試合レポート

明徳義塾vs倉敷商

2012.08.22

シンカー魔王・西隆聖を攻略した明徳義塾の前さばき

明徳義塾打線が中盤から終盤にかけて小刻みに得点を挙げ、快勝した。
両チーム先発の福丈幸明徳義塾・右投右打・175/70)、西隆聖倉敷商・右投右打・174/62)は体のサイズも投球パターンもよく似た同士で、中盤から終盤にかけてどっちが守っているのか攻撃しているのかわからなくなることがあった。ともにスライダーとシンカーという逆方向の変化球を駆使したピッチングに特徴があり、ストレートのスピードはこの日140キロ超え(142キロ)があった福のほうがわずかに速い、その程度の差である。

スライダーとシンカーを駆使したピッチングと書いたが、福は内角攻めにも意欲的だった。ストレートだけでなくスライダーを使った内角攻めもあり、スタメンに右打者が7人並ぶ倉敷商打線を散発8安打、失点は3回の藤井勝利(三塁手・右投右打)のソロホームラン1本に抑え、完投した。

倉敷商の西もスライダーとシンカーを駆使しながら、内角攻めも同時に行う周到さで、明徳義塾の強打線を4失点(13安打)に抑えた。ただ、スタメンに5人並んだ右打者の配球には一考の余地があると思った。13本打たれたヒットのうち、右打者に打たれたのが10本もあったからだ。

西の勝負球はシンカー。シュート回転しながら落ちるボールで、この球が外角球になる左打者に対して威力を発揮するのは当然のこと。右打者にとってはスライダーが外角球になることが多いので、この球を勝負球にする配球が常識だが、10安打のうちカットボールを含むスライダー系が5安打されている。

半面、右打者から奪った三振6個のうち、シンカーで打ち取ったのが5個もある。シンカーの多投が命取りになることは松阪戦で十分経験しているが、スライダーにいつものキレがなかった以上、実力上位の明徳義塾打線を抑えるには玉砕覚悟で最も自信のあるシンカーを多投するのも一案だったかと思う。


もう1つこの攻防で面白かったのが、明徳義塾打線が見せた“前さばき”である。
今春、今夏、このコラムで打者のミートポイントは「捕手寄りか投手寄りか」という問題提起を再三行った。明徳義塾は従来、ぎりぎり捕手寄りまでボールを呼び込み、金属バットの反発力を生かした“押し込み”で相手投手を圧倒するバッティングに特徴があったが、この日はシンカー対策のためか投手寄りでボールを捉える前さばきが目についた。

前さばきは、早い段階で打ちに行くのであらかじめ球種を予測できる場合に威力を発揮するのは当然だが、予想外の緩急に弱い。西は「ストレートの次は変化球」という想定内の緩急を持ち味とするので前さばきが有効に働いた。

明徳義塾が準決勝で対戦するのは大阪桐蔭。ここには藤浪晋太郎という高校球界を代表する本格派右腕がいる。藤浪の持ち味は最速153キロを快速球と言いたいところだが、このストレートは結構打たれている。カウント球でも勝負球でも威力を発揮してきたのはカットボールを含むスライダー系のボールである。

右打者に対してはスライダー系を勝負球にした配球が行われるはずだが、この球種を前さばきで狙い打ちにするのか、その前に投げてくるストレートを前さばきで狙い打ちにするのかじっくり見ていこうと思う。

藤浪の側から考えれば、「ストレート⇒スライダー系」という緩急は極めて常識的で、明徳義塾打線にとって想定内の配球なので、配球を想定外にする工夫が求められる。110キロ台のカーブがあるので、これを多投すると明徳義塾打線は戸惑うかなと思う。このへんもじっくり見守っていきたい。

(文=小関順二)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.31

【鹿児島NHK選抜大会】鹿児島実がコールド勝ち!川内商工は終盤に力尽きる

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.05.31

【鹿児島NHK選抜大会】鹿屋農が"強気の勝負"で勝機を引き寄せ4強入り

2024.05.30

須磨翔風のドラフト候補右腕・槙野遥斗 プロ注打者を無安打に抑えた変化球は秀逸、課題は直球の威力不足<高校野球ドットコム注目選手ファイル・ コム注>

2024.05.30

【鹿児島】鹿児島実がコールド、鹿屋農がタイブレークを制して4強進出<NHK旗>

2024.05.25

首都2部優勝の武蔵大の新入生に浦和学院の大型左腕、左の強打者、昌平の主軸打者など埼玉の強豪校の逸材が入部!

2024.05.25

【熊本】九州学院、熊本工が決勝へ<NHK旗>

2024.05.25

【関東】白鷗大足利が初、逆転サヨナラの常総学院は15年ぶり決勝<春季地区大会>

2024.05.26

【近畿大会注目チーム紹介】実力派監督就任で進化した奈良の名門・天理。超高校級の逸材3人を擁し、緻密な攻守で全国クラスのチームに!

2024.05.25

【岩手】盛岡大附がサヨナラ、花巻東がコールドで決勝進出、東北大会出場へ<春季大会>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.01

春季大会で頭角を現した全国スーパー1年生一覧! 慶應をねじ伏せた横浜の本格派右腕、花巻東の4番、明徳義塾の正捕手ら入学1ヶ月の超逸材たち!

2024.05.19

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在30地区が決定、青森では青森山田、八戸学院光星がシード獲得