Column

県立豊見城高等学校(沖縄)

2016.03.15

 昨春の沖縄県大会でベスト4入り。そして昨秋の1年生中央大会でもベスト4入りするなど、春の躍進に期待がかかる豊見城。緊張感のかかる試合を数多く経験してきた新3年生たちの取り組みを追った。

中部商との死闘

翁長 宏和(県立豊見城高等学校)

「昨年、新チームへ移行したときに面白いなぁと思ったのは、大きな声を掛けられるというところでしたね」
豊見城高校は9年前の春の県大会にてベスト4進出を果たしたもののそれ以降、春夏秋の主要3大会では2007年夏と2011年夏のベスト8が最高位。ここ近年は16強が精一杯と、往年の強さを知るファンやOBにとっては寂しい戦績が続いていた。だが、2015年の春季県大会準々決勝で前年秋の王者で第一シードの中部商を破り準決勝へ進んだ。その戦力の一翼を担ったのが翁長 宏和ら現3年生たちでもある。

 その3年生たちの特徴は練習、試合を問わず元気な声を掛けられることだと、金城 聡監督は語る。その春の県大会ではまだまだ体も出来ておらず、5番に座った平田 怜之輔が13打数3安打、7番に座った翁長も、14打数で僅か2安打と力負けするところは見られたが、何とかしようとする姿勢が印象的だったと金城 聡監督は振り返った。

 この春の県大会の抽選会が終わった後、ナインの心には少なからず中部商の名前があったはず。勝ち進めば当たるであろう王者との試合を、無礼を承知で敢えて「うっちゃった」とする1点差ゲームには何があったのだろう。
「向こうは第一シード、こちらはノーマーク。翁長の好投があっての勝利でした」

 一昨年秋の優勝の立役者となった中部商のエース前田 敬太は、春先から調子が上がらなかったとはいえ、彼が先発で来ていたら翁長 宏和ら(当時1年生)はさらに打てないだろうから苦しむだろうなと考えていた金城監督。蓋を開けてみたらアンダーハンドの伊波 和輝がマウンドにいたことで、「ウチの打線にとっては前田よりも相性は良いだろう」と読んではみたものの、伊波を打ちあぐね、5回が終了して豊見城高校が放ったヒットは3本のみ。

 だが嶺井 友貴(現3年)が5回に放った二塁打が、伊波のリズムを狂わせたのだろうか。6回表、豊見城高校は一死から2つの死球を得て翁長が2球目をライト前へ弾き返す。これで1点差に迫った豊見城高校は続く喜舎場 宗和がレフト前へと運び一気に逆転した。投げては翁長が1、2回の失点以降被安打3と立ち直り、「シュート、スライダー、シンカーを投げ分け、打たせて取る見事なピッチング」(金城監督)で中部商打線を封じる。味方の2つのエラーなどでピンチを背負った8回の一死満塁でもショートゴロからのホームフォースアウトに斬るなど、2失点完投でチームをベスト4へと導いたのだった。

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[page_break:組み立て方を選手たちに伝える / 不安な表情を見せない野球を目指す]

組み立て方を選手たちに伝える

金城 聡監督(県立豊見城高等学校)

「選手たちには、野球は9回あるんだからと。その中で次やるべきことに心を向けていこうと。焦ることなんかないよと伝えています」(金城監督)。
完全試合なんて何年に一度あるかないか。そんなピッチャーと当たってしまったら、それはもうしょうがない。でも通常の試合だとお互いにチャンスが巡ってくる。そのときに、みんなで得点に結びつけることが勝利に繋がることを、豊見城高校の選手たちは頭の中に叩き込んでいる。試合が動きやすい後半勝負!と知っていても、まだまだ高校生。大事な大会ほど、焦りと緊張が見えるチームも少なくないからこそ、金城監督は練習試合も含めて何度も何度も選手たちに伝えているのだ。

「このゲームの流れはこうなるよ、とベンチで呟く。それが形になると、選手たちも僕が伝えていることに段々と安心感を持つようになってくる」(金城監督)。先制されたら、この次の1点がどこに入るのかで流れは変わってくる。もし向こうに点が入るようなピンチでも、最少限度で止める。そして例えば相手の四球やエラーなどでチャンスが来たらものにする。マイナス思考は伝染していく。例えばピンチになっても誰も声を掛けない、それが一番イヤですよねと語る金城監督。その教えに加えて、大きな声を出せるメンバーが揃った豊見城高校のベンチは常にホットだ。

不安な表情を見せない野球を目指す

「選手たちの心に、プラスアルファが無いとチームとしてはより成長していかないと思います。」(金城監督)。
どこにでもある光景だが、豊見城高校では当日の練習メニューをあらかじめ金城監督がボードに書き記しており、選手たちはそれを確認してそれぞれの場所へ散っていく。

 取材日では、投手陣らは自らのフォーム固めを意識したスローイングに、野手陣はベースランの走塁とバッティングの班に分かれていた。その後は「監督、次は?」なとどと聞きに来る選手はいない。次に何をやればいいのか、試合と同じように理解していて動いている。しかし、金城監督はさらにその一つ先を選手たちに求める。練習メニューをこなすことは大事だが、それを上回る積極的な行動がまだ無いのだ。僕が言ったことをそのままやっているだけなら、終わってしまうと金城監督。キャプテンを務めるエースの翁長が投手陣をまとめ、副キャプテンの嶺井が野手陣に声を掛ける。それは良いのだが、監督を差し置いてでもこれをやろうぜ!という姿勢が見えてきたらより強いチームへと変身していけるのだ。

 高校野球だからこそ、最後は精神力の勝負。日頃から自分たちで考えて行動し、お互いに遠慮せず声かけしていくものがないと試合での不安な表情を見せてしまい、沈んだ雰囲気のまま負けてしまう。それが色濃く出た、印象的な試合が2010年夏の選手権沖縄大会決勝戦。この試合で塁審を務めていた金城監督は、興南島袋 洋奨(福岡ソフトバンク2013年インタビュー)、糸満宮國 椋丞(読売ジャイアンツ)の投手戦は7回途中まで1対1の互角に見えていたが、互いの表情に差があったと感じたようだ。

 選抜を制し、ここで負けるわけにはいかないと普通の高校生なら焦りそうなものだが、やはりあの興南ナインは普通では無かった。不安など微塵も感じさせなかったからこそ、甲子園春夏連覇の大偉業を成し遂げたのだ。

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[page_break:成長させるのが僕らの仕事 / 秋の悔しさと一年生中央大会の嬉しさ。その反省で春の大会に臨む]

成長させるのが僕らの仕事

練習風景(県立豊見城高等学校)

 豊見城高校の練習風景を見ると色々と工夫を凝らしている。ティーバッティングは大股で打ったり、片足で打ったり、しゃがんで打ったりと様々な変化に富む。学童野球から打ち込んできている選手たちが多い中、股関節を上手く使えるように指導されてきた子は多くはない。「これまでやってきたこと、例えばフォームを変えることは中々出来ないけど、体が大きくなったことで、使えてない箇所が見えてくるのではないかと」

 何かしら変えることで、今まで使えなかったものが、各選手によって見えてくると金城監督は語る。選手によっては、パワーはあるけど柔らかさがないため使えてない。また体は柔らかいけど筋力がない。そういった欠けを埋める作業を、豊見城高校では一朝一夕にではなく、日々積み重ね続けてきた。
中学で実績を残していた選手が揃う興南沖縄尚学の私学に対し、選手一人一人で戦おうものなら負けてしまう。負けない野球が身に付けば、勝ちは転がり込んでくることもある。

 負けないようなチーム作りをしていく方が、およそ地元の人で構成される県立の高校は確率は残せるのではないかと金城監督は考える。10点差をつける、コールド勝ちする、ということは豊見城高校には当てはまらない。

「伸ばせればいい。成長させるのが僕らの仕事なので」(金城監督)。もちろん勝って終わるのが良いけれど、最後の夏は全国4000校の全てが一度は負けて、無敗で終わるのは甲子園優勝校のみ。それじゃ負けた全ての高校は意味が無いのかというとそうではない。試合でやり切って清々しい顔で終わる、キツイ練習だったけど、辞めないで良かったとか。この仲間とやれて良かったという意味の涙が、成長の証しでもあるのだ。

秋の悔しさと一年生中央大会の嬉しさ。その反省で春の大会に臨む

 昨年秋、抽選会を終えて豊見城高校は第一シードの八重山高校のブロックへ入った。初戦那覇高校との戦いを上手くものにすれば、八重山高校は初戦ということもあって、シード食いを狙おうとしていた豊見城高校だったが結果は那覇高校にサヨナラ負け。「7~9回が勝負としているウチらにとって、やはり取っておかないといけなかったイニングを逃したのは大きかった。一方、ピンチを脱した相手にチャンスが巡ってくる。それを象徴したゲームでした」と金城監督。

 2回から4回は三者凡退を繰り返していた豊見城高校だったが5回一死二塁、8回一死満塁、9回一死三塁、さらに10回二死一・三塁と確実に引き寄せていた。
しかしあと一本が出ず、さらに走塁でもミスが目立った結果、那覇高校にサヨナラ負けを喫してしまった。日頃から監督が言っていた通りの展開だったのに。そう思った選手は大勢いたことだろう。

 しかし、一年生中央大会では金城 良太郎が21回と2/3イニングを投げて防御率1.69をマークするなどベスト4入りを果たす。力では上の現2年生たちがこれを奮起の種とし、来る春の県大会で1年前以上の力と技と心の成長を見せれば、優勝も見えてくるだろう。豊見城高校の負けない野球力に期待したい。

(取材・写真:當山 雅通


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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