法政大高vs早稲田実業
東京六大学対決でスタンドも盛り上がったが、法政が延長10回、劇的サヨナラ3ラン
OBも一緒になって応援する早稲田実スタンド
さすがに東京六大学の系列校同士の対戦である。試合前から、スタンドは[stadium]神宮球場[/stadium]の大学のリーグ戦ムードだった。早稲田の応援歌「紺碧の空」が奏でられ、「コンバットマーチ」が勇ましく流れてくる。三塁側からも、法政大高の応援歌「若き日の誇り」が鳴り響き、「……破れ堅塁を」と歌い上げ、「チャンス法政」で畳みかける。
そして、点が入ればどちらのスタンドも高校生と、その親以上にもなるであろうくらいの古いOBが一緒になって肩を組んで校歌を歌う。そんな光景も見られる試合は、スタンドの雰囲気もよく、ゲーム展開も緊迫感がいっぱいでさらに盛り上がった。
早稲田実業は松本 皓君、法政大高は小松君と、ともに右の上手投げ投手対決となった。
先制したのは法政大高だった。
法政大高は2回、一死から6番の小松君が内野安打で出ると、続く四條君が三塁線を破って二三塁とする。そして、8番佐藤孝憲君が左前へ落して2者を帰した。
日大三にコールド勝ちするなど破壊力を見せて(試合レポート)、力では1枚上と言われていた早稲田実業に対して、いい形でリードしただけに法政大高ベンチと応援席は大いに沸いた。
早稲田実業もすぐに、3回に田口君のタイムリー打で1点を返し、4回にも9番金子君の右前打と外野手の後逸もあって、これで同点とする。
それでも、法政大高はめげないで、その裏すぐに、またしても佐藤君が左前へタイムリー打を放って、再びリードを奪う。見るからに非力な感じの法政大高下位打線だが、ここまで佐藤君は全打点を挙げる活躍だった。法政大高は大学のイメージとは異なって、野球部など運動部としての推薦枠などを設けているという学校ではない。共学化されて、さらにその傾向が強くなってきたという。そうした中で、今大会はバッテリーが安定しているということもあって、苦しい試合をしのぎながらここまで来た。
そして、全国制覇の実績もある早稲田実業に対して、まさかのリードを奪いながら終盤を迎えることになった。小松君としても、何とかこのリードをキープして逃げ切りたいというのが本音であろう。
投打のヒーローとなった法政大高・小松君
ところが8回、早稲田実業がちょっとしたミスに乗じて追いついた。四球とボーク、バントで一死三塁となったところで、スクイズを決めた。和泉監督の「何とかしてでも追いつきたい」という気持ちの表れでもあったが、近年セーフティスクイズなどが多くなってきた中で、三塁走者も好スタートの典型的なスクイズだった。
それでも、法政大高としてはそのあとをしっかりと押さえて、リードを許さなかったことは大きかった。
9回、そして延長に入った10回と、小松君は3人ずつできちっと押さえていった。ここへきても、持ち味と言ってもいいタテのスライダーのキレ味は衰えていなかった。このあたりは、この試合にかける気持ちの表れでもあったといっていいであろう。
ことに、早稲田実業打線がストレートには滅法強いということで、いかにスライダーを有効に使っていくのかということを考えての投球だった。このあたりは捕手の細田君の好リードもあったのであろう。
試合展開からすれば、このまま延長が長引いていくかもしれないなという空気もあった。早稲田実業は、7回から2イニングだけ一塁手の宮崎君と松本君を入れ替えたが、スピードのある宮崎君が2回をしのいで、9回から再び松本君がマウンドに登っていた。
その再登板の2イニング目となった10回、法政大高は代打伊原君が死球で出るとバント後、細田君は敬遠気味で歩き、原田君はいい当たりながら右直。二死一二塁となったが、小松君の思いを込めた一振りは左中間へサヨナラ3ランとなった。
思わぬ形の一発で、法政大高は劇的な勝利となった。植月文隆監督も、「相手の方が力があるのはわかっていましたから、何とか食いついていこうとして、粘って粘っていこうということは言っていましたが、まさかこんな形になるとは…」と、驚いていた。
そして、小松君の最後の一打に関しては、「とにかく、抜けろ抜けろと思っていましたが、まさか入ってしまうとはね…」と、思わぬ小松君の本塁打に喜びは隠せなかった。
(文=手束 仁)