県立松戸国際高等学校(千葉)【前編】

「感性を働かせるコミュニケーション術」
2012年春、2014年秋と二度の関東大会に出場し、近年、力を付けてきている松戸国際。元々女子生徒が多く、進学校で、週2回7時間授業がある。そして、専用グラウンドがあるわけではなく、他部活との兼用という環境の中、力を付けてきた。その松戸国際が大事にしているのは「マナー・振る舞い」「感性」「コミュニケーション」だという。この3つを大事にしている理由、その指導法を探ってみた。
一から作り上げた松戸国際野球部

石井 忠道監督(松戸国際)
松戸四中、常盤平中、松戸六中、市立船橋を経て、2007年春に松戸国際に赴任した石井 忠道監督。石井監督が就任した当初、グラウンドはボコボコで砂利だらけ、照明もない。部員も10人そこそこ。新入部員は僅か4人だった。
そんな環境でも、石井監督は、
「一から強くするのは、苦ではないです。私は、強豪校からすればベンチに入れないような選手を、強豪校にも通用する選手、チームに育てあげることには自信があるので」と語るように、地元の方の支援を受けて、グラウンドの整備から進めていった。
松戸国際は進学校で、私学強豪校のように選手が集まるわけではなく、望み通りに選手が入学できるわけではない。
そのため、就任当初、近隣の中学校の先生方には、「野球の上手い、下手は関係ない。とにかく勉強が出来る子に来てもらいたい」と伝えていた。
そんな中でも、石井監督に憧れた中学球児が松戸国際に進学を決意し、就任2年目にはなんと27人が入部。この代から「やっと指導のレベルが上がった」と振り返るように、彼らが3年生になった2010年には夏の千葉大会で、ベスト16入りを果たし、2012年春には関東大会出場。さらに2012年夏にはベスト4と、いよいよ甲子園が見えるチームになってきたのだ。
現在、マネージャーを合わせ、2学年で部員60名の大所帯となった。しかし、戦力としては、最速142キロの速球に加え、キレ味鋭いスライダーを投げる大エース・植谷 翔磨はいるものの、中学時代、有名ではなかった選手の方が圧倒的に多い。そんな彼らがなぜ戦国千葉を勝ち抜いて関東大会出場を果たせるチームへ成長したのだろうか。
元内野手がエース植谷の持ち味を最大限に生かす好捕手へ
「強豪校に対抗するには、今ある選手をしっかりと生かしきらないと戦えないです」
と石井監督が語るように、強いチームを作るために選手の個性、長所を見て、何を伸ばすべきか、この選手はどういうポジションならば輝けるのかを考えて、コンバートも行っていく。

岡本 耕典主将(松戸国際)
現在、正捕手で主将の岡本 耕典は、元々内野手だった。それを石井監督は、
「私は捕手出身なのですが、初めて見た時、岡本には捕手の適正があり、絶対に捕手にしようと思っていました」
と昨夏、捕手にコンバートさせた。
しかし、当の本人は嫌だったという。
「自分はそれまではサードだったのですが、内野手というポジションに拘りをもっていたので、捕手になったときは嫌で、何度もやめたいと思っていました」
石井監督は、岡本が嫌がるのは承知していた。だが、我慢してでも岡本を捕手として育てる必要性があった。
「新チームになったとき、絶対に必要な存在になると思っていたので、とにかく我慢強く育てました、捕手をやり始めた時は、植谷の速球、スライダーも捕れず、身体に当たるたびに涙を流しているんです。
これでは、厳しく突き放しては駄目だと思い、音を上げたら、ストップさせ、まず私が手本を見せる。そして岡本がやる。そのサイクルで少しずつやっていきましたね」
そういった中で、岡本は少しずつ技術を高め、今年の春季千葉県大会では正捕手として出場。そして自信を深めたのは、春季県大会準々決勝の東海大望洋戦だ。
ピンチの場面で、ミートが上手い左打者・中古 珠輝也 を迎えた。それまで中古には3打数3安打と、全打席で打たれていたが、植谷に高めのストレートを要求して、三振を奪った。
「僕は駆け引きしながら野球をやるのが好きなのですが、あの時は本当に自分の思い通りのリードが出来て、捕手というポジションが楽しいと思えるようになってきました」
と岡本は振り返る。今では植谷の速球、スライダーをしっかりと止められるようになり、ピンチの場面でもスライダーが使えるようになった。
岡本の成長がこの秋の植谷の快投を呼び込んだといっていいだろう。また、岡本が主将に就任したことで、責任感が芽生え、自らキャッチング、スローイングの練習に取り組むようになった。1年前と比べ、精神的に大きく成長している。
そして、駆け引きが出来るようになるには、相手チームの動きを観察したり、その結果どうするべきか判断できる能力が大事だ。そのために、松戸国際では「感性」を大事にしている。では、普段からどんな行動を心掛けているのか。
感性を働かせるには、手でグラウンドをならすことから
まず、松戸国際の試合を見ると、シートノック練習後に、選手が土をならしている。その意味について石井監督は、
「選手はグラウンドの上でプレーするもの。触ることで、ボコボコだな、綺麗だなと感じることがあると思います。ボコボコならばイレギュラーが多くなって、ケガに注意する必要があると気付くじゃないですか。また風を感じれば、今日は風が向かい風なのか、追い風なのかで、打球の判断が変わりますよね。日頃の生活から何かを感じて、行動をすることが大切です」と語る。

練習グラウンドのベンチに書かれている言葉(松戸国際)
【勝者は勝者らしくふるまうこと】
また練習グラウンドにあるベンチにはいろいろな言葉が書かれている。これも感性を磨き、観察力のある選手になるために必要なことだという。一部を紹介すると、
『勝者は、勝者らしく考え、ふるまい、行動する。勝者になりたければ勝者らしく考え、歩き、食事をし、練習をし、試合に向かい、戦うことが必要である。行動はキミの動機を強化し、行動は成果を作り出す。』
この言葉を、単に選手同士で読み合わせをするだけではなく、この言葉を発しながら、実際に自分の行動について確認をしていくのだという。主将の岡本は、
「言葉を発して、ただ読んで終わりにするのではなく、自分たちの行動を振り返り、実際にできているかを確認するのがうちのやり方です」と話す。
勝つために普段の練習から精神的なモノを呼びかける言葉を読み合わせするだけではなく、自分の行動の確認と改善をすれば、行動は変わってくる。選手の話し合いに石井監督は入らない。指導者に言われて変えるのではなく、あくまで自分自身で変わらなければならないのだ。
また選手同士では、練習後にベンチ横にあるホワイトボードで日々の練習の反省を書き出している。
「練習の中で、これが出来た、これが課題に残ったということをみんなで話し合って、書き出していきます。ここが一番みんなと話せる時間で、自分たちにとって大切な時間です」と話す岡本。その中で、チームとして求めたのは、試合に出場する選手とスタンドにいる選手との一体感である。
「強いチームを見ていて、選手とスタンドにいる選手たちの一体感がすごいと感じたんです。それが出来るようになるには、試合に出場している選手が出場していない選手に認められるような選手にならないと思います。だから姿勢についても厳しく言ってきました。秋ではその一体感がありましたし、スタンドにいる選手の後押しがあったからこそ、関東大会準々決勝までこれたと思います」
と岡本は振り返る。強いチームとはどうあるべきなのか。選手たちが考えた答えが、「一体感」だったのだろう。
松戸国際が重視する感性。そこにはグラウンドで土をならす、また選手たち同士で、自己啓発の言葉を読み合わせを行い、そして行動に実践するなど工夫を凝らした取り組みが行われていた。後編では、この取り組みで、どんな選手、チームを目指してほしいかを語る。
(文・河嶋 宗一)