試合レポート

明徳義塾vs高知

2011.10.09

明徳義塾vs高知 | 高校野球ドットコム

4安打1失点完投勝利の小方聖稀(明徳義塾)

「心を整えた」怪物小方、四国大会に明徳を導く!

 明徳義塾の新人戦準決勝(対土佐0対1)敗退により、この秋は高知明徳義塾の両雄が四国大会出場を賭けた準決勝で対戦することに。直近では明徳義塾途中出場のライト・中平亜斗務(3年)の超ファインプレーで決まった選手権高知大会決勝に代表されるように、常に緊迫した好勝負が展開されるこのカードだが、明徳義塾・馬淵史郎監督が先発に抜擢したのは183センチ・83キロの1年生左腕・小方聖稀(1年)であった。

中学時代は過去に2008年夏の甲子園優勝投手の福島由登(大阪桐蔭・現:青山学院大3年)など数々の甲子園球児を輩出した硬式野球ヤングリーグ・徳島ホークスの絶対的エース。ほぼ直球1本で打者をなで斬りにし、四国内では「怪物」の名をほしいままにしてきた小方とはいえ、この大一番での先発起用はリスクが伴うもの。それでも馬淵監督は「大器の片鱗があるし、ボールの角度があるのでボールでもバッターが振ってくれる」と自信をもってマウンドに彼を送り出したのである。

そして小方は、名将の期待に見事応えるピッチングを見せた。球速こそ最速136キロに留まったものの、110キロ台のスライダー含め、ボールの伸びは抜群。「ストレートを狙っていたが、適度に荒れていたので絞りきれなかった」と高知・島田達二監督は小方を評したが、そもそも絞りきれなかったのも「配球はほぼ全て任せている」杉原賢吾(2年)とのコンビネーションがよく、ボール球も常に低めにコントロールされていたからである。

事実、複数安打を許したのも4番の法兼駿(2年・主将)に適時打を喫した4回裏と最終回のみ。初回の相手野選に加え、5回は2番・今里征馬(2年)の適時打、7回は1番・伊與田一起(2年)の適時打と着々得点を重ねた打線の援護も受け、「当初8・9回は福(丈幸・2年)に任せようと思っていたが、この内容を見たら換える必要はないと思った」(馬淵監督)小方。その結果は、見事4安打2四球で10奪三振の132球完投勝利につながった。


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二桁奪三振で四国大会進出を決め、雄たけびを上げる小方(明徳義塾)

そしてもう1つ小方に関して驚かされたこと。それは精神面の著しい成長である。中学時代はピンチになると不満の表情を露わにし、今年1月、徳島の地から明徳義塾中に転校。いち早く「下半身強化とフォーム修正、93キロだった体重を絞って脂肪を筋肉に変える」高校野球モードへの転換を進めてきた当時、さらに夏のベンチ入りを目指していた6月の練習試合でも、ブルペンやマウンドで自信なさ気な表情を見せていた小方。そこには自分の感情や弱さをコントロールしきれない苛立ちが見て取れた。

ところが小方は、この試合ではピンチにあっても表情1つ変えず。打席でもバットを振り回していた中学時代から一転、100点満点の犠打を2つ決めた。はやりのフレーズを使えば「心を整えた」原因はどこにあるのか?試合後、本人に聞いてみた。

「自分が落ちた時期から人の意見を聴くようになったんです。それも明徳義塾の生活があったからこそだと思います。むちゃくちゃ走りこみましたし、『バントができればバッテイングもよくなる』と聞いてから、ずっとバント練習もしていました」

さらに小方のメンタル改善について指摘を受けた馬淵監督は、「心を鍛えることについて明徳義塾は得意だからね」といつもの馬淵節で報道陣を笑わせた後、こうつぶやいたのである。

「でも、彼は真面目な奴だからね。ほっとけばいつまでも練習をやっている奴だから」。

これまでは本来もっている「向上心」を出す術を探し続けていた小方聖稀。その本性を高校野球に適合させつつ引き出した馬淵史郎。かくして逸材と名将の幸せな師弟関係中間報告会は、ライバルへの主導権を示し、チームにとって6年連続23度目の秋季四国大会出場権獲得となって大団円を迎えたのであった。

(文=寺下友徳)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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