Column

小林 誠司選手(広陵-読売ジャイアンツ)「誠司にキャッチャーをやらせた理由」【前編】

2017.03.22

 昨季はプロ3年目で自己最多となる129試合に出場し、巨人の正捕手の座をつかんだ小林 誠司。2017年WBCにおいても攻守に活躍し、決勝トーナメント進出に大きく貢献した一人に挙げられている。そんな侍ジャパンの正捕手はいったいどのような高校球児だったのだろうか。10代の成長過程を知る恩師・中井 哲之監督に話をうかがうべく、小林選手の母校、広島・広島広陵高校に向かった。

「あの子がプロ野球選手に?」と言いたくなる選手だった

小林 誠司選手(広陵-読売ジャイアンツ)「誠司にキャッチャーをやらせた理由」【前編】 | 高校野球ドットコム

中井 哲之監督(広陵)

「いやぁ、最初の印象と言われても特にないんですよねぇ…」
広島広陵高校に到着し、監督室を訪ねると、中井 哲之監督が出迎えてくれた。早速「教え子の入学時の印象」というテーマを投げかけてみると、冒頭のコメントが苦笑いとともに返ってきた。
「ぜんぜん目立たない子でした。入ってきた頃のことは正直、ほとんど覚えてないです。まさに『あの子がプロ野球選手になるとは…』と言いたくなる選手なので…」

 大阪・堺市出身の小林 誠司。中学時代は大阪泉北ボーイズに所属し、ポジションは遊撃手兼投手だった。中学卒業後は親元を離れ、広島・広島広陵高校での寮生活を選択。同学年には現広島カープの野村 祐輔投手関連記事がいた。以前、取材を通じ、小林と高校入学時の話になったことがある。中3当時のスピードは125キロ。「中学でピッチャーの楽しさに目覚め、高校でもピッチャー志望。野村を完全にライバル視していました」と語った。

 ところが高校1年の秋、小林は敗戦後のチームバスの中で突然、捕手コンバートを中井監督より言い渡される。理由は伝えられなかった。野球を始めて以来、捕手は一度も経験したことがないポジションだったが「はい」という他なかった。

 以前、野村 祐輔がこの日のバスの中での出来事を話してくれたことがあった。
「一年生大会で負けた帰り道のことでした。重苦しい空気の中、突然中井監督が叫んだんですよ。『おい、小林~!おまえ今日からキャッチャーやれ!』って。そりゃあびっくりしましたよ。そんな発想、監督以外は誰にもなかったと思いますから。あのシーンとしたバスの空気はいまだに忘れられません」

「そんなこと言いましたねぇ」と懐かしそうな表情で笑う中井監督。12年前の秋の記憶を辿りつつ、教え子・小林 誠司とともに過ごした日々をゆっくりと語り始めた。

[page_break:キャッチャーコンバートを決めた背景とは]

キャッチャーコンバートを決めた背景とは

小林 誠司選手(広陵-読売ジャイアンツ)「誠司にキャッチャーをやらせた理由」【前編】 | 高校野球ドットコム

小林 誠司(読売ジャイアンツ)

 小林の学年のキャッチャー陣が手薄だったことが響いた敗戦だったので、帰りのバスの中で、「この学年のキャッチャー、なんとかしないとなぁ」と思い、考えを巡らしていたんです。その時にぱっと誠司が浮かんだんですよね。その場ですぐに言いました。「おまえ今日からキャッチャーやれ」と。すぐに「はい」と返ってきたので「お、やる気あるんだ」と思いましたが、監督に言われたら、誠司もそう言うしかないですよね。

 コンバートを命じた理由ですか?肩が強かったことと体に柔らかさがあったこと。そして気配りができそうな心の優しさを感じたことですね。体の強さはまだ備わっていませんでしたが、捕手としての練習を続ける中で筋力と俊敏性がついてくれば、歴代の広島広陵のキャッチャーの中でも「並」レベルにはなれるのではないかと。

 野球選手として誠司を生かすという観点でみても、ピッチャー、ショートよりは、キャッチャーのほうがいいのではないかという予感がありました。ピッチャーには野村 祐輔がいましたし、バットを持たせてもガンガン打つわけでもなく、足が速いわけでもないのでショートが彼の生きる道というイメージも湧きづらかった。

 仮にキャッチャーとしてものにならなくても、ピッチャー、ショートにはいつでも戻れる。それならば、キャッチャーに挑戦したことで得る経験の方が、誠司にとってプラスに作用するという思いもありました。

 とはいえ、誠司にとってキャッチャーはやったことのない未知のポジション。最初のうちはボールが怖くて仕方がなかったらしく、コーチが「どうだキャッチャーは」と声をかけた際には「マスクをつけても目をつむってしまいます。怖いです」「ほんとはキャッチャー嫌なんです」と弱音を吐きまくっていたそうです。私の前では口が裂けても言えなかった本音でしょう。

 後編では小林誠司選手のことがさらに好きになるエピソードを紹介します!!(続きを読む)

(取材=服部 健太郎

小林 誠司選手(広陵-読売ジャイアンツ)「誠司にキャッチャーをやらせた理由」【前編】 | 高校野球ドットコム
オススメ!
第89回選抜高等学校野球大会特設サイト

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.04

【春季愛知県大会】注目の師弟対決の決勝、享栄が中京大中京を下して8年ぶり8回目の優勝

2024.05.04

1500人近くの中学生が肩肘検診を一斉に受ける!ポニーのお祭り行事・ポニーフェスタは今年も大盛況!

2024.05.04

【新潟】東京学館新潟、糸魚川がコールド勝ちでベスト16入り<春季県大会>

2024.05.04

【大阪】大阪桐蔭、大体大浪商などがベスト16で夏シード獲得、履正社は2年連続ノーシード<春季大会>

2024.05.04

【石川】日本航空石川、星稜、小松大谷、金沢学院大附が4強入り<春季県大会>

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.29

【福井】福井工大福井、丹生、坂井、美方が8強入り<春季県大会>

2024.04.29

【春季埼玉県大会】今年の西武台はバランス型!投手陣の完封リレーで初戦突破!

2024.04.29

東海大相模の149キロ右腕・福田拓翔が6回10奪三振の快投!「甲子園で150キロを投げたい」とセンバツV・健大高崎の石垣をライバルに!

2024.04.29

【石川】金沢、遊学館がコールド勝ちでベスト16入り<春季県大会>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>