明秀日立(茨城)一糸乱れぬ心と自慢の打撃で大舞台へ挑む
昨秋の関東大会で準優勝し、見事、センバツ大会への切符を掴んだ明秀日立(茨城)。その好成績を支えた最大の要因となったのが、秋季大会の公式戦10試合で81得点。レベルの高い関東大会でも4試合で26得点(1試合平均で6.5得点)を奪った打撃だ。そんな明秀日立の強力打線を作り上げ、前任の光星学院(現:八戸学院光星/青森)時代は坂本勇人(巨人)らを育てた金沢成奉監督に今年のチームについてお話をうかがった。
練習試合での敗戦から「人任せ」のチームが変化
昨秋の新チーム結成時を振り返り、「この代は入学当初からポテンシャルの高い選手が多く、投手は細川 拓哉。野手は増田 陸、芳賀 大成、池田 陵人を中心に、周りを固める選手にも力があったので、それなりのところまではいけるとは思っていました」と、話す金沢監督。しかし、ここ数年は甲子園まであと一歩のところでカベが破れずにいたことから、今チームは原点に立ち返って指導をしたのだという。
「光星学院では日本一を目指していて、そのためには『打ち勝てるチームでなければいけない』と、感じていました。その考え方は明秀日立に来てからも変わらず、とにかく打つ事ばかりを重視していたのですが、思い返せば、光星学院を打のチームに育てていった時も、最初は組織野球から始めていたんです。光星学院で培ったバッティングのノウハウを持っていたばかりに、チームを強くするための土台になるものを見失っていたんですね。それで、このチームでは『1点を全員で取りにいき、1点を全員で守る』ことを徹底していくことから始めたんです」。
そこで、選手の気持ちを同じ方向へ向かせるため、最初に取り組んだのが行進だ。
「みんなに同じことをやらせたかったので、全員の足並みが一糸乱れぬように揃うまで、ひたすら行進をさせていました。長い時は3~4時間やったこともあるのですが、バラバラでなかなか上手くいかなくて……。その間、私も選手を突き放して、練習を見るのをボイコットしたことが2~3回あったのですが、その都度、選手たちは話し合いを繰り返していましたね」。
明秀日立野球部
そんな状態が1ヶ月ほど続くなか、8月末の東農大二との練習試合では遂に金沢監督の雷が落ちた。
「ピッチャーの細川はずっと調子が良かったんですがフォームを少しいじったところ、この試合では打たれてしまったんです。ところが、そんな細川に対して声を掛ける選手がいないんです。ただ守っているだけ。それで、試合後に怒ったのですが、バスで学校に帰って選手が降りた後を見回したら、ボールやペットボトルなんかが車内に落ちているんですよ。それがまさにチームの状況を物語っていて、普段の生活から人任せだったんですね。それで、ものすごく怒ったんです」。
しかし、この一件を機にチームは変わっていった。「それからは主将の増田や副主将の長尾(巧)を中心に野球以外のところでも自ら動けるようになったんです。すると、野球の面でも声が出るようになり、試合ではリードされている展開でも粘りが発揮できるようになったんです」。こうして秋季大会を迎えた明秀日立。試合前は全員で手を握り合って円陣を作り、最後は肩を組んで掛け声を挙げるのだが、その円陣に金沢監督も加わり、チームのまとまりは最高潮に達していた。
[page_break:強打の秘訣は「ラインバッティング」にあり]強打の秘訣は「ラインバッティング」にあり
一丸となった明秀日立は関東大会で3試合連続逆転勝利を飾り決勝へ進出。また、攻撃面では秋季大会の10試合中7試合で7点以上を挙げたが、その強力打線はいかにして作られたのだろうか。
金沢監督は「ウチの特徴はラインバッティングにあると思います。いわゆる最短距離にバットを出して上から叩くという打ち方は『点』で捉えにいくことになりますが、そうではなくてボールのラインとバットのラインを合わせて、きちんと『面』で捉えるようにしています」と話す。
面でボールを捉えるためには、ある程度の距離を取ってから打ちにいくことになるが、そこで意識しているのが割りだ。
「前の足をステップすると同時にバットを引いて距離を作る。この『割り』の形が大切で、しっかりと割ってから打ちにいくように指導しています」
現在、明秀日立で打撃コーチを務め、かつては八戸大の監督として秋山 翔吾選手(西武)を育てた藤木 豊コーチも「よくバットは『後ろを小さく、前は大きく』と言いますが、振り子をイメージすれば分かるように、後ろも大きくしなければ前は大きくならない。だから、バットを引いてトップを作るんです」と話す。
また、「前足をステップした時、ヒザが開いてしまうと体がスウェーして力が逃げてしまう。だから、ピッチャーに対して45度の角度で着地してグンと踏ん張り、体を思い切り旋回させて打つ。この打ち方が基本になるので、徹底的に覚えこませるようにしています」。そして、この割りをつくるためにやっているティーバッティングがある。「三拍子のリズムで、1で(右打者なら)上げた左足のヒザあたりにバットのグリップを付け、2でステップするのと同時にバットを大きく引いて割りを作る。そして、3でスイングして打つ。この時、腕と足をしっかりと連動させて動かすのがポイントになります」(金沢監督)
このように明秀日立では7種類のティーバッティングなどでフォームを習得していくのだが、「必ず、二拍子か三拍子のリズムをつけています。なかには『いち、にぃ~の、さん』という感じで、間合いを作っているものもあって、これがタイミングの取り方につながっていくわけです」。
バックスピンティーに取り組む選手たち
そして、もう一つ大切にしているのがバットの角度だ。「ラインで打つのでアッパースイングだと言われることもありますが、飛距離を出して遠くへ飛ばすためにはフライアウトも仕方ないと考えています」と、金沢監督。
昨年、メジャーリーグでは「フライボールレボリューション」と呼ばれる理論が流行し、アッパースイング気味にフライを打ってボールを飛ばす技術が重視されるようになったが、明秀日立でもメジャー球団が導入しているバックスピンティーと呼ばれる吊り下げ型の置きティーを使ってスイング練習をしている。
「通常の置きティーだと、どうしてもボールの上半分を叩いてゴロを打つ練習になってしまう。でも、吊り下げる方式のティーを使えばボールの下半分を打つことになるので、バックスピンをかけて遠くまで飛ばす練習をすることができるんです」。しっかり割りを作るフォームと、スイングの軌道。この2つが明秀日立の強打を支える基礎となっているようだ。
『打の明秀日立』というイメージをアピールしたい
コーチとミーティングしている選手たち
こうした打撃理論に併せて、明秀日立で行われているのが体力トレーニングだ。
金沢監督は「心技体という言葉がありますが、ウチは心と体を同列に並べて大切にしています」と話しており、この冬は振り込み、走り込み、そしてウエイトトレーニングに力を入れている。
なかでも昨季から専門の指導者にメニューを作ってもらっているウエイトトレーニングでは「下半身を中心に鍛えているのですが、スクワットでは自分の体重の約2倍の重さまで持ち上げてトレーニングしています。そのおかげでみんな下半身が大きくなってきました」と、着実に成果を上げている。
また、部員は寮で生活しており、夕食はご飯だけで毎日1kgを食べることで体重も順調に増えているという。
「こうやって2月まではパワーアップをテーマに『個』を磨き、3月からは試合形式のノックなど実戦的な練習をして組織力を高めていきます」と、展望を語る金沢監督。そして、「茨城県の県北地域からセンバツに出場するのは29年ぶりですし、ここ10年間は常総学院さんを除くと県内のチームは甲子園で勝っていないので、茨城県のためにも勝ちたい。今春のセンバツでは最低でも5点以上取って、4点以内に抑える。そうやって打って、打って、打ちまくって『打の明秀日立』というイメージを全国のみなさんにアピールしたいです」
甲子園でも自慢の打線で勝負する明秀日立。ひと冬を越えて、さらに磨きをかけた技術と体力で[stadium]甲子園[/stadium]という大舞台へ挑む。
(取材・文=大平 明)