二松学舎大学附属高等学校(東京)
第42回 野球部訪問 二松学舎大学附属高等学校2011年09月12日
どんなに多くの部員がいても、試合に出られるのはたった9人だ。試合をする以上、目的は勝つこと。最低限、負けない準備の整っている選手がレギュラーに選ばれることになる。
では、レギュラーには何が求められるのか。
二松学舎大付・市原勝人監督の場合、大前提として要求するのは2つの条件だ。
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【目次】
1.レギュラーをつかむための2つの条件
2.二松学舎大付・遠田 人間力で獲得したレギュラーの座
3.レギュラー外の課題 ”徹底によるチーム力アップ”
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【目次】
1.レギュラーをつかむための2つの条件
2.二松学舎大付・遠田 人間力で獲得したレギュラーの座
3.レギュラー外の課題 ”徹底によるチーム力アップ”
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レギュラーをつかむための2つの条件
【レギュラーには理解力とコミュニケーション能力】
「まず守れるのが優先ですね。もうひとつは、ランナーに出て、変なミスをしないこと。走れなくてもいいけど、けん制アウトとか、余計なことをしないこと。そういうミスをする選手がレギュラーから遠のいていきますね」
2つの条件さえ満たしていれば、基本的には打力のある選手、走力のある選手がレギュラーをつかむことになるが、当然、それだけではいけない。実は、市原監督がもっとも求めるのは次の2つのことだからだ。
理解力とコミュニケーション能力――。これがなければ、先の条件を満たしていてもレギュラーとしては難しい。
「やっぱり理解力ですね。これがないと厳しい。例えば、ランナーに出た場合、危険を冒さない(で走らない)か、『行けと言われたから』といって何でもいいから行っちゃいました、のどちらかになってしまう。こちらとしては、中間部分を求めているんですよね。『用心はしろ。でも、消極的になってはいけない』と。矛盾した2つを言うわけですから、それがわかる子じゃないと困るんです」
理解力をはかるには、話をさせることが一番だ。そのため、市原監督は選手に発言させる機会を多く作る。
「ミーティングはこちらから一方通行にならないように、選手に答えさせます。あとは、こちらが説明したことに対し、もう一度説明させる。そのときにオウム返しではダメです。自分の言葉で言ってくれないと、わかったかどうか確認できませんから」
【二松学舎大付の主力打線】
下級生はまだ語彙力不足で自分の言葉にするのが下手ということもある。その場合は目をつぶってレギュラーで使うこともあるが、上級生になっても成長のあとが見えない場合は自然と淘汰されていく。下級生時はレギュラーだったが、上級生になって控えに甘んじるという選手は、たいていは言葉による表現力がない選手だ。
もうひとつ要求されるコミュニケーション能力があるかないかは、試合中に自分のプレーができないときや調子の悪いときに顕著に表れる。
「普段から注意されていることを『またやってしまった』というミスをした場合、ベンチに戻ってきてもどうしたらわからないんですね。そこで監督に怒られれば解決するのかもしれないですけど、それで終わってはダメ。『みんな悪いな』と自分から声を出して、受け入れてもらうことが必要です。声をかけられるのを待つようでは、厳しい連中が揃っているときにほっとかれる。いい子が多いとフォローしてくれますけど、勝負事なので、そういう連中が多いと弱いんですよね。強いときというのは、そういう部分がシビアですから」
たとえ失敗しても、自ら声を出して雰囲気を壊さない。周りに気を遣わせない。そういうムード作りができることもレギュラーには大事な条件なのだ。二松学舎大付は定期テストごとに全員の前で点数を発表し「勉強ができないことは恥ずかしいこと。野球だけやっていればいいわけではない」とわからせるようなこともしているが、能力だけ優れていればいいわけではない。
「打撃練習でガーンと打ってたら使いたくなっちゃいますけど、大会になると、監督というのは『ゴロ転がった。はい、ワンアウト』なんて思わないんです。『捕れよ。よし、捕った。暴投投げるなよ。よし、ワンアウト』これのくり返しなんです。そうすると、パカーンなんて打たなくていいから、エンドランでちゃんとバットに当てろよとか、そんな次元に(要求が)下がってきてしまう。だから、こちらのニーズに応えてくれる子がレギュラーになるんです」
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【目次】
1.レギュラーをつかむための2つの条件
2.二松学舎大付・遠田 人間力で獲得したレギュラーの座
3.レギュラー外の課題 ”徹底によるチーム力アップ”
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二松学舎大付・遠田 人間力で獲得したレギュラーの座
【二松学舎大付 松井(左)遠田(右)】
ところが、入学してすぐに遠田は頭角を現す。故障したレギュラーの代わりに試合に出場すると、持ち味の守備でアピール。1年夏にベンチ入りを果たすと、2年春にはレギュラーを奪った。
「入学したときは不安もありましたけど、自分の実力はわかっていたので謙虚にやろうと思っていました。自信のある守備だけでは負けないように、ノックでは簡単にエラーしないとか小さなミスをしないように心がけました。バントとか、身体が小さいからこそできることを練習しました」
2年春の東京都大会では1大会だけで7本のセーフティーバントを成功させた。さらに、ハイライトは3回戦の都立片倉戦。劣勢だったが、1死二塁からノーサインで三盗を試みて成功。得点につなげ、勢いに乗ったチームは逆転勝ちを収めた。
「三盗してほしい、でもサインは出せないというところで走ってくれた。勇気ある大きなプレーでした」(市原監督)
5月の練習試合で左足首を骨折。夏の大会はプレーこそできなかったが、背番号4でベンチ入り。積極的に声をかけるなどベンチワークで盛り上げた。
「出られなくてもそういうことを一生懸命やるんですよね。人間力で獲得したレギュラーです」(市原監督)
まさに、監督のニーズに応える選手。それこそ遠田がレギュラーをつかめた要因だった。
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【目次】
1.レギュラーをつかむための2つの条件
2.二松学舎大付・遠田 人間力で獲得したレギュラーの座
3.レギュラー外の課題 ”徹底によるチーム力アップ”
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レギュラー外の課題 ”徹底によるチーム力アップ”
【二松学舎大付の投手陣】
その遠田をはじめ、最速145キロのエース・鈴木誠也、石田ら新チームには2011年の春の都大会、夏の東東京大会でともに4強を経験したメンバーが多く残る。エース、主軸、二遊間がそのまま引き継がれるだけに実力、経験ともに十分。市原監督も「潜在能力はある」と楽しみを口にする。
だが、問題はレギュラーの9人以外の選手。特に控えとしてベンチ入りする選手たちだ。
新チームは部員36人。このうちの20人がベンチに入れる。毎日練習していればチーム内で自分の実力がわかってくるため、自分の位置を計算する選手が出てくる。
「20人のレギュラーと考えると、2枚目の選手に刺激を与えるのが難しいんです。ウチの選手層からすると1ポジションに2人にならざるをえないんですが、それだとベンチ入りが確保できてしまう。『レギュラーはもういいや、でもベンチ入りはできる』と。これが厄介なんです。努力しないですから。もちろん、それなりにはやりますけど……」(市原監督)
ベンチ入りも危うい……という状況を作りたいが、そうもいかない。それがチーム力の底上げにつながらない。1年生が入ってくれば1ポジションに3人の体制を作れるが、控えの選手が本気になるのが4月からでは遅いのだ。レギュラーの9人だけがよくてもいいチームは作れない。ベンチ入りの20人全員、さらにはベンチ外の選手たちまで本気でレギュラーを目指さなければ、本当の強いチームにはなれない。ベスト4止まりだった旧チームから脱皮するためにも、改善すべきはこの部分だ。これについて、キャプテンの松尾俊佑はこう話した。
「新チーム最初のミーティングで監督さんからも話があったんですが、このチームのテーマは『徹底力』です。徹底できないチームは強くない。興南高校は徹底力がすごかったですし、興南高校を見て『小さなことを徹底できれば、大きなことができる』というのがわかりました。僕たちにはまだその徹底力がない。全力疾走とか、整理整頓とか、できることからやっていきたいです」
松尾だけでなく、吉田、石田の副主将2人、遠田、鈴木を含めた経験者5人全員がキャプテンのつもりでチームを鼓舞する。
「前チームのキャプテンだった山岸(育)さんより自分はキャプテン力は劣っていると思いますが、キャプテンが5人いる感じなので助かっています。あとは控え。試合中にベンチが静かだったりするので、課題はそこですね」(松尾)
レギュラーの9人に選ばれた選手たちは自分の仕事を全うする準備はできている。あとは、20人のレギュラー。さらには控えまで含めたチーム力。これこそが、ベスト4からあと一歩を破れるかどうかのカギだ。
小さなことをバカにせず、しっかりとやりきる。当たり前のことを当たり前に積み重ねる。徹底によるチーム力アップで、二松学舎大付が2004年センバツ以来の甲子園を狙う。
(文=田尻 賢誉)