試合レポート

前橋育英vs日大山形

2013.08.21

前橋育英が決勝へ!日大山形の戦いを分析

 前橋育英の先発・高橋光成(2年・右右・188/82)の投球フォームを「下半身を使えていない」と疑問視する向きがあるようだが、私はまったく問題を感じない。
 力7分程度で投げられるのは下半身主導の投球フォームのためで、ピンチを迎えれば少し力を入れて140キロ超えのストレートを投じ、右打者が続く6~9番打者には外角に逃げていくスライダーを効果的に使って7奪三振のうち、5三振を奪うという頭脳派ぶり。危なげない投球だと思って見ていた。

 日大山形でヒットを打ったのは左打者が6本、右打者が1本と偏っていた。見方を変えれば高橋光成攻略のカギを握るのは左打者ということになる。しかし左打者が1~5番、右打者が6~9番と固まっていたため、得点できたのは6回だけだった。左右打者が交互に打席に入るジグザグ打順がいかに重要か、この試合を見て再認識させられた。

 高橋光成に話を戻すと、変化球のコントロールがいいので追い込まれたら打てない、と打者の頭に刷り込めたことが大きい。球数104球が充実ぶりを如実に物語っている。この高橋光成を攻略したのは1番青木龍成(2年・中堅手・右左・168/64)と3番峯田隼之介(3年・左翼手・右左・175/76)の2人。青木が前さばきで対応していたのとは逆に、峯田はボールを呼び込んでセンターから左に打とうとしていた。

 ミートポイントを捕手寄りにしないとこういうバッティングはできない。肩の位置にグリップを置き、これをトップ(打ちにいく直前の形)のとき少し上げてボールを上から捉えようというのが峯田のバッティング。バットが立った状態で上から叩くことでヘッドが最短距離で出ていく。そのためボールを長く見ることができる、という理屈である。
 第1打席の中前打、第2打席の中前打ともそういうバッティングだった。第3打席はレフトフライに終わっているが、このときも137キロのストレートを捕手のほうまで呼び込んでレフト方向におっつけて打った。
 



 

 前橋育英では1、2番がチャンスメーカーとしての役割を果たした。1回は1番工藤陽平(2年・中堅手・左左・169/66)、2番髙橋 知也(3年・二塁手・右右・170/68)が連続安打でチャンスを作り、3回は髙橋 知也の二塁打からチャンスを作り、いずれも4番荒井海斗(3年・三塁手・右右・176/75)の犠飛とタイムリーで三塁走者を迎え入れた。

 3対1で迎えた7回には先頭打者の工藤が内野安打で出塁したあと二盗、続く髙橋 知也のバントが投手の野選(フィルダースチョイス)を誘って無死一、三塁、そして髙橋 知也が二盗して二、三塁のチャンスを作り、土谷の二塁ゴロで1点という具合。1、2番の充実ぶりが伝わってくる。

 日大山形は2回戦の日大三戦、3回戦の作新学院戦、準々決勝の明徳義塾戦を庄司瑞(3年・右右・185/75)の右腕だけで戦ってきた。私事だが、この日の朝、東京のFMラジオに電話出演し、「準決勝に進出した4校の特徴は何ですか」という問いに対して、「日大山形以外は力のある複数のピッチャーを擁しています」と答えた。甲子園で勝つには複数の投手を揃える、というのは現在の常識である。しかし、日大山形は庄司1人に頼った戦いを山形大会から続け、それが私には不安要素に思えた。強豪との対戦が続いたので2番手以降の投手を起用する余裕がなかった、というのが本音だろう。

 個人技では日大山形の4番奥村展征(3年・遊撃手・右左・177/72)がやはりよかった。とくに目についたのが守備。間一髪でセーフになったが、7回に工藤が放った三塁寄りの鋭い打球を深い位置で好捕すると、ノーバウンドの遠投で強肩を見せつけた。

 打撃面では6回に二塁打を放ち、中堅手のエラーが続いて三進、続く5番打者の犠飛で唯一の得点を記録している。もっとも、本人の中では3回の2死一、二塁のチャンスで三振に倒れたことが納得できていないだろう。そのリベンジはこれからの野球人生で晴らしてもらいたい。

(文=小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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