Column

成瀬 善久投手(東京ヤクルト)が語る「コントロールの良い投手の条件とは?」

2015.06.04

 シーズン143試合という長丁場のプロ野球取材を続けているうちに、「勝てる投手」の条件として見えてきたことがある。どれだけボールに意志を込められるか、という点だ。
たとえば剛腕投手なら、思い切り腕を振ってボールに力を伝えることを何より大事にする。細かいコースを狙うのではなく、ストライクゾーンというひとつの的に力のあるボールがいけばいい、という発想だ。

 一方、制球力で勝負するピッチャーは、狙ったコースをどれだけ正確に突けるかが大切になる。球数を重ねても集中力を切らさず、忍耐強く、その精度をどれだけ高く維持できるかが勝敗を分けるポイントになるだろう。

「ボールに意志を込める」ということは、つまり、「自分の特徴を把握したうえで、いかに持ち味を発揮できるか」ということだ。今回、昨季までの実働9年間で90勝を挙げてきた成瀬 善久投手(ヤクルト)にじっくり話を聞いて、改めてそう感じた。「勝てる投手」は、「勝つための考え方」を前提として持っている。

 投球術はどうやって磨いていけばいいのか。将来飛躍を果たすため、高校時代にどんな考え方をして、どういった練習をするべきか。また、横浜高校時代に1学年下の後輩だった涌井 秀章投手(ロッテ)との関係、本塁打を打たれた後にどう気持ちを切り替えているか、今季思うように勝ち星が伸びていない葛藤との付き合い方など、高校球児が成瀬投手に聞きたい質問にも答えてもらっている。

 成瀬投手はレベルアップを目指す高校生のため、プロで活躍する一流投手の秘伝を包み隠さず明かしてくれた。1万字を超えるインタビューには、野球選手として持っているべき思考性や信念、テクニック、そして野球をもっと楽しむための方法が詰まっている。

コントロールの良い投手の条件は狙い通りに投げられる集中力を継続すること

成瀬 善久投手(東京ヤクルトスワローズ)

――成瀬投手と言えば、一番の印象として「コントロールがいい」と思い浮かびます。制球力はどうやって身につけてきましたか?

成瀬 善久投手(以下「成瀬」) 難しいですよね。もちろん、そこに投げるという意識もあると思います。でも、どうしても力むことはありますからね。インコースに真っすぐを投げるとき、ちょっと力むことによって中に入ってきて、ホームランやヒットを打たれたりするのがプロの世界だと思います。だから、いかに1球で狙い通りのところに投げられるか。その集中力が大事だと思います。

――1球で投げ切る集中力。プロで勝っている投手の言葉ですね。

成瀬 もちろん練習をやらない限り、そういうことも身につきませんよね。あとは、「自分がここまで練習してきたから、キャッチャーに要求されたボールを投げられる」というメンタルもすごく大切だと思います。

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[page_break:どうすれば自分の特徴を押し出すことができるか?]

――投げる際の意識がコントロールに大きく影響するわけですね。

成瀬 プロ野球でもコントロールのいい人がいれば、そうでない人もいます。そのなかで僕にコントロールがいいというイメージを持ってもらっているのは、スピードボールを投げていない分、コントロールで勝負するしかないという思いがあるので。球が速い人以上にコントロールを意識しないといけないと思っています。

――いつからそういう意識でやっていますか?

成瀬 中学校までは速球派でやってきたつもりです。横浜高校に行って、自分より球が速いピッチャーがいて。僕も決して遅くはないと思っていたんですけどね。体が大きくなっていけば、ある程度はスピードが出るようになるかなと思っていた部分もあります。コントロールを重視するようになったひとつのきっかけは、1個下に涌井(秀章、現ロッテ)がいたこと。それがあったから、「コントロールを重視しなきゃいけない」と渡辺(元智)監督から言われて。それから、より意識するようになりましたね。

どうすれば自分の特徴を押し出すことができるか?

――1学年下の涌井投手は、当時の成瀬投手にとってどういう存在でしたか?1学年下に、すごい才能を持った投手がいるわけですよね?

成瀬 いや、そんなことはないですよ、高校のときは。だってまだ、伸び盛りじゃないですか。

――確かに、成長中の段階ですね。

成瀬 僕が2年生の秋の県大会で涌井に背番号1をとられましたけど、そんなにショックは受けませんでした。自分の状態がよくないのもあって、「監督がちゃんとやれよと言っているんだな」と思いましたね。実際、関東大会に行く前、当時の部長だった小倉 清一郎さん(昨年、コーチも退任)から「もともとは、お前が1番だ。チームを引っ張っていく自覚がないから、10番にした。関東大会では、お前が1番だからな」と言われたことをいまだに覚えているので。

――胸に響く言葉ですね。

成瀬 それくらい自分がだらしなかったと思っているし。僕のなかでは、「涌井がいるからエースになれない」っていう絶望感はまったくなかったです。すごい才能というよりも、そこまで意識していなかったですね。エースをとられる心配はなかったというのが、正直なところで。自分で練習しているという自負もあったからこそ、そう思っていました。

 

 成瀬投手と話していて感じるのは、「強烈なプライドと自信」だ。もちろん、それらは練習で獲得してきた実力と精神力に裏打ちされている。さらに、試行錯誤を繰り返しながら、「理想と現実」をうまく使い分けられる境地に到達している点が印象的だった。

 野球の競技特性を考えると、投手は打者に対し、ボールを投げ込むというアクションを仕掛けていく側だ。主導権は投手にある。同時に勝負に勝つためには、受けて立つ側の打者心理も理解しなければならない。成瀬投手が技術的に優れるのは、いかに自分が持ち味とするボールを投げ込むのかだけではなく、どうやって自分の特徴を押し出すかという思考力にもある。

 第2回は、成瀬投手が考える「配球論」に迫っていきます。

(文・中島 大輔

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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