Interview

ミズノバットマイスター 久保田 五十一 さん※レイアウト確認用

2013.02.25

ミズノバットマイスター 久保田 五十一 さん2013年02月25日

 ミズノバットマイスターの名人こと久保田五十一さんに今回は、選手の要望に応えてバットを削る際のポイントや、クラフトマンとしてのこだわりなど、職に対する熱いお話しをお伺いしました。

名人に聞く!バットを削る際のポイント

――昨年12月に開催されたアンバサダーズミーティングでは、ミズノのバットを使用しているプロ野球選手の方々が多数参加されました。選手たちから、その場で要望を聞きながら、目の前でバットを削って調整をされていましたが、削る時のポイントとは?

久保田 五十一 さん(以下「名和」) 例えば選手によっては、ヘッドの部分が重く感じるので、バットを早く出したい選手は軽くするように削る。逆にヘッドが早く出てしまうから、ヘッドをもう少し遅れて出るようにしたいという選手に対しては、ヘッドを重くするようにしています。限度はありますが、長さ2センチの中で、動かして重みを変えていきます。非常に微妙な作業なんですが、そこがとても大事なんですよね。

――ヘッドの重みによって、バッティングにも大きな影響があるのですね。

ミズノバットマイスター 久保田 五十一 さん

久保田 そうですね。また、対戦する投手が変われば、バットにも変化はあります。新しい投手が出てくれば、球種も変わりますから、同じように打っても打ち取られたりすることもある。そういう時に、バットの重心を手前に持っていくことで打てることもありますね。

――だからこそ、選手の要望は非常に細かいものになるんですね。では、ヘッド以外に、グリップについての要望はどんなものがあるでしょうか?

久保田 ミートした時に手が密着するような感覚で、扱えるかですね。まず、細さを調整するのですが、右手が基準となるのか、左手が基準となるのかによります。
他にも、木製バットを金属バットと同じような感触で握れるようなバットを作ってもらいたいという要望もあります。金属バットから木製バットに切り替えて悩む選手は、そこの違和感が関わっていると思います。しかし、もともとの素材がまるっきり違いますから、金属バットを完全に再現することは無理ですが、それに近いモノを表現するように私たちは工夫しています。

――選手の方々が、色んな悩みを久保田さんに伝えると思いますが、その際に、久保田さんはどのようなことを提案されたり、伝えられているのでしょうか?

久保田 バットを変えることで、必ずメリットとデメリットがあります。変えたことで今までダメだったものがメリットとなったり、今まで良かったものがダメになったり、そのあたりが微妙ですから、選手の方が来ていただいた時に『それを変えるとメリットはこうなります。デメリットはこうなります』という説明は、必ず説明させていただいております。
 例えば、長打を今よりも打ちたいという要望をする選手に対しては、重心を先に持っていくことによって、バットのしなりを使って遠くへ飛ばすメリットがある。しかし、スィートポイント(※)が小さくなりやすいというデメリットもあるんです。スィートポイントを広くして、確実性を広げるか、それとも小さくしても遠くへ飛ばすことを選択するか。やはり個人の選択次第ですね。どちらを優先するかですよね。


(※スイートポイント=バットの芯の中でも一番飛ぶ部分)

このページのトップへ

[page_break:小さな積み重ねが大きな結果となる]

小さな積み重ねが大きな結果となる

[pc]

[/pc]

――久保田さんは、削るときの細かな感性などを磨くためにはどんな工夫をされていますか?

久保田 最も大事にしているのは、『道具を調節』することです。野球選手は、ヒットを打つために、バットなど道具を調節しますよね。それと同じで、私たちはバットを削るための道具を細かく調節しています。カンナなどの道具を自分に合う形にするための研ぎ方を毎日工夫していますね。

――さらなる良いバットを作り上げるために、細部へのこだわりが重要なのですね。

久保田 そうですね、こだわるということは、キリがないですよ。だから、そういった良いバットを作り続けたいという好奇心と研究心を持ち続けることでしょうね。良い仕事をすることが、良いバットを作り上げることだと考えています。

「受け継いだ技術を次の世代に」

――今まで、久保田さんのバットを使った選手の活躍で、心に残っているものはありますか?

久保田 たくさんあります。とくに、すごい記録が達成された時は、自分たちの仕事が評価されたと感じますね。他にも、初めて3割を打てた瞬間や、2012年も宮本さんが2000本安打を達成されましたよね。あれは本当に嬉しかったですね。

――今後、次世代を担うバットクラフトマンの方たちに、久保田さんから伝えたいことはありますか?

久保田 私は今年で70歳なんですけど、私の技術は、独自で開発したものではないんですよ。先輩の人に教えてもらったものです。私は、先輩から学んでいた技術を預かっていっただけ。今度は、それをさらに深いものにして、後輩たちに託していきたいと思います。

――では、最後に10代のプレーヤーたちに向けて、これまで一つの道を掘り下げて進んできた久保田さんからメッセージをお願いします。

久保田 やっぱり、良い結果を残すために自分は何をするのか。そこに向かって、地道に取り組んで欲しいと思いました。イチローさんの本を読ませていただいた時に、半年後、1年後に必ず実現できる目標を持ちなさいと書かれていました。いきなり2000本は大きな目標ではなく、今年100本打って、来年は102本、再来年は103本。
今年100本打ったから、来年は150本ではなく、必ず届くような目標を立てて、その小さな積み重ねが最終的には大きな結果として残っていくと思います。

心が熱くなるお話し、ありがとうございました。良い仕事をするために、細部にまで魂を込める。この姿勢こそが、選手にとっての良いバットを作り出すのですね。

久保田五十一さん、ありがとうございました。

このページのトップへ

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.08

慶應義塾が15安打12得点で強打健在も投手陣に不安 先発小宅は5回途中で降板【香川招待試合】

2024.06.08

慶應義塾は昨夏甲子園優勝バッテリーがスタメン!初回から4番・江戸 佑太郎の1発などで3点を先制!【香川招待試合】

2024.06.07

【夏の甲子園地方大会抽選日&開幕日一覧・近畿地区】近畿一番乗りの抽選は17日の大阪、4府県が7月6日に開幕

2024.06.07

【夏の甲子園地方大会抽選日&開幕日一覧・北信越地区】新潟で21日に抽選会、7月5日の富山で組み合わせが出揃う

2024.06.07

明日夏の組み合わせ抽選! 今年の神奈川は「投手王国県」だ!東海大相模の198センチ左腕を筆頭に、ノーシードにも140キロ超え投手が続出【神奈川注目投手リスト】

2024.06.04

神村、鹿実の壁を破れ! 国分中央は「全力疾走・最大発声・真剣勝負」で鹿児島の頂点を狙う

2024.06.02

【鹿児島NHK選抜大会】神村学園が期待の2年生エース・早瀬の完投勝利で決勝進出!

2024.06.02

福岡に逸材現る! ケガから復帰後即144キロ! 沖学園2年生エース・川畑秀輔に注目だ!

2024.06.05

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在36地区が決定、徳島の第1シードは阿南光!第2シードに池田!<6月5日>

2024.06.06

大阪桐蔭が選抜ベスト8の阿南光ら4チームと対戦!<招待試合>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.21

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在33地区が決定、岩手では花巻東、秋田では横手清陵などがシードを獲得〈5月20日〉

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.19

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在30地区が決定、青森では青森山田、八戸学院光星がシード獲得