ケガを繰り返さない
筋力強化もケガを繰り返さないためには不可欠
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
「スポーツにケガはつきもの」と言いますが、野球を続けていると、一度や二度はケガをしてしまった経験があると思います。まれに同じ部位を何度も繰り返してケガをしてしまうこともあります。特に捻挫などを繰り返すことを「くせになる」と表現することがありますが、本来「くせ」というのは習慣化された言動や傾向のことを意味し、ケガを繰り返すこととは少し意味合いが異なります。ケガを何度も繰り返さないために、どのようなことに心がければいいのかについてお話をしたいと思います。
【ケガを繰り返す原因とは】
スポーツで起こるケガには「急性外傷」と呼ばれる突発的なケガと、「慢性障害」と呼ばれる時間をかけて起こるケガの大きく二つにわけられます。急性外傷ではある場面での接触や、転倒、打撲などケガをした原因がわかりやすく、慢性障害では疲労の蓄積やフォームによる問題、筋力・柔軟性不足など、さまざまな原因が考えられます。ただ単に「ケガをしてしまった。専門医の診察を受けて指導してもらった。専門家に施術をしてもらって良くなった。競技復帰します!」という受け身の姿勢では、また同じようなケガをしてしまう可能性があります。なぜケガをしたのかということを理解し、原因と思われるものをいくつか挙げてみることが大切です。
☆慢性障害の原因となるものの例☆
●柔軟性不足
●筋力・パワー不足
●投球フォーム、バッティングフォームによる物理的なストレス
●上下・左右のバランス能力
●骨のアライメント(構造上の問題)
●疲労 等
【原因を取り除く】
急性外傷の場合は思いもよらないことから起こることが多く、回避することがむずかしい一面もあります。ただ慢性障害の場合はある程度原因のメドがたったら、その原因を取り除くようにすることが大切です。たとえば筋力不足から起こる筋肉の肉離れであれば、肉離れの状態が改善した段階から筋力を取り戻すようにトレーニングを行う、疲労が原因と考えられる肩の痛みであれば、十分な疲労のマネジメントを行った上で少しずつ投球動作を開始する、といった具合です。
以前ケガをした動作を、不安なくプレーできることがポイント
【いつから練習を再開するのか】
一番問題となるのがケガから復帰するタイミングです。医師の診察を受けると「全治2週間」とか「全治一ヶ月」といったケガが治る目安を伝えてくれることがありますが、これはあくまでも目安であり、個人によって前後することも考えられます。また「全治」という言葉はケガの部位が回復した状態のことをさしますが、これは局所的な話であり、ケガの部位が良くなったからプレーも出来ると考えるのは早計です。痛みや腫れといった初期の炎症症状がとれたところから、関節の動く範囲を確認し、必要に応じてリハビリテーションを行い、筋力・柔軟性などを回復させること。
そこから専門的な動き、野球のプレーに近い動作を少しずつ取り入れていき、最終的に不安のない状態で動くことができるようになれば、競技復帰に向けてのゴーサインが出ると考えられます。
これを「試合が近いから」「休んでばかりいられないから」という理由で、段階を踏まずに競技復帰してしまうと、ケガをした部分の回復が遅くなるばかりか、プレーでもケガをしたところをかばってしまい、別のところに痛みが出るといったことにもつながってしまいます。また同じ動作で同じようにケガをしてしまい、これを繰り返すようになって「習慣性の慢性障害」になってしまうことも考えられます。ケガから復帰するタイミングは慎重に見極める必要があります。
☆ケガ復帰のチェックリスト☆
✓ | ケガをした部位の痛みはないか、腫れはないか(初期の炎症症状) |
✓ | 関節の動く範囲(関節可動域)は正常か(左右差などもチェック) |
✓ | ケガの原因となるものを取り除いたか(柔軟性をよくする、筋力をつける、疲労をとる等) |
✓ | ケガをしたときの動作(捻挫したときの動作など)に不安はないか |
✓ | ケガ以外の部位について、しっかりトレーニングを行っていたか |
これらを確認し、不安をなるべく取り除いた状態で競技復帰するよう心がけましょう。不安であれば医師に相談しながら、競技復帰の目安を相談しながら、身体を動かしていくようにしましょう。ケガは「治りかけ」が肝心です。同じケガを繰り返さないためにも、身体のことについて学びながら、自分で出来ることをしっかり行っていくことが大切です。
【ケガを繰り返さないために】
●ケガの原因を追求する
●ケガの原因となるものを取り除く
●練習再開は不安要素をなるべく少なくしてから
●ケガをしたときと同じ動作を行っても問題ない状態にする
●全治○○はケガの部位に限ったもの。プレーの出来る身体づくりを並行して行う
●ケガ復帰のチェックリストを参考に、必要に応じて医師と相談しながら
(文=西村 典子)
次回、第71回公開は06月30日を予定しております。