加古川北vs波佐見
井上真伊人(加古川北)
「加古川北、昨秋の反省を生かす!」
甲子園初勝利を挙げた加古川北。
このチームの大きなポイントは、2戦目にあった。
振り返ること5カ月前。
近畿大会に出場した加古川北は、エース井上真伊人(3年=当時2年)の完封で大阪桐蔭を破った。しかし2戦目となった準々決勝は井上が打たれた上、ミスが重なり天理に完敗。結局最後まで追い上げたことが評価されて、センバツの出場切符は掴んだが、チームは完敗に肩を落としていた。
迎えた今大会。1回戦の金沢戦では井上が完封。
そう、あの近畿大会と同じ状況になった。
この2回戦の前日。福村監督と都倉健司主将(3年)は近畿大会の反省を生かそうと選手に語ったという。同じ状況になってチームの学習力が試される重要な一戦だった。
1回表、加古川北は一死三塁から3番柴田誠士(3年)のタイムリーで1点を先制する。
前回の試合では中盤まで両者無得点の攻防だったが、この日は井上がマウンドに上がる前に1点が入った。
「味方が取ってくれて、その姿勢が伝わってきた」と井上。
しかし試合前の投球練習で不安を抱えてのマウンドでもあった。
「直球が浮いて調子が悪かった」。
この時点で井上と捕手の佐藤宏樹(3年)は投球の組み立てを考えなおした。
その新しい組み立てが1回裏にいきなり表れる。
1回戦でわずか1球しか投げなかったスローカーブをいきなり連発してきたのだ。
直球の調子が悪ければ、緩急でという構想が功を奏して、波佐見打線は凡打の山を築いていく。
一方、波佐見のエース・松田遼馬(3年)も立ち上がりの1失点はあったが、2回以降はうまく切り替えて無得点に抑える。試合は1対0のまま終盤へ。
8回表、このまま進みたくない加古川北はこの回先頭の6番小田嶋優(3年)がレフトへ二塁打を放つ。これを7番佐藤がきっちり送って一死三塁。打席の8番宇治橋佑斗(3年)と走者の小田嶋に福村監督は指示を送った。
「内野ゴロでもGO」
自慢走塁に対しても様々なサインがある加古川北陣営が選んだのはシンプルな策だった。宇治橋は初球ストライクの後の2球目を打ち返した。打球は平凡なセカンドゴロ。しかし小田嶋は最高のスタートを切って本塁へ突っ込んだ。打球を処理した波佐見のセカンド・山口優大(3年)は本塁をあきらめて一塁でアウトを取らざるえなかった。
井上に勇気を与えた2点目。
これで波佐見打線は打ち気に早って、井上は最後まで得点を与えなかった。
「調子が悪いながらのピッチングはできた」と井上、福村監督は声を揃えた。
金沢の釜田佳直、波佐見の松田と150キロ近い速球投手に投げ勝ってのベスト8進出。
「次がメイン(一番重要な試合)になる。今の調子では打たれる」と井上は最後に口を真一文字に結んだ。
勝利で気の緩みが出た近畿大会とは違い、今は一戦一戦の謙虚さを重要視する加古川北。準々決勝でも、自慢の機動力と、バッテリーの勝負勘で次は神宮王者・日大三に挑む。