Interview

スジーワ・ウィジャヤナーヤカさん 「審判員として見た今春の選抜甲子園」

2015.04.15

 高校野球はいろいろな人の支えによって成り立っている。特に審判は試合をする上では欠かせない存在。今年の選抜甲子園では、あるニュースが話題にあがった。「外国人の甲子園審判員」となったスジーワ・ウィジャヤナーヤカさんについてだ。

 現在、福岡高校野球連盟に加盟し日々ジャッジを振るうスジーワさんは、福岡高野連の推薦を受け、派遣審判員として甲子園のグラウンドに立った。この春、3試合ジャッジをして、改めて感じたこととは。スジーワさんから、我々が忘れていた高校野球の魅力や夢のお話をお聞きした。

スジーワさんが感じた「甲子園の魅力」とは

委員会の方と記念撮影(写真提供・スジーワ氏)

 福岡高野連の代表として[stadium]甲子園[/stadium]のグラウンドに立てることとなったスジーワさん。
「ぜひ甲子園での経験を、福岡の高校野球のために持ち帰ってください」

 甲子園で審判を務めることとなったスジーワさんに対して、福岡高野連の役員の方から掛けられた言葉だ。
スジーワさんが甲子園で審判デビューをしたのは、3月23日の仙台育英vs神村学園の試合(試合レポート)。[stadium]甲子園[/stadium]のグラウンドに立って感動したこと、それは「スタンドの温かさ」だったという。
「今までは、良いプレーが出るとどちらかのチームが喜ぶ姿を見てきた。でも甲子園では、何か良いプレーがあったり本塁打が出れば、そのチームの応援団だけではなく、みんなが喜んでいる。そこが甲子園の良いところだと感じました」

 そう話すスジーワさんは、これまで、世界大学選手権、全日本大学野球選手権、都市対抗野球大会、女子野球など数多くのカテゴリーの大会で審判を務めてきたが、甲子園のファンの温かさは、一番印象的のようだ。そして温かい声は選手のみならず、スジーワさんにも届けられた。

「なかなか観客が審判に声援を送ることはないのです。でも甲子園では審判にも温かい声を送ってくれます。甲子園では『スジーワ、頑張れ』と私を応援する声も聞こえました。本当に嬉しかったですね」
球場外でも、子供たちや老人の方に呼び止められ、記念撮影することも多かった。

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[page_break:ジャッジで心がけている5つのポイント]

ジャッジで心がけている5つのポイント

 スジーワさんは、3月23日の試合に加え、3月25日の健大高崎vs宇部鴻城戦(試合レポート)で一塁塁審、3月26日の東海大四vs豊橋工戦(試合レポート)で三塁塁審を務めた。
3試合をジャッジして「今まで取り組んできたことが自信になった」と振り返る。2年前のインタビューで、スジーワさんが審判として心掛けていることを、こう語ってくれた。

「一塁、二塁、三塁、どの審判でも守らないといけないポイントがあります。まず、全てプレーに対し、止まって見ること。角度を取ること。ボールの方向は自分の体の方向の正面であること。判定を急がないこと。あとは待ち受けること。その5つを守った上で100パーセント、120パーセント、150パーセントの良いジャッジができると思います。簡単ではないです。でも、しないといけない。

 選手は良いプレーをしている。私は5つのポイントを守って、100パーセント、120パーセント、150パーセントのジャッジができるように心がける。それぐらいちゃんとやらないといけません。それが我々の仕事ですから」

 このポイントを守るためにスジーワさんは長い時間をかけて準備を行ってきた。こうしてスジーワさんは自身の審判像を築き上げてきたのだ。それでも不測なプレーが出てくる。だがスジーワさんは、それを嫌と思わず、「感謝」の思いなのだと語る。

「私がジャッジした3試合は、確かに難しいプレーがありました。でも選手たちに感謝です。そういうプレーに巡り合えたことで、私も学びになりますから。非常に良い学びになった甲子園でした」

 実際に東海大四vs豊橋工の試合では、東海大四の二塁走者が三塁コーチャーと接触し、「守備妨害」を宣告した。あのジャッジに対し、多くの審判員に「よく見ていたね!」と褒めてもらったそうだ。スジーワさんは今年の甲子園で審判を経験して、大きな自信をつかんだ。

甲子園から得たものを還元するには

スリランカの野球場

 甲子園から福岡に戻ったスジーワさん。今は「甲子園で経験したことを福岡の高校野球のために還元することを考えています」

具体的には、どんなことだろうか。
「人間としての温かさ、思いやりですね。甲子園では改めて日本野球の良さを実感しました。仲間を思いやる気持ち、みんなで助け合いすること、そしてグラウンドでの挨拶など。日本に来て感じた魅力を改めて確認することができました。そのことを福岡の皆様に伝えていきたいと思います」

 甲子園がここまで発展したのは、高校野球は「人として大事なことを多く気付かせてくれる」からであろう。そこに共感した多くの人々たちの支えによって大きくなったのではないだろうか。スジーワさんが感じたことは、人として絶対に失ってはいけない価値観だ。

 スジーワさんは[stadium]甲子園[/stadium]で審判するのが夢であった。だが、「[stadium]甲子園[/stadium]で審判したことがゴールではなくて、ここからが自分にとってスタートです」と答える。

スジーワさんのもう一つの夢は、「南アジアの甲子園」を作ることだ。これは前から語っていたことである。2012年に設立されたスリランカ初の野球場を舞台にしようと動き出している。日本の甲子園で審判を務めたスジーワさんは一歩、自分の夢に近づいた。

 今年の甲子園は、日本にとっても、スリランカにとっても、大きな架け橋になったかもしれない。

(文=河嶋 宗一

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これまでのスリランカ野球に関する記事を紹介!

今、読んでおきたいスリランカ野球の関連記事!

スジーワ・ウィジャヤナーヤカさん(撮影・阿部謙一郎)

今までに配信したスジーワ・ウィジャヤナーヤカさんへのインタビューや、スリランカに関する記事を紹介します。

■スジーワ・ウィジャヤナーヤカさん インタビュー前編  【スリランカ野球の今】(2013年10月27日公開)
■スジーワ・ウィジャヤナーヤカさんインタビュー後編 【スリランカ野球の今】(2013年11月10日公開)

前編
では野球との出会いから日本に来て、初めて甲子園を見た時のことについて、後編では日本で審判員として活動する思いや、今後の南アジアの野球発展への思いを伺っています。

■渡辺泰眞さんインタビュー/日本で活躍中の選手紹介&現地映像 【スリランカ野球の今】 (2013年11月22日公開)
スリランカの現地の様子を撮影した映像や、日本で活躍しているスリランカにゆかりのあるプレーヤーを紹介しています。また、2013年1月まで青年海外協力隊として活動していた渡辺泰眞さんへのインタビューも公開しています。

■一次予選を戦う、スリランカの野球とは?(2014年08月31日公開)
昨年の第10回BFAアジア選手権で日本と1次ラウンドで対戦したスリランカ。どんなチームなのかについてスジーワさんの話をもとにお届けしています。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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