中央学院高等学校(千葉)「甲子園出場を常に狙えるチームになるには選手がお手本となる存在になること」【後編】
■前編「監督、コーチ、選手が一体となって目指す初の甲子園」から読む
前編では中央学院の相馬監督にチーム作りや方針について語っていただきました。後編では、コーチがどんな思いで指導をしているのか、そして秋の大会を経験して課題になったこと。目指す方向性について迫っていきます。
それぞれのコーチが指導で意識していること
羽豆 恭コーチ(中央学院)
中央学院のBチームを指導するのは、同じく中央学院OBで、BCリーグ・新潟アルビレックスBCでのプレー経験を持つ羽豆 恭コーチ。羽豆コーチはベンチに入れない投手陣へのトレーニング指導や技術面の指導をしつつ、Aチーム入りへ意欲を持たせるようモチベーターとしての役割もこなしている。指導スタッフの中で唯一、プロ野球経験のある羽豆コーチの経験談を聞きたい選手たちはかなり多いようだ。
「僕からは言うことはないですが、投手だけではなく、野手たちの子からもかなり質問がありますね。自分はこういうトレーニングをやっていたとか、僕と一緒にプレーしていた選手のことを振り返ったり、いろいろ教えていますね」
そしてBチームの野手を指導する中野 翼コーチは、
「A、Bチームで分かれていますけど、本当に入れ替わりが激しいので、いつ呼ばれてもいいように選手たちには意識を高く持って取り組ませるようにしています。また僕も話しかけやすい雰囲気は作っていますね。寮生活、学校生活で生徒と一緒に行動することが多いですし、調子が悪い時に言いにくい雰囲気があるのは良くないので、そこは意識していますね」
菅井コーチ、羽豆コーチ、中野コーチはなるべく生徒に近い目線で選手に接することを意識しているが、練習を取り仕切る福嶋 翔平コーチはその逆だ。
「僕の場合、あえて選手に近づかないようにしています。コーチ就任当初は選手との距離を近くして、野球以外の会話をしている時期はありました。ただ、現在の僕は練習の取り仕切り役になったということもあり、馴れ合いになってはいけないので、緊張感を持たせるようにしています。いつも相馬監督が練習にいらっしゃるわけではないので、監督がいないから緩むのではなく監督がいない方が緊張感がある、そういう練習環境を作ることを意識させています」
このように、それぞれのコーチが自分のスタイルを出して指導を行っている。相馬 幸樹監督は「このチームはコーチこそ脚光を浴びるべきですし、それぞれが誇りをもって仕事しており目指す方向性も一致してるので、とても良いバランスだと思います」とコーチたちを信頼をしている。
選手たちにコーチの存在について訊くと、やはりコーチが多いのは選手たちにとっては心強いようだ。50メートル走5秒9の俊足を誇るセンターの中藤 俊哉が「いろいろな方の考えが聞けますし、参考になります」と語れば、主将の武田 登生は「コーチのかたが多いと僕たちにとってはありがたいですし、僕もコーチへいろいろ提案できるよう心がけています」とうまく活用しているようだ。
監督、コーチ、選手たちの目指すベクトルが一致し大会へ臨んだ昨秋は、千葉県大会準優勝、関東大会ベスト8と大きく前進した一年となった。
秋の関東大会に進出できた要因と課題になったこと
大谷 拓海選手(2016年秋季千葉県大会決勝より)
昨秋の関東大会進出を果たした要因について相馬監督は、「秋は夏の練習から1つ1つ積み重ねていく中でやってきたことが実った大会でしたし、選手たちが自信としている打撃の良さが出た大会でもありました」と振り返った。事実、県大会では6試合で34得点を記録し、武田やエースの大谷が勝負強い打撃を見せた。
打線が好調だった要因としては、ベンチワークが良かったことも挙げられる。福嶋コーチは、
「練習では厳しく選手と接しましたが、昨秋の公式戦期間中は試合だけではなく、練習中から夏の大会のように励ましていくスタンスにしていきました。それが奏功した形です」と当時の様子を明かしてくれた。主将の武田は、「あの時は打線の状態が良かったですし、県大会では粘り強く守れたと思います」と選手の視点から見ても打線が良かったと感じている。
だが課題となったのは守備だ。県大会まではあまり守備のミスが出なかったが、関東大会準々決勝の作新学院戦では失策が多く飛び出し、コールド負けを喫した。武田は「あの試合で失策がなぜ出たのか?と考えると、作新学院のプレッシャーに負けたというか、慣れない人工芝、アウェーの環境、あと1勝すれば選抜出場へ前進するなど、いろいろプレッシャーがかかっていました。エラーが出た後に切り替えが全くできず、慌ててしまった試合でした」
精神的なプレッシャーにより、中央学院の守備が乱れてしまったといえる。同じ負けを繰り返さないために、武田は「ただ練習あるのみです」と語り、センターを守る中藤は「『守備がしっかりすれば優勝をいつでも狙えるチームになれる』と監督やコーチの方も話していましたので、この冬は守備を重点的に練習をしています」と選手たちは自分たちの課題を理解している。
福嶋コーチは、守備克服のためには技術的なレベルアップが課題だと考え、この冬鍛えていくつもりだ。
「プレッシャーに負けて守備が乱れた。それは精神的な問題と捉えがちですけど、根本的には技術がないからです。県大会ではプレッシャーがなくごまかしがききましたけど、関東大会にでてエラーが出て改めて実力がないことが分かったはずです。確固たる技術があればそれが自信となりますし、どんな相手がきても、どんな環境でも気持ちがぶれることなくプレーできる。それは量をこなしてうまくなっていくしかありません。とにかく上手くなった、自信がついたと言えるほど量を重視したいですね」
意識レベルはかつて千葉大会3連覇を果たした市立船橋のように…
ノックに参加する選手たち(中央学院)
選手、指導者が語った課題はすべて関東大会を経験したからこそ分かった課題だ。投手部門を担当する菅井コーチは「私は県大会まででしたから漠然とした高校生活でしたけど、彼らは関東大会に進んで、全国レベルを肌で感じたことは良かったと思います。投手を預かる部門からすれば、大谷や藤井に続く投手作りが一番の課題です」と投手陣の底上げが課題となっている。
取材日の練習でも、シートノックや実戦形式の練習を繰り返していた中央学院ナイン。主将の武田は「関東大会後から選手たちの意識が変わってきて、意欲的に取り組めるようになりました」と変化を語る。甲子園へ行けるチームになるために、相馬監督は個々の技術向上を課題に挙げながらも、考え方を社会人野球レベルまでに昇華することを期待している。
「まずはそこです。言われなくても自分の考えを監督、コーチに建設的に提案できる。上手くなるための方法を自分なりに考えている。僕やコーチのみんなは選手たちに野球に対する姿勢の重要性を説くことが多いですが、やはり選手がお手本となってほしい。お手本となる選手が出てみんなが真似て、そういう選手がどんどん出てくれば、それが伝統となってどんな選手でもうまくなる環境となり、甲子園を狙えるチームとなる。僕がプレーしていた市立船橋はまさにそんなチームでした」
相馬監督がプレーしていた頃の市立船橋は、1996年~1998年と3年連続で夏の甲子園に出場していた時の市立船橋である。そう聞くと、中央学院が目指すレベルはとてつもなく高いが、それを乗り越えた先に悲願の甲子園出場が待っている。
(取材・文=河嶋 宗一)
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