肉離れを予防するためにできること
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
寒暖差の激しい日々が続いていますが、選手の皆さんはそれぞれの目標に向けて日々練習に励んでいることと思います。体調を崩してしまうと元のコンディションに戻るまでにかなり時間がかかってしまうため、まずは風邪などひかないように基本的な感染症対策をしっかり行ってくださいね。さて今回は肉離れについてまとめてみたいと思います。肉離れを引き起こす要因を理解し、予防するためにできることを中心にできることについて確認してみましょう。
肉離れは筋線維の損傷
ウォームアップの時に左右差や違和感の有無を確認しよう
肉離れとは筋線維が傷んだ状態を指し、医学的には筋挫傷と呼ばれます。ランニングやジャンプ、投球動作など一瞬で大きなパワーを発揮する動作によって、筋線維が急激に引き伸ばされ、筋肉と腱のつなぎ目部分や筋肉のふくらんだ部分である筋腹がダメージを受けた状態です。最も多く発生するのは太ももの裏側(ハムストリングス)と言われていますが、それ以外にも太ももの前側、ふくらはぎ、わき腹など、筋肉のある部位には必ず肉離れのリスクがあります。太ももの肉離れでは「走っているときにブチっと音がした」「切り返し動作で急に力が入らなくなった」「太もも部分に内出血が見られる」等、ケガをした本人でもわかりやすいサインが見られます。損傷の程度がひどくなると踵をつけて歩くことが困難になり、そのまま続けてプレーを行うことはできません。筋肉痛も筋線維が傷むことで起こるものですが、肉離れは筋肉痛よりも損傷度合いが大きく、広範囲にわたる傾向があります。
ウォームアップで違和感がないかをチェック
肉離れを起こす要因としては、筋肉そのものの問題(柔軟性、筋力、主動筋と拮抗筋のバランス、疲労の蓄積など)、個人の体力レベルを越える強い負荷、フォームの問題、ウォームアップ不足などが挙げられます。ウォームアップはケガ予防のため、パフォーマンスをより高めるために行うものですが、これが不十分であると筋肉に大きな負荷がかかったときに肉離れを起こすリスクが高まります。特に外気温が低いときはより入念に体を動かしながら、体温・筋温を上げるようにしましょう。またストレッチでは左右を比較し、どちらか一方が極端に突っ張っていたり、動きが悪かったりしたときは時間をかけてコンディションを整えるようにします。練習に入ってからも違和感が残る、気になるといった状態が続くときは、運動量や運動強度を極端に上げるのではなく、段階的に参加することや指導者と相談の上、練習内容を変更するといったことも必要になるでしょう。
[page_break:肉離れを起こしやすいランニングフォームとは?/]肉離れを起こしやすいランニングフォームとは?
ダッシュを行う時のフォームも意識してみよう
太ももの肉離れを想定したときに、肉離れを起こしやすい動作、フォームを改善することも必要となってきます。ランニングフォームについても確認してみましょう。
・足が伸びきった状態で着地していないか
・踵着地になっていないか
・地面を蹴って走っていないか
・後方から見て足裏が見えていないか
・お尻が落ちた姿勢になっていないか
スピードを意識するあまり足を前方へ投げ出すように(足が伸びきった状態で)走ってしまうと、どうしても踵で着地してしまうことになります。そこから大きな力を加えて前方に進もうとすると、地面を蹴る、引っ掻くような動作が必要となり、後方から見て足裏を「見せる」走り方をしています(踵着地は今まで走ってきた推進力に対し、ブレーキをかけてしまうため、スピードロスも発生します)。
足が地面に接地する瞬間は、太ももの裏側にあるハムストリングスは股関節屈曲・膝関節伸展という二つの関節の作用によって、大きく引き伸ばされながら力を発揮する遠心性収縮が働きます。足を前方に着地させると筋肉はより引き伸ばされるため、肉離れを起こしやすいと考えられます。またお尻が落ちた状態(いわゆる骨盤後傾)でのランニングは力のロスが大きく、より「がんばって」走ることを強いられるために、筋肉に大きな負荷がかかりやすくなります。走るときには姿勢を意識しながら、お尻が落ちていない状態を保つこと、また足の着地は空き缶を踏みつぶすように真上から足をおろし、足裏全体で地面をとらえるようにすると良いでしょう。
肉離れかなと思ったら無理に伸ばさない
筋肉を伸ばしたときに鋭い痛みを感じるようであれば、痛みの出る動作は避け(ストレッチもやめておく)、逆に太ももを軽く曲げて筋肉を伸ばさないような状態を保つようにしましょう。太ももの裏側を痛めた場合は膝を軽く曲げた状態で安静に保つようにします。その状態を保ったまま氷などで患部を冷やすようにしましょう。筋肉が損傷するとそこから痛みや腫れ、程度によっては内出血などの炎症症状が見られるからです。走っている時に音がした、足をついて歩くことがむずかしい等、明らかな肉離れの所見がある場合はすみやかに医療機関を受診し、医師の指示に従いましょう。
肉離れはよく見られるケガの一つですが、予防のためにできることも多くあります。体が教えてくれるサインを見逃さずに対応すること、ケガをしにくいフォームを身につけることなどを心がけてみてくださいね。
【肉離れを予防するためにできること】
●肉離れは筋線維が傷んだ状態
●太ももの裏側だけでなく、筋肉のあるところはすべて肉離れのリスクがある
●肉離れの要因は筋肉の問題、強い負荷のかかる動作、フォームの問題、ウォームアップ不足など
●ウォームアップで体温・筋温を上げながら、左右差や違和感がないかをチェックしよう
●肉離れを起こしやすいフォームはパフォーマンスにも影響する
●肉離れかなと思ったら無理に伸ばさずにまず氷で患部を冷やす
(文=西村 典子)