試合レポート

関東一vs横浜

2012.04.01

野球の神様がわけた明暗

『熱くなりすぎてはいけない。それを野球の神様は見逃さない。』
そう思えるようなゲームだった。

神奈川・横浜と東京・関東一の首都決戦。柳裕也(3年)と中村祐太(2年)による期待通りの投げ合いになったが、明暗を分けたのはいかに冷静にゲームを出来たかにあった。

試合後のインタビューでも質問が多かった5回裏のアピールプレーは後に触れるとして、まずその伏線となったのが、4回表に無死1塁で柳が牽制球の際にボークを犯したことだった。

一塁走者・岸直哉(3年)を誘いだして、アウトのコールを取った柳の牽制術は見事なように見えた。しかし、球審はボークの判定。納得がいかない表情を見せたのは柳と尾関一旗(3年)の横浜バッテリー。
「何でボークなのかわからなかった」と尾関にはまったく理解ができず、柳も「左足の(一塁方向に)踏み出し方がボークだと球審に説明されたが、今まではそれでとられたことがなかった」と悔しさをにじませた。

歴代の横浜の投手は、牽制がうまい人が多い印象がある。それは常に、正常なモーションとボークとが、すれすれな牽制術を身につけてきたからだった。

ボークで一番ミソになるのは、相手や審判を騙すということ。つまり自分達はOKのつもりでも、審判が相手を騙すものだとみればそれはボークになってしまう。人間がする競技なので取らない審判の方もいるが、いつもすれすれでは、いざボークと判定された時の切り替えが難しいのだ。

今回の柳も、いつもボークを取られないからOKではなく、これまでは取ってもらえなかったというのが実情のようだ。
今後は、公式戦や練習試合の際に、終わってからでも審判の方に積極的に質問してみてはどうだろうか。柳自身のピッチングの幅を広げることに繋がると思う。
結局、走者の岸は生き残り、4番秋山翔太(3年)の本塁打で関東一が2点を先制した。


さて、このゲームの山場となった5回裏の場面。下位打線からの横浜は連続四球と犠打で1死2、3塁とチャンスを作った。ここで1番宍倉和磨(3年)が内野安打を放ち1点を返す。なおも1、3塁。打席は2番の高橋亮謙(3年)。1ボール1ストライクからの3球目、高橋は三塁前へ絶妙なスクイズ。走者の尾関が本塁をスライディングすることなく駆け抜け、ついに同点になったと思われた。

駆け抜ける尾関を横目に見ていたのが関東一のキャッチャー松谷飛翔(3年)。ホームインを覚悟し、一瞬だけ尾関から目を逸らしたが、ベースを踏んでないことにビックリしたように本塁へ向き直った。
このスクイズの流れで一塁走者の宍倉は一気に三塁を狙ったが、関東一内野陣の読みでタッチアウトになる。

プレーが止まり、松谷はマウンドの中村にボールを寄こすよう指示を送った、松谷はあらためて本塁を踏み、尾関の足あとまで指さして本塁を空過したことをアピール。窪田哲之球審は、ベンチに戻っていた尾関に対してアウトを宣告した。

同点になり2死1塁のはずが、一転して1点差止まりで3アウトチェンジ。
横浜ベンチは壮前となり、渡辺元智監督は、大きなジェスチャーで質問を繰り返す。窪田球審の位置が近かったこともあり、伝令を使うのではなく直接しゃべりかけていた。当事者であり主将でもある尾関も質問をする。

一方で守っていた関東一の野手陣は、一瞬だけ3アウトに喜んだが、横浜サイドの動きを見て、全選手がベンチに戻らずその場にとどまった。
「(フェア)ラインを超えてしまうと、アピールする権利がなくなる」と話したのはセカンドの木内準祥主将(3年)。一喜一憂しすぎることなく、冷静に状況を見守っていた。

窪田球審が場内説明を行い、アピールアウトで5回裏の終了を宣告。ようやく野手陣はベンチに戻った。
グランドは整備が始まり、審判団も休憩に入ろうとするが、横浜サイドは納得がいかず、依然熱く質問を繰り返す。

熱くなりすぎる横浜と、沈着冷静に事態を飲み込んだ関東一。ここがゲームの明と暗。
その後、7回に横浜が一度同点に追いつくが、勝ち越しきれず。8回には打者がバントの構えからボールに当たりにいくなど、野球の神様が横浜に味方をし難い雰囲気になってしまった。 


9回、1死から木内のヒットをきっかけに3連打で2点を勝ち越し、柳をマウンドから引きずり降ろした関東一。最後は中村が横浜を三者凡退に打ち取って試合を締めた。
「ベンチではヒヤヒヤしていたが選手たちが頑張ってくれた。松谷は練習や練習試合など日頃からしっかりと見ているから、あのアピールができた」と話した米澤監督。

敗れた渡辺監督は「走塁の部分で甘さが出た」と話すとともに、「相手キャッチャーのファインプレーです」と試合後には冷静さ取り戻すともに、相手を讃えていた。
尾関主将は、「確かに本塁を踏んだという感覚があった」と泣きはらした目をして悔やみ、取材時間が終わっても膝に手を当て、がっくりと項垂れていた姿だったのが印象的だった。

5回の場面は映像を見る限り、尾関が本塁を踏んだと言える証拠がなく、ある写真では踏んでいたようにも見える。ではなぜ尾関の話と、実際がかけ離れてしまったのか?
憶測になるが、ゲームに入り込み、熱くなりすぎた結果、心と体、それに目の感覚にズレが出たからではないだろうか。これは野球に限らず、人間誰も陥る可能性がある症状だ。

とはいえ、まだ春の戦い。高校野球は夏まで続く。この試合を「財産となったゲーム」と言える時間はまだある。成長してまた甲子園に戻ってきてくれることを期待したい。

(文=松倉雄太)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.11

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在28地区が決定、長野では松商学園がノーシードに

2024.05.11

【2024年最新版 スーパー中学生リスト】 関東地区の強豪校注目の遊撃手、高校スカウト殺到の大型左腕、中村剛也の長男など38人をピックアップ

2024.05.11

名門・東海大相模の進路紹介!プロ注目打者は東洋大、エースは中央大で早くもリーグ戦に出場!

2024.05.11

シニア日本代表が発表!選抜大会準優勝の主力打者、ベスト4の主将、優秀選手などが選出!

2024.05.11

【阪神大学】V7の天理大の戦力紹介!投手力、打撃力、機動力充実の布陣で大学選手権へ!

2024.05.08

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.11

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在28地区が決定、長野では松商学園がノーシードに

2024.05.06

センバツV・健大高崎は夏も強い! Wエース抜きで県大会優勝、投打に新戦力が台頭中!

2024.05.06

【関東】山梨学院と常総学院がそれぞれ優勝、出場校の対戦が確定<春季大会>

2024.05.06

【春季埼玉県大会】花咲徳栄4回に一挙10得点!20得点を奪った花咲徳栄が昌平を破り優勝!

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>