「身の丈にあった野球」で全国ベスト16入りした第1回大会優勝校・『鳥羽』の軌跡
今年は全国高校野球選手権の前身である全国中等学校優勝野球大会が始まってから100周年となる節目の年。第1回大会で優勝した京都二中の流れをくむ京都鳥羽が甲子園出場を決めると、主将・梅谷 成悟(3年)が今大会の選手宣誓の大役を任された。
「次の100年を担う者として、8月6日の意味を深く胸に刻み、甲子園で躍動することを誓います」
堂々とした宣誓から熱戦の幕が切って落とされたが、その1年前、京都鳥羽の新チームのスタートはつまずきからだった。
秋季大会一次予選黒星から始まった 今年の鳥羽ナイン
梅谷 成悟主将(鳥羽)
秋季大会1次戦1回戦で東山に最大5点差をつけられ、終盤に猛追するも1点及ばず黒星スタート。敗者復活戦から勝ち上がったが、2次戦の準決勝では立命館宇治に敗戦。3位決定戦で京都成章を破り近畿大会出場枠に滑り込むが初戦で奈良大附の好投手・坂口 大誠を攻略出来ず、秋だけで3度の負けを味わった。
一冬越えて迎えた春も2次戦の1回戦で姿を消し夏はノーシードからの挑戦。守備力は高いが総合力では強豪私学勢には及ばず、大会前は優勝候補の一角ではなく有力校の1つでしかなかったが、不思議な力が味方した。最初の山場と思われた準々決勝の京都翔英戦は8対1で8回コールド勝ち。前日に龍谷大平安と11対8の激戦を演じ消耗気味だった京都翔英を退けたのである。
そして迎えた決勝戦はセンバツ出場の立命館宇治との対戦になった。京都鳥羽の決勝進出にスタンドの雰囲気は、久しぶりの甲子園出場を願う京都鳥羽を応援するファンと、また立命館宇治は、この夏限りで退任した卯滝逸夫監督のラストサマー。長年、京都の高校野球を盛り上げた卯滝監督に有終の美を飾ってほしいと願うファンが半々の雰囲気だったようだ。
相手のエースは前日延長15回を投げ抜き3連投となるコンディションで、4回途中までに6四死球をもらい4点対0とリード。終盤に追い上げを許すも序盤のリードがものを言い、15年ぶりに京都の頂点に立った。制球力に優れるエース・松尾 大輝(3年)とコールド勝ちを収めた2試合で完封した左腕・山田 純輝(3年)の左右2枚看板を堅守のバックが支え、打線はチーム打率.429で出場した全選手が打率3割超え。上位下位関係なくつながる打線は京都大会6試合で41得点を挙げた。
ただし、特徴的なのは本塁打0で犠打24という数字。打順に関係なく先頭が出れば送るという攻めを繰り返し、コツコツと得点を積み重ねた。犠打の多さは伝統的に多いものではなく、彼らの前の世代の選手たちはずっと打てる選手が多かった。だが今年はそういう選手たちがいない。ではどうすれば勝てるのかと考えた結果、犠打でつなぐ野球だった。
優勝後のインタビューで山田 知也監督が話したように「身の丈に応じて自分達の野球を最後までやりたい」というもの。身の丈に応じた野球をやる。これが京都鳥羽の野球スタイルであり、龍谷大平安、福知山成美、立命館宇治といった強豪が多い中、毎年、近畿大会に進出するチームを作り上げたのだろう。今年の甲子園出場はその取り組みが結実とした1年だった。
そして甲子園でも自分たちの野球を貫き、甲子園のファンを驚かせる野球を見せる。
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甲子園で鳥羽野球を貫く
松尾 大輝投手(鳥羽)
初戦の岡山学芸館戦では初回に二死二塁から4番・小薗 晋之介(3年)の2点本塁打で先制しているが、これは高めのボールにヘッドを立てたバットをうまく当て角度がついたもので、一発を狙ったスイングではない。試合全体でチームとして14安打を放っているが12本が単打。それも打ち返したのはほとんどがセンターから逆方向。ビッグイニングなしで7得点を挙げるとエース・松尾が1失点完投。8安打を浴びたが全て単打、守備の動きも軽快で付け入る隙を与えなかった。
2回戦は守備が安定した津商との対戦。タイプ的には似た試合巧者に対し、またしても先制に成功する。3回に松尾の二塁打からチャンスを作ると5連打で3点を先制。リードを奪っても京都鳥羽らしさは変わらず5から7回まで3イニング連続で先頭打者が安打で出塁すると、次打者は全て送りバントを成功させる。
3点リードの7回に一死三塁とされるが、内野手は後ろに下がり着実にアウトカウントを増やす。松尾が8回の先頭打者に死球を与えるが自慢の二遊間が併殺を奪いピンチの芽を摘む。終わってみれば2試合連続の14安打。終始ペースをつかむ試合運びで見事勝利、前回出場時に並ぶ16強に進出した。
格上の興南との3回戦では、2回に失策から先制を許すが、2点目を狙った走者を好返球で刺す。守備のミスを守備で取り返すと3回に四死球とバント安打で走者をため伊那 夏生(2年)が逆転の2点タイムリーツーベース。クリーンヒット1本で試合をひっくり返す。さらにバントで作った5回のチャンスに伊那が犠牲フライを放ちリードを広げる。先発・松尾は7回までに被安打10、毎回のようにピンチを招きながらも最少失点で凌ぎ終盤勝負に持ち込んだ。
最後は興南に1点差で敗れ、69年ぶりの夏の大会ベスト8進出はならなかったが、3試合で11個の犠打を決め、放った32本の安打の内28本が単打。リードして終盤を迎えても大振りになることなく、後ろにつなぐ謙虚な野球を貫き通した。守備は堅いが攻撃の迫力には欠ける、穴は無いが突出した選手もいない、どちらかと言えばそんな地味なチームだったはずだが、甲子園の大舞台で“京都鳥羽の野球”を大いに披露した。
(文・小中 翔太)
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