桐光学園vs今治西
大会記録更新!! 松井裕樹圧巻の22奪三振!!
桐光学園の左腕、松井裕樹(2年・左投左打・174/74)が奪三振の大会記録を更新した。それまでの記録は辻内崇伸(大阪桐蔭)、坂元弥太郎(浦和学院)などの19個。それを一挙に3個上回る22奪三振にネット裏の第二記者席は大喜びだった。
桐光学園を応援しているわけではない。私たちは毎朝8時前に甲子園球場に入って、4試合目が終わるまでおおよそ10時間以上、同じ場所にいる。屋根(銀傘)があると言っても真夏の8月である。つまらない試合を見せられれば疲れは倍増するし、球史に残るような快投・大記録を見せられればしばし疲れを忘れる。だから私たちはスター選手を待ち望んでいるし、快投・大記録を渇望している。
松井裕樹の話をすると、松井を松井たらしめているのはスライダーである。フワッと浮いてから強烈にブレーキがかかり、真下に落ち込んでいくボールである。相手打者が打ち気にはやっているときはボール球にして空振りを取りにいき、ボールをじっくり見ていこうと思っているときはストライクゾーンに入れて見逃しの三振を狙いにいく。
この日の22奪三振の内容を見ていこう。
スライダー見送り 5個
スライダー空振り 10個
ストレート見送り 1個
ストレート空振り 6個
ストレートの空振りに触れると、内角高めのボール球が多かった。打者は高角度から落ち込んでくるスライダーの残像が頭に焼きついているため、どうしても高めのボール球に手が出てしまう。松井はそういう心理状態を冷静に読み、憎たらしいほど正確にボールゾーンにストレートを投げ入れ、それを振らせた。
ショッキングだったのは6回表、8番伊藤優作が体にぶつかると思って大きなアクションでよけたにも関わらず、それがクッククとブレーキがかかってストライクゾーンに曲がって入り、主審が「ストライク!」と叫んだときだった。野球漫画ではよくあるシーンだが、実際にこういう場に立ち会うことはほとんどない。
5回裏には打者・松井が2死一、二塁の場面で打席に立ち、ライトスタンドに3ランホームランを放り込んでいる。スコアボード上にはためく大会旗などを見ると、風はかなり強くライトからレフトに吹いていた。ライトスタンドから見ればアゲインストの風である。それをものともせずライトスタンドに放り込んだのである。強く柔らかいリストがあのスライダーを生み出す原動力なんだなとつくづく思った。
ちなみに、6回の2番打者から9回の2番打者まで10連続三振を奪っているが、これも新記録。従来の記録はというと、1926(大正15)年の和歌山中学・小川正太郎が記録した8連続。つまり、86年ぶりの更新ということになる。
桐光学園打線はどうだったのだろう。
神奈川大会の横浜戦では、下位打線がチャンスメークをして上位打線が生還させるシーンを何度か見た。この日は1対0で迎えた4回裏、6番以下が安打、バント、四球で2死一、三塁の局面を作り、1番鈴木拓夢(二塁手・右投左打・181/75)がセカンドとライトの間に落ちるポテンヒットで三塁走者を還し、2点目を挙げた。
横浜戦では8番武拓人(1年・遊撃手・右投左打・171/68)からチャンスを作る場面が2回あり、ホームページ内の観戦記(7/25)には活躍する下位打線を次のように紹介した。
「桐光学園の3回の1点は、先頭打者の1年生・8番武拓人(遊撃手・右投左打・171㌢/68㌔)の遊撃安打(一塁到達4.06秒)が突破口になった。バントで二塁に進んだあと、2死から2番宇川一光のタイムリーで先制のホームを踏んだ。
8回も先頭の武が遊撃内野安打(一塁到達4.10秒)で出塁し、バントで進塁したあと、1番鈴木拓夢の内野安打で1死一、三塁とし、2番宇川がスクイズを失敗、チャンスは潰えたかに思えた。しかし、2死一、二塁から3番水海翔太、4番植草祐太の連続安打で2点追加し、さらに安打、押し出しの四球で決定的と思える3点を奪い、4対1とした。
この回、武以外でも鈴木の内野安打、宇川のスクイズ失敗のときの一塁到達が4.3秒未満を記録し、横浜内野陣は守っていても気の休まるときがなかっただろう」
(以上『小関順二 公式ホームページ』より)
この日は4番植草祐太が3打数2安打1打点と活躍し、中軸も当たりを取り戻している。次戦で当たるのは1回戦で14安打14得点した常総学院。この試合巧者をどう料理するのか、松井の挑戦はまだまだ続いていく。
(文=小関順二)