもあった。こうして、佐相監督は安心して、2013年に県相模原へ異動していった。

 西野監督は言う。「佐相先生の後で、やりづらいでしょうっていうことを、異動当初はよく言われました。だけど、高校野球での実績ということで言えば、決勝まで行っていますし、キャリアでもボクの方が上なんですからね」と笑う。そして、「佐相が作ったチームとボクが作ろうとしているチームは違いますから、それを引き継いでいこうとすると無理がありました。だから、ボクは自分の色を出していこうと、そう考えてからは楽になりました」と、異動3年目あたりから、チームも西野カラーになってきたという感触を得ている。

「ボクは、常々選手たちにはよく言っています。これは、部員が100人以上いた神奈川工時代にも言っていたことなんですけれども、それぞれに役割分担というのがあって、それが各自が自覚して、きちっとできていったとき、そういう時はチームとしてはいい結果を出していますね。いいチームになりますよ」と、自信を持っている。
現在は新3年生が21人、新2年生が16人という総勢37人。神奈川工時代に比べれば、決して大所帯ではない。それでも、新入生が20人ほど加われば50人を超える規模となる。そんな選手たちが役割分担を選手たちが明快に理解していった時に、川崎北がさらにワンステップ上がっていかれることになる。

 グラウンドが狭いので、土日の練習試合はすべて遠征ということになる。これも、西野監督のネットワークを通じて各地の強豪校にも積極的に挑んでいる。今季も5月には千葉経済大附藤代木更津総合など甲子園出場の実績のある強豪とも組まれている。遠征では、往復2500円以内の料金のところについては、各自が電車で集合して現地集合。それを調べるのも、チームの役割としてある。2500円という基準は、バスで遠征するとした場合に一人当たりの1日の徴収額としてそのくらいが目安になっているからだという。そんな遠征でもチーム力を上げていく。

 目指すは、野武士的な野球だという。
「多少荒々しくて、昭和の野球に近いものでもいいと思っています。それが、ボクの野球の形ですから、それを教えていきます」
指導の輪方向性にはブレがない。

(文・構成/手束 仁


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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