試合レポート

鶴岡東vs山形南

2014.09.24

コールド負けから見えたもの

鶴岡東vs山形南 | 高校野球ドットコム

鶴岡東・福谷

 20日の1回戦で日大山形を破った山形南と、2011年夏の甲子園に出場するなど実績のある鶴岡東が対戦した。

 1回裏、山形南は1死満塁から5番・森谷実が死球を受けて先制した。3回に2点を失うも、その裏、2死1塁から森谷が左中間へ適時二塁打を放ち同点に追いついた。その後、7回まで拮抗したゲーム……というよりは、山形南が食い下がっていたゲームと言った方がいいだろうか。

 山形南は、鶴岡東のピッチャーが交代した4回以降、相手のエラーに助けられながらチャンスを作っていたが、それを活かせずにいた。7回には、2死から3番・渡辺航大がセンター前ヒットを放ち、4番・日下部のライトオーバーの適時三塁打で1点差に迫った。しかし、押せ押せなムードはない。

 そして、8回だ。5番・丸山大への死球から始まり、犠打の後、先発・森谷は3連打を浴びた。四球を与え、さらにタイムリーを許したところで降板。ところが、センターから2番手で登板した東海林光治も流れは変えられなかった。あっという間に8点を失い、8回コールドで敗れた。

 山形南石井貴之監督は試合後、「電池切れです。8回の8点、悔しいですね……」と唇をかんだ。

 組み合わせが決まると、方々から「いきなり大変だね」「番狂わせということもあるから」という声が寄せられたという。
1回戦は、昨夏の甲子園で県勢初のベスト4入りを果たした日大山形。世代は変わっても、能力の高い選手が鍛えられてそろっている。2回戦は常に県の上位に入り、甲子園出場経験もある鶴岡東。初戦で高い壁に挑み、もし、勝ったとしても、また壁は高いと見られるのは、当然と言えば当然である。


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山形南・森谷

「ウチの負けが前提なんですよ。ウチが弱いというのが。日大山形という実物ではなく、得体の知れないモンスターと戦うような空気がありました。選手たちの日誌は、『きちんとやれば勝てる』とか空元気で強がっているようにしか見えませんでした」(石井監督)

 県内有数の進学校である山形南は、過去5回の甲子園出場があるが、1980(昭和55)年を最後に甲子園からは遠ざかっている。
試合を前に、石井監督は選手たちに言った。
「人は強がっていると、饒舌になったり、変に明るくなったり、空元気になったりする。不安を打ち消そうとする。地に足をつけて戦おう。心の軸とバッティングの軸をぶらすな。相手どうこうではなく、ベストパフォーマンスをしよう」

 この言葉は、山形南の選手たちの心に染み入った。山形南から国学院大に進んだ石井監督は、大学野球部時代、全国の強豪校出身者とチームメートになったが、引け目を感じなかったことなども話した。さらに、もう1つ。山形南ナインに自信を持たせた“刷り込み”がある。

「普段、サッカー部やラグビー部がいなくなった後、真っ暗になってから照明の明かりの下で打ちっぱなしをするのですが、この時はいいバッティングをするんですよ。真ん中が打撃マシン、両サイドがバッティング投手で。ところが、試合になって円(ネクストバッターズサークル)から四角(バッターボックス)に移った途端に打てなくなる。だから、真ん中に打撃マシンがあって、その両サイドでバッティングピッチャーが投げている、その光景をイメージする。そして、日大山形のピッチャーを打つのではなく、ボールそのものに集中しようと。思いを切って、思い切りです」


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山形南ナイン

 強豪校のピッチャーというだけで、勝手にハードルを上げてしまうことはあるだろう。確かに、レベルは高いかもしれないが、勝手な思い込みで「凄いピッチャー」を作り上げてしまうこともある。山形南には素直な選手がそろっているようで、監督の言葉は選手たちに自信を持たせた。

 そうして迎えた日大山形戦。0対3の7回に同点に追いつくと、延長10回表に4点を奪って勝ち越し。その裏に3点を返されたが逃げ切り、「20数年ぶり」(石井監督)となる日大山形からの勝利を挙げたのだ。

 この鶴岡東戦は8回に突き放されて敗戦となった。石井監督は「力不足。私に雑念がありました」と言った。
鶴岡東とは、前任校の北村山での監督時代から練習試合をしてきた。佐藤俊監督から学んできたところもある。そんな“師匠”と公式戦で初めての対戦だった。そして何より、「日大山形に勝った」という事実が重過ぎた。

 村山地区の一次予選で山形市立商にコールド負けから始まったチームは、二次予選初戦でサヨナラ勝ち、その後も1点差で勝利するなど、苦しい戦いを通り抜けてきた。県大会初戦で高い壁を乗り越えたが、その先の壁に跳ね返された。

 「チャレンジするものができました」と石井監督。こう続ける。
「『甲子園を目指す』と口だけではなく、目指すチームの姿になること。まだ口先だけです、私も。1点差に迫って、これから逆転するぞ、と勢いを付ける矢先に8点を失った。技術的にも精神的にもやり直しです。復活するために」。

(文=高橋昌江

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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