Column

敦賀気比高等学校(福井)【前編】

2016.02.11

 1月29日、昨春のセンバツの覇者・敦賀気比のもとに創部以来7度目となるセンバツ大会出場決定の吉報が届いた。昨秋は北信越大会を制し、神宮大会においても準Ⅴ。文句のつけようのない戦績で4季連続甲子園出場を果たした北陸の強豪に迫るべく、真冬の福井県敦賀市を訪ねた。

手応えゼロのチームが最高の結果を残せた背景

敦賀気比野球部【北信越大会決勝・敦賀気比vs福井工大福井戦より】

「ボロボロの秋になると覚悟してました」

「現チームを結成した当時の手応えは?」という質問に対し、就任5年目を迎えた東 哲平監督は苦笑いしつつ、そう答えた。

 前チームのレギュラーで残ったのは主将に就任した林中 勇輝のみ。経験の浅いチームにも関わらず、夏の甲子園に出場したことで思うように練習試合を重ねる間もなく、秋の公式戦を迎えてしまった。チームのまとまりも今一つ感じられない。「監督就任以来、最も手応えのない新チーム始動だった」と東監督は言う。

 しかし、ふたを開けてみると、チームは連勝街道をひた走った。5試合で30得点、失点はわずか2という圧倒的なゲーム展開で福井県大会を制すると、北信越大会でも東京学館新潟試合レポート)、富山商試合レポート)を撃破。準決勝佐久長聖戦では、6回まで3点ビハインドの劣勢ながら、終盤に植村 元紀の本塁打などで7得点を挙げ、見事な逆転勝利。決勝では福井工大福井を6対1で退け、2季ぶりの北信越制覇を果たした。

 全く手応えがなかったチームが叩きだした、最高ともいえる結果。その要因を東監督は「過去の遺産」と言い切った。
「先輩たちが築き上げた遺産で勝てたとしか説明がつかない秋でした。相手チームが敦賀気比の名前を意識し、本来の力を出し切れない一方で、うちの選手たちは『センバツを制した先輩方のように俺らもやれる!』『いや、やらねばならない!』という意識の中で終始プレーできていた。過去の先輩らが築き上げてきた実績が『いい勘違い』をさせてくれたことが当初は想像もできなかった結果を呼び込んでくれたと思っています」

 林中主将も「先輩方の力」をひしひしと感じながら戦っていたという。
敦賀気比というだけで相手チームがひるんでいる様子がわかるんです。名前で勝てているという感覚は正直ありました。その一方で、うちのチームは『僕らも先輩らのようにやれる!』『負けるはずがない』という気持ちに慣れていた。好結果が次の好結果を生み、チームもどんどん一つにまとまっていった。そんないいサイクルが出来上がっていた気がします」

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[page_break:まさかの敗戦で芽生えた謙虚な姿勢]

まさかの敗戦で芽生えた謙虚な姿勢

敦賀気比野球部【神宮大会決勝・高松商vs敦賀気比戦より】

 北信越大会の後に行われた神宮大会においても敦賀気比創志学園試合レポート)、青森山田試合レポート)を破り、決勝進出を果たす。迎えた決勝の相手は高松商。しかし7回まで3点のリードを奪いながら、終盤に守りのミスが重なり、終わってみれば3対8。あまりにも苦い形で2015年度の公式戦を終えてしまう。

 林中主将はこの悔しい敗戦と正面から向き合い、次のように総括した。
「最後の最後で自分たちの甘さ、地力のなさを露呈してしまった試合でした。監督からも『ここまでくると先輩の遺産はもう通用しない。これが本当のおまえらの今の力。ここから先は自分たちの力でないと勝てないよ』と言われました。なかなかない優勝のチャンスでしたし、決勝まで勝ち進んだからには勝ちたかったですけど、あのまま優勝してしまったら勘違いしたまま年を越し、春を迎えていたような気がします。謙虚な気持ちで、冬の間に真の力をつけていくことで、決勝で負けたことをプラスに考えられるようにしていきたいです」

 チームに謙虚さをもたらす要因は他にもあった。昨年末に実施された台湾選抜チームとの親善試合において、敦賀気比からは10人が福井県選抜チーム入り。レベルの高い台湾の高校球児のプレーを目の当たりにしたことで「自分たちはまだまだ」という感想を抱いた選手が大半を占めたという。

 福井県選抜メンバーとして台湾遠征に参加した植村 元紀外野手は台湾選抜チームの印象を次のように語った。
「体が大きい上にスピードを備えていることに驚かされました。身体能力がすごいんです。木製バットでびっくりするくらい飛ばしますし、みんなで『あいつらなんなん!?本当に同じ高校生か!?』と言い合っていました。自分たちはもっとレベルアップしなければと思わされましたし、上には上がいくらでもいるということも実感できました。カルチャーショックだらけの遠征でしたが、ものすごくいい経験ができたと思っています」

 明治神宮大会決勝まで駆け上がった敦賀気比ナイン。しかし高松商との試合、そして年末の台湾遠征が自分たちを見直すきっかけになったようです。後編ではさらなるレベルアップを果たすために、どんな冬のトレーニングを送っているかについて伺いました。

(取材・写真:服部 健太郎


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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