神戸国際大学附属高等学校(兵庫)
昨夏の優勝に続き、昨秋も今春も兵庫で優勝。現在、県内21連勝中と敵なしに思える神戸国際大附だが、新チームのスタートは意外にも手探り状態だった。
「柱になるピッチャーがいなくて、それが1番困った。野手も試合に出ていたのは2人ぐらいしかいない」
これが青木 尚龍監督の印象だった。
王者の内情は意外なことばかり
投手・東郷 太亮(神戸国際大学附属高等学校)
外から見ている分には、毎年力のある主戦投手と層の厚い強力打線で他校を寄せ付けない横綱野球を展開しているイメージが強く、ごつい体格の選手ばかりがゴロゴロいるのかと思いきや意外にも小柄な選手も多い。
チームカラーも意外だった。今春の近畿大会は3試合で24得点。打力で相手投手を粉砕する野球が得意パターンだと思っていたが、キャプテン・森田 真(3年)は、
「攻撃面はつながるように。でもピッチャーを中心にした守りの野球です」
と言う。
実際、6月中旬に行われた練習試合では四死球や相手のエラーを確実に得点に結びつけ、7安打で7得点と効率のいい攻めを見せたが、飛距離のある長打は初回に4番・谷本 進太郎(3年)が放った右中間を破る先制のタイムリーツーベース1本だけ。火の出るような凄まじい当たりや、あわやホームランという特大ファールはほとんど無く、センター返しの打球が目立っていた。
一方、3人の1年生を含む5投手の継投は被安打3で1失点、バックも無失策の好守備で支えた。意外さのトドメは青木監督。20年以上強豪校を率いる威厳に満ちた監督かと思いきや、時には冗談を言って和ませる。練習も軍隊のように張り詰めたものではなく、キビキビとした動きの中にもどこかアットホームな雰囲気を漂わせる。
「練習が明るくてとても楽しそう」。これがこの春大活躍した東郷 太亮(2年)の入学時の印象だった。
東郷の公式戦デビューとなったのが兵庫県大会準々決勝の報徳学園戦。先発と言われたのは当日だったが心の準備は出来ていた。
昨秋の決勝で戦った県下最大のライバルを相手に7回途中1失点と文句なしのピッチングを披露し、チームを勝利に導く。
続く準決勝の関西学院戦では好投手・谷川 悠希(3年)との投げ合いにより延長にもつれた試合で見事な完封。「気持ちで負けたら点を取られる。我慢して投げた」と、10イニング続けて0を並べた。
大一番を2つ乗り越えると近畿大会でも全試合に先発し、チームの14年ぶりの優勝に大きく貢献した。
「春よりも安定感を出して信頼されたい。出来るなら全部先発して抑えたい」
と球威のある左腕は夏へ向けてさらなる活躍を誓った。東郷が先発マウンドに上がった時、後ろを任されたのが塩田 大河(3年)。カウントを整えられるスライダーを決め球としても、使えるフォークを持ち球とする右腕は守備からリズムを作って攻撃につなげた。
リリーフ登板が増えつつあった塩田だが東郷が準決勝で延長10回を投げ抜いた翌日、社との決勝では先発マウンドを任される。
「緊張してたんですけど、東郷 太亮があれだけのピッチングしてたので自分もよし、やるぞと強く思った」
後輩の好投に刺激を受けた最上級生は、3点リードの9回に2点を返されさらに一打同点のピンチを招くが、なんとか踏ん張り逃げ切りに成功。
近畿大会でも決勝の北大津戦を締め、優勝の瞬間はどちらもマウンドで迎えた。この2人の投手陣に夏は平内 龍太(2年)が加わる。腰の故障で戦列を離れていたがようやく復帰。
「粘り強い。球に力があるし、バッターを見て投げられる」と青木監督からの信頼も厚い。沖縄での招待試合、沖縄宮古戦では8回までノーヒットピッチングを披露。状態次第では、近畿制覇の原動力となった2枚看板を超える可能性すらある。そうなれば他校にとっては脅威の鉄壁の投手陣が完成する。
朝から2合、アップは6種類。神戸国際大附は毎日が合宿
トレーニングの様子(神戸国際大学附属高等学校)
打線では下級生の頃から主軸を打つ竹村 陸(3年)(2015年インタビュー)が注目される。近畿大会の準決勝、智弁和歌山戦では猛打賞で4打点。県大会では湿りがちだったバットがここぞの場面で火を吹いた。
入学時はセカンドだったが、その後サードを守り、新チームになると今度はライトへコンバート。人生初となる外野にもすぐに対応する野球センスの高さを見せつけ、低く鋭い送球は能力の高い選手が集まる神戸国際大附の外野手の中でも一際目立っていた。
キツかった練習は冬に行う山ランだという。アップダウンのあるコースのランニングはもちろん楽ではないが、人によっては最初にそれ以上に苦しむのが食事。約50人いる寮生は朝から2合以上のご飯を食べる。もちろん寮生以外もランニング量、食事量を減らさないように指導されている。そのため中学時代に朝ごはんを食べなかった選手は最初の競争で出遅れるという。体作りも激戦区を勝ち抜くためには欠かせない。
アップの種類も豊富で、ランニング後すぐキャッチボールに移行するもの、しゃがんだ体勢での歩行を取り入れたアヒルと呼ばれるもの、4ヶ所でバントとダッシュを繰り返すもの、トレーニングも兼ねたうつ伏せと呼ばれるものなど合計6種類。
朝は6時の清掃から始まり、コースによっては午後から部活動の時間がとれる日でも、練習が終わるのは20時過ぎ。この日々を過ごしながら週末には宿泊を伴う遠征が多く組み込まれ、対戦相手は全国クラスの甲子園常連校ばかり。
そのため6月には追い込む練習を課すチームも多いが、神戸国際大附のメニューは普段と変わらない。
「強化合宿みたいなことをするところもありますけど、うちは毎日合宿みたいなものですから」
青木監督はそう言った後、「根性はついてる」と自信をのぞかせた。
心構えに油断は無い。甲子園出場ではなく甲子園での勝利を目指す
今の3年生が1年生だった2年前も春の近畿大会で準優勝するなど投打共にレベルの高い選手が揃い、夏も優勝候補の大本命に挙げられていた。しかし、伊川谷に1点差で敗れまさかの初戦敗退。
先輩たちの悔しい姿を目の当たりにしているだけに塩田は、
「秋、春の優勝は忘れてチャレンジャー精神で初戦から全力で。絶対にもう1回甲子園に行きたい」
目標シートが並ぶ(神戸国際大学附属高等学校)
青木 尚龍監督も、
「僕も選手らも過信はしていない。ちょっとでも緩いところがあったらあかんのですけど、注意したらスッと受け入れよる」
と心構えに油断は無い。通路には部員全員の目標シートが張り出されている他、至る所に張り紙がしてある。
内容は牽制球の考え方、コースやカウント別の考え方など野球の技術面に関することも中にはあるが、そのほとんどが心構えに関するもの。
「努力・忍耐の 先に 根性がある」
「相手に 負けたのではない 自分に負けたのだ」
「狙う“気”」
などがその一例。約90人という大所帯ともなれば気が緩みがちだが、求められるのは個人の意識。それが無ければどんなに注意しても効果は薄い。
一昔前の強豪校でよく見られた、怒鳴る指導者とそれに大声で返事する選手の関係では、パフォーマンスにはなっても本当に伝えたいことは理解していない場合がほとんどだ。1ヶ所だけではなく数ヶ所に貼られた「故障者の心得」には、
・故障者は、健全な選手と同じ行動していては、追いつかないことを熟知すること。
・患部外トレーニングを積み、復帰時には、体力レベルが向上しているよう。
・怪我を理由に都合よく利用しない。逃げない。目標を明確にし、自分に厳しく。
などと記されている。青木監督も練習中は常にグラウンドで目を光らせているというわけではなく、自らグラウンド周りを掃除したりとわざと席を外す。
やはり大切なのは個人の意識。やらされるのではなく、自分たちで考えて行動出来る集団になるとチームのレベルが1段上がる。この夏の目標をキャプテン・森田 真は、
「まずは県大会を勝って、去年悔しい思いしてるので甲子園で校歌を歌えるようにしたい」
と話す。昨夏の甲子園は初戦で姿を消した。4番を任された竹村 陸もノーヒットに終わっており、
「去年甲子園で全然ダメでしたので、今年は甲子園で結果を残せるようになりたい」と意気込む。
甲子園出場はあくまでも通過点、秋春と兵庫で優勝を飾っているが、甲子園で勝利を挙げて初めて去年のチームを超えられる。
(取材・文=小中 翔太)