Interview

植田 拓(盛岡大附)「モリフメソッド+右手の押し込みで高校通算60本塁打超!」

2017.10.07

 高校通算63本塁打の植田 拓。植田は165センチという身長しかない。野球選手としては小柄な植田がなぜ高校球界を代表するスラッガーへ成長したのか。幼少時代からルーツがあった。体が小さい野球選手に勇気と希望を与えるインタビューをお届けしたい。

小・中学で学んだ右手の押し込みとトレーニングの考えが植田の基礎を作り上げる

「あの身長であそこまで本塁打を打てる選手は長い指導者生活でも初めてです」と植田の凄さを語る関口監督。植田の長打力のルーツを探ると、小学校時代までさかのぼる。小学校2年生の時に野球を始めた植田。植田がホームランを打てる選手になったきっかけは小学校5年生の時。当時、所属していたリトルの指導者から定められたルールを守らないとグラウンドで練習できないルールがあった。

「グラウンドの横で、1000球ティーを打たないと入れないのですが、とにかくバットを振った記憶があります。それが今につながっているといえます」
バットを振る体力。植田は小学校時代に培った。そして植田の祖父から今でも大事にしている技術的な金言を授かった。

「右手の押し込みですね。インパクトの際に、右手をどれだけ強く押し込むことができるか。それが飛距離として変わってきて、詰まった内野フライが、サードの後ろに落ちたり、一押しがきいてホームランになることを実感しています」

 多くのスイングを重ねて打撃の基礎を作り上げ、祖父のアドバイスによって自分の技術を築き上げた。そして中学校では強打を発揮するパワーを養った。

「僕は貝塚シニアに所属していた時に、陸上部の先生に誘われて、砲丸投げをやることになったのですが、いろいろなトレーニングを教わって、そこで、トレーニングの重要性に気づいたんですよね。また貝塚シニアの2年生の時にトレーナーがつくことになって、中学2年生の時はジムに通って、体を鍛えていました」

 貝塚シニアでは通算30本塁打を放った植田。身長は現在と同じ165センチで、当時から長打力はずば抜けていた。盛岡大附に進んだのは関口監督にかけられた言葉がきっかけだ。

「男の修行としてついてこいという言葉に惹かれたんですよね」

低めと変化球の見極めを大事に、高校でも長打力開花

植田 拓(盛岡大附)

 こうして盛岡大附の門を叩くことになった植田。1年春から力量はずば抜けており、植田と同学年で、プロ志望届けを提出して、指名を待つこととなった比嘉賢伸はこういう。「当時から力量はずば抜けていました。こんなのが同学年でいるんだと驚きを隠せませんでした」

 しかしすぐに活躍できたわけではなかった。高校生の投手のレベルの高さに苦しみ、1年夏は甲子園を逃す。

「何が違うといえば、変化球のレベルの高さですね。入学から夏まで、変化球に対応ができなかった」
その反省から、植田は普段の打撃練習から見極めをテーマにした。

「打てるボールをしっかりと打つ。速球、変化球もむやみにボール球に手を出さない。そして右手の押し込みを大事に、普段の練習を積み重ねていきました」

 この取り組みは功を奏した。1年秋は、充実としたパフォーマンスを見せた植田は、1年冬は真剣にウエイトトレーニングに励み、パワーアップ。2年夏、主軸打者として活躍を見せて、自身初の甲子園出場を果たす。そして2回戦の創志学園戦高田 萌生から本塁打を放つ。「打ったのはスライダー。配球パターンをしっかりと練っていたので、狙い通りに打つことができました」と笑顔を見せた。甲子園の経験は植田にとって大きなものとなった。

 甲子園に戻ってから、植田の安定感はさすがだった。打率.521、4本塁打、15打点と高い打撃成績を残す。甲子園の経験が大きかったと植田は振り返る。
「甲子園から良い投手を打たせてもらって余裕が出てきたことが大きかったですね。自分の間合いで打つことができましたと思います」。東北大会準優勝を決め、選抜へ前進した盛岡大附。オフに入り、植田はウエイトトレーニングから、スクワットなどメニューを増やした。

[page_break:甲子園4本目のホームランはベストホームラン]

甲子園4本目のホームランはベストホームラン

植田 拓(盛岡大附)

「体の切れを求めていたので、メニューを増やしました」とさらなるパワーアップへ余念がない植田。そして迎えた選抜。準々決勝履正社戦でエース・竹田 祐の完全試合を阻止するホームランを打つ。

「これも、高田投手から打ったホームランと同じく反応で打てたホームランでした」と反応の良さで打てるほど植田の技術は磨かれていた。選抜では15打数5安打、3打点、打率.333と結果を残し、選抜ベスト8入りに貢献したが、それでも自分の打撃結果には満足していなかった。「全然自分のバッティングができなかったですね。夏こそは自分の打撃ができればと思いました」と誓って夏へ向かったが、同時期、手首を痛めてしまい、思うような打撃ができない日々。それでも夏の岩手大会は、22打数8安打、4本塁打、9打点、打率.364と好成績を残した。

「まだ自分のバッティングではないですけど、手首の状態を考えれば、上出来だと思います」と振り返った。そして臨んだ最後の夏の甲子園。甲子園2試合ではアーチがなかったが、済美戦。9回表、6対7と1点ビハインドの場面で、先頭打者として打席に立った植田は、高めのボール球を打った。打球は左中間へ飛び込む同点弾。植田自身、驚きの一発だった。
「払うような感じで打ったら、入ってしまって。自分でもびっくりなホームランでしたね」

 延長10回表、勝ち越しに成功した盛岡大附。そして植田が打席に立った。打席に立つ前、植田は関口監督のサインを覗くと、初球から打てのサインだった。

「うちは1球目を見逃せというサインもあるのですが、この時は、チームに流れがきていたので、甘いコースから狙えという指示だったと思います。その読み通り、甘いストレート。ドンピシャのタイミングでした」

 振り抜いた瞬間、打球はバックスクリーンへ飛び込む3ラン。植田自身、会心のホームランだった。「あれは甲子園ではベストホームラン。甲子園のバックスクリーンへホームランを打つのは念願でした。打った瞬間、本塁打と確信できる素晴らしい当たりでした」

[page_break:社会人では日本代表を担える強打者へ]

社会人では日本代表を担える強打者へ

植田 拓(盛岡大附)

 こうして二季連続の甲子園ベスト8を経験した植田。準々決勝では、花咲徳栄に敗れたが、高校3年間で積み上げた本塁打数は63本(10月8日現在)。これは今年の高校生では清宮 幸太郎の111本、安田 尚憲の65本に次ぐ本塁打数である。

 活躍の背景には、幼少期に祖父に教えてもらった右腕の押し込みを大事にする打撃スタイルが、中学・高校のトレーニングで培ったパワーにより最大限発揮されたことをお伝えしたが、盛岡大附はゴロ、フライの結果にとらわれない打撃方針が植田の成長を促した。関口監督はこう言う。
「結果よりも自分のスイング。エンドランでも、高い打球を打ちあげてフライになってもOK。それは強いスイングができた証拠だから。自分のスイングを崩してヒットを打つことはあまり推奨しません。強いスイングができればそれがOKです」

 植田自身も「そういうスタイルだからこそ、自分の打撃を伸ばすことができたと思います」と胸を張る。高校3年間を振り返って、「体が小さいとホームランが打てないとあきらめてしまうんですけど、でもこの3年間は体が小さくてもホームランが打てるということを証明した3年間だったと思いますし、右手の押し込みの重要性とトレーニングの重要性は後輩たちにも伝えられたと思います」と胸を張った。

 そして高卒プロ志向が強かった植田は社会人のバイタルネットへの入社を決意。その理由についても聞いた。
「自分は高卒プロに行きたかったんですけど、関口監督から木製バットに慣れてから勝負してもええんちゃう?と言葉をいただいて、本当に悩んだですけど、高卒で失敗して、すぐにクビになるリスクもありますし、もちろん高卒プロに進んで成功する確率もあったと思うんですけど、まずは木製バットに慣れてからプロを目指そうと思いました」

 この進路を成功させるか、失敗させるかは自分次第。植田はしっかりとそれを自覚していた。そして、目標のプロ入りへ向けて、ある目標を掲げた。
「やはり侍ジャパン入りできる選手になりたい。それができる選手になりたいです」

 日本代表を担う打者となれば、その目標は自ずと近づく。植田は引退しても、トレーニング、打撃に真剣に取り組む姿があった。それもプロへ行くため。野球を始めたときから志高く取り組み、高い意識で取り組む植田ならば、その先のステージでも、小柄ながらホームランを連発するスラッガーとして、多くの選手に夢を与えてくれるはずだ。

(取材・構成=河嶋宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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