大阪桐蔭vs光星学院
『選手を信頼する』西谷采配で大阪桐蔭がセンバツ初優勝
センバツ大会決勝が行われる予定だった4月3日の雨天順延は大阪桐蔭に有利に働くと思っていた。大型右腕、藤浪晋太郎(右投右打・197/88)が1日休むことで万全の状態で登板すると思っていたからだ。しかし、フタを開けてみればそんなことはなかった。光星学院のバッティングが序盤からプレッシャーをかけ続け、藤浪から準決勝までの低めコントロールと緻密なコーナーワークを奪っていた。
ストライクゾーンに投げれば打たれるという強迫観念を植えつけられ、見え見えのボールゾーンに投げてカウントを悪くして、ストライクを取りに行って打たれる、そういう流れが序盤から中盤までの藤浪を覆い尽くし、毎回のように走者を背負う苦しい展開の中に置かれてしまった。
光星学院打線の中で最もプレッシャーをかけ続けていたのが3番田村龍弘(捕手・右投右打・173/78)と4番北條 史也(遊撃手・右投右打・178/73)だ。田村はストレート狙いで3安打を放ち、反対に北條はスライダーに狙いを定めて2本の二塁打(打点2)を放ち、藤浪を完全に捉えていた。
しかし12安打を放ち、さらに田村、北條、武田聖貴(一塁手・右投左打・170/75)のクリーンアップで7安打を放っていればもっと得点を挙げていてもいいはずである。結果的に3点しか挙げることができなかったのは、序盤まで多投していた速いスライダーから、遅いカーブやチェンジアップなどを多く交えることによって藤浪のピッチングに緩急が生まれ、それに光星学院打線が対応しきれなかったためである。せめて残塁の山を築いた1、2回に点を入れていれば違った展開になっていたと思う。
さて大阪桐蔭のバッティングに話を移そう。準決勝までは森友哉(捕手・右投左打・169/80)、笠松悠哉(三塁手・右投右打・179/74)の2年生コンビが打率4割以上の成績を挙げ、気を吐いたが、3年生に当たりがなく、チーム全体としては元気がなかった。
その中でも小池裕也(一塁手・右投右打・183/77)は10打数1安打、打率1割と深刻な不振の底に沈んでいた。昨年秋の公式戦は打率・543(チーム3位)、打点13(1位)とチーム打点王に輝きながら、センバツ前に不振に陥り、初戦の花巻東戦は出場機会がなかった。それが2回戦の九州学院戦から4番でスタメン出場するのは、花巻東戦の勝利の立役者、田端良基(一塁手・右投右打・175/85)が死球で骨折し、出場が絶望視されたためだ。
西谷浩一監督は小池が打てなくても4番で起用し続けた。決勝前、記者席では絶不調に喘ぐ小池に代わって森か水本弦(右翼手・両投左打・177/75)が4番に入るのでは、という声が上がった。しかし、小池がそのまま4番に入るのを知って、やっぱり、と納得した。一度こうと決めたらよほどのことがない限り方針を曲げない、西谷監督の頑固な一面を皆知っているからだ。
この西谷監督の期待に小池は見事に応えた。第1打席は先制2ランホームラン、第2打席は追加点の口火となる右前打、第4打席は中越えの二塁打と、あと三塁打が出ればサイクル安打という大当たりでそれまでの不振を一気に吹き払ってしまったのだ。
小池だけではない、準決勝まで打率・143と不振でも起用し続けた白水健太(中堅手・右投両打・173/75)もこの試合、4打数3安打1打点を挙げているのだ。選手を信頼してやる気にさせる、したたかな選手起用が見事に決勝で身を結んだ。
(文=小関順二)