試合レポート

作新学院vs八幡商

2011.08.17

作新学院49年ぶり、歴史的なベスト8進出

 高校野球の歴史に詳しい人にとっては、いささかマニアックに注目したいカードである。
というのも、49年前の1962(昭和37)年の選抜大会準々決勝で対戦した両校は、0―0のまま延長18回引き分け再試合となって、選抜大会の延長18回引き分け再試合適合の最初の試合となっているからだ。

それだけではなく、再試合を制した作新学院はそのまま、この勢いで選抜大会を制するのだが、夏も甲子園出場を果たして、そのチームで史上初の春夏連覇を実現している。
ある意味では、その勢いづけとなった試合が、八幡商との試合だったのかもしれない。
さらには、2004年に駒大苫小牧が優勝を果たすまで、長い間、この作新学院が優勝旗の最北端地という位置をキープしていた。

そんな歴史を知る人も、知らない人も集まった甲子園のスタンドは4万7千人の観衆が集まり、満員通知が出される大入りとなった。

ぎっしりと詰まった一塁側アルプススタンドには、「天八魂」と書かれた横断幕と、赤いTシャツの応援団が陣取っている。これは、「天下の八幡商の魂を見よ」ということを示すらしいのだが、これも1898(明治31)年創部という100年以上の歴史を背負う学校としての誇りといってもいいものであろうか。

一方、作新学院もその4年後に創部という古い歴史がある。共に伝統校。だから、49年前の対戦も長い歴史の中ではほんの一つの事象だったのかもしれない。

そんな両校の歴史、つまり、ロングスパンのタテの流れを意識しつつも、この大会を通じてのヨコの流れも面白い。ここ数年、関東大会を含めて県外公式戦の連敗が続いていた栃木勢だったが、作新学院がこの夏、その壁を突破したら、勢いづいて2つ勝っている。

また、八幡商の方はといえば、2回戦では9回土壇場で遠藤君の逆転満塁本塁打で強豪帝京を下している。
そんな、両校の大会を通じたミドルスパンの大会を通じたヨコの流れにも注目していた。


 作新学院は、伝統的に守りが他のチームを作り上げてくるのだが、今年に限っていえば小針崇宏監督が、打撃力からチームを構成していったというが、その方向性がチームに上手く合致したともいえそうだ。

そのキーマンとなっているのが、リードオフマン石井君だが、3回、その石井君が右線を破る二塁打を放つと、2死から4番飯野君が三遊間をしぶとく破って先制した。

しかし、勢いに乗る八幡商はすぐに4回、1死二塁から3番白石君が当たり損ない気味ながら打球が面白い回転をしてラッキーなタイムリー打となって同点。
早い段階で追いついたのは、やはり、前の試合の勢いがそのまま残っているといってもいいのであろう。

ただ、積極的な作新学院は6回に飯野君、内藤君、鶴田君と3本の安打で再び突き放した。さらに、7回にも、3番佐藤竜君の2点タイムリーでリードを広げるが、ここでも石井君が左前打して得点に絡んでいた。

なおも、8回にはスクイズで、9回にも飯野君のタイムリーで加点して、八幡商の勢いを止めた。
作新学院のエース大谷君は2年生で、リードする山下捕手は1年生なのだが、そんなことを感じさせないくらいに大舞台でも落ちついた雰囲気があった。
小針監督も、「バッテリーは、若いですけれども粘り強く頑張ってくれました。ビッグイニングを作られると流れが向こうにいってしまうので、中盤から後半にかけてよく頑張ってくれたと思います」と称えていた。

さらに攻撃については、「少しミスはあったんですが、その後のバッターがよく返してくれて、一つのミスをみんなでカバーできたと思います」と、全員の勢いを感じていた。


2回戦での9回奇跡的な逆転満塁本塁打の勢いでリードする作新学院を追いかけていった八幡商だったが、9回にそのヒーロー遠藤君がこの回の打者として左翼にソロホーマーしてスタンドを沸かせたものの、及ばなかった。
池川準人監督は、「1~2点差でついていきたかったのですが、中盤でじりじりと引き離されて、追い切れませんでした」と、悔やんだ。 

ここまで、踏ん張ってきた八幡商のエース吉中佑志君は、「調子は悪くなかったけど、力んでしまってボールが甘く入って打たれるケースが多かった。ベスト16で、これを勝ったらまだ夏の大会で(八幡商が)行ったことのないベスト8ですから、そこに行きたい気持ちが強すぎて力が入ってしまいました」と悔やんでいた。

しかし、伝統校のエースとして甲子園で投げた思いについては、「八商は個々の力よりもチーム力で勝負するチームとして甲子園で2勝できたのは大きいです。今日負けた借りは後輩たちが来年、返してくれると思います」と、新たな歴史を刻んだ誇りを抱いていた。そして、その思いを後輩たちに託していた。

こうした、思いを引き継いでいくことが、伝統校の見えない強さといってもいいのではないのだろうか。
歴史を作り、それを次の代が、背負っていくのも、高校野球の魅力と醍醐味の一つなのである。

(文=手束仁)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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