暑熱馴化とセルフコンディショニング
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
6月に入るとジメジメした天候が続き、まとわりつくような暑さを感じる日も増えてくることが予想されます。夏の大会は気温が高いグランドで行われることが多くなるため、今から暑さ対策、熱中症対策として体を暑さに慣れさせる暑熱馴化(しょねつじゅんか)についても、意識しておくことが大切です。今回は暑熱馴化の方法や、チームや個人でできる暑さ対策のセルフコンディショニングについてお話をしたいと思います。
暑熱馴化とは?
暑熱馴化対策にはウインドブレーカーではなく長袖アンダーシャツがより適している。
●暑熱馴化とは?
暑熱馴化とは、文字通り体が「暑さ」に馴(な)れる、適応することをさします。季節とともに体は外気温に順応しますが、暑熱馴化が完了するまでにはおよそ一週間ほどかかるといわれています。試合時の暑さ対策として暑熱馴化を行うためには、少なくとも一週間以上前からはこのような対策を取ることが必要です。具体的には、汗を多くかいて汗腺の働きをよくすること。たくさん汗をかくにつれて、汗から排出されるミネラル分が少なくなり、適切な水分補給を行うことで電解質バランスが崩れにくくなると言われています。
●ウインドブレーカーではなく長袖のアンダーシャツを活用しよう
中には夏の大会を想定し、練習時にウインドブレーカーを着用して、暑さに馴れるといった対策をとるチームもあるようですが、ウインドブレーカーは熱を逃がさず、風の影響を抑えるといった特性があるため、体内に熱がこもってしまい、脱水症状や熱中症のリスクが高まります。暑さ対策としては逆に体調を崩しやすくなるので注意が必要です。ウエアで暑い環境に馴れるというのであれば、長袖アンダーシャツを活用しましょう。
皮膚の日焼け予防としても効果的ですし(日焼けをすると皮膚が炎症を起こし疲れやすくなる)、汗をかいたら着替えるようにして何枚か準備しておくと、効果的に暑熱馴化を行うことができます。暑熱馴化は気温・天候などの外部環境や個人の基礎体力、コンディション(睡眠不足であるとか、風邪をひいているとか)によっても適応能力が違ってきますので、こうしたことを理解した上で無理のないレベルにとどめておくことが大切です。
暑熱馴化を完成させて夏に挑む!
暑さ対策のセルフコンディショニングをぜひ実践しよう。
●湯船につかってしっかりと汗をかく
暑熱馴化は汗を多くかいて汗腺の働きを促すことが大切です。そのためには練習後や帰宅後の入浴時間も貴重な暑熱馴化の時間と言えるでしょう。暑い時期ほどシャワーで汗を流して入浴をサッと済ませたいと考える選手も多いと思いますが、シャワーだけではなく湯船に入ってしっかりと体を温め、じんわり汗をかくようにしましょう。体を温めることは全身の血流を良くし、運動でたまった疲労物質を分解・代謝するサイクルを早めます。暑熱馴化だけではなく疲労回復という点からも、湯船につかる習慣は日頃から心がけたいセルフコンディショニングの一つです。
●快適な室内に馴れすぎない
外気温が高くなってくるとついエアコンの冷房に頼りたくなりますが、普段過ごす部屋の温度についてもなるべく外気温との差が大きくならないように調節しましょう(最大でも5℃程度)。いくら練習で汗をかいたとしても、その後にエアコンの効いた涼しい部屋で長く過ごしていると暑熱馴化はなかなか思うように進みません。「少し暑いかな」と感じる程度の室温に設定し、体を暑さに馴れさせるようにしましょう。その際にこまめな水分・塩分補給を忘れずに行うこと。部屋が暑くて過ごしにくいという場合は扇風機をうまく活用しましょう。直接体に風をあてるのではなく、壁の上方に風をあてるようにして室内で空気を循環させるようにすると、設定温度が高い状態でも快適に過ごしやすくなります。
●睡眠不足はコンディションを崩す元凶
暑さ対策のためにさまざまな暑熱馴化の方法を紹介しましたが、何といっても暑さにバテない、熱中症を防ぐために心がけたいこととしては十分な睡眠をとることが最優先です。暑い時期はなかなか寝つけないこともあると思いますが、寝る直前のスマホはさらに脳を覚醒させるため、熟睡を妨げやすくなります。また体温が下がるときに眠気を催しやすくなるため、寝つきが悪いと感じる人は、寝る直前に少しぬるめのお風呂に入るとよいでしょう。
暑熱馴化が完成していると暑さに対するコンディションも良い状態を保つことができ、普段どおりのプレーを発揮することが期待できます。あらかじめ暑さに馴れておく暑熱馴化の方法を理解し、できるところから実践してみてくださいね。
【暑熱馴化とセルフコンディショニング】
●暑熱馴化とは暑さに体が馴れること。適応するまでに約一週間ほどかかる。
●暑熱馴化には汗をかき、汗腺の働きをよくすることが大切。
●ウインドブレーカーの着用ではなく長袖アンダーシャツを上手に活用しよう。
●湯船につかって汗をかくことが暑熱馴化につながる。
●冷房の効きすぎた室内で快適に過ごしていると暑熱馴化は思うように進まない。
●熱中症対策としてまずは十分な睡眠をとること。
(文=西村 典子)
次回コラム公開は6月15日を予定しております。