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野球に必要なトレーニングを再確認

2020.10.15

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

 朝晩の気温差が激しく体調管理のむずかしい時期となりました。今年は感染症予防を徹底していることと思いますが、引き続き手洗い・うがい・マスクの着用などを心がけて過ごすようにしてくださいね。さて今回は指導者の先生から「どうしても選手が上半身のトレーニングばかり重視する」という相談を受けたので、野球に必要なトレーニングについて改めて考えてみたいと思います。

野球が上手くなるため、そしてケガを予防するためにトレーニングを行う

野球に必要なトレーニングを再確認 | 高校野球ドットコム
野球が上手くなるため、そしてケガを予防するためにトレーニングを行う

●トレーニングを行う目的を再確認
野球選手がトレーニングを行う上でまず理解しておきたいことは「何のためにトレーニングを行うか」ということです。時には技術練習よりも優先して行うトレーニングは「ケガを予防するため」「パフォーマンスの改善・向上のため」であることを覚えておきましょう。中にはトレーニングそのものに興味をもち、熱心に行う選手もいますが、あくまでも野球に活かせるような内容で行うことが大切です。ウエイトトレーニングでは主に筋力強化が見込めますが、筋肉量が増えると自然と体重も増え、体が重いと感じることがあるかもしれません。「飛距離が伸びた」「球速が上がった」といったパワーアップと引き換えに、「動きが鈍くなった」ということでは野球のパフォーマンスに支障をきたす場合もあります。トレーニングの方向性を確認しつつ、技術練習と並行しながらよりレベルアップしたプレーができるようにしていくことが大切です。

●偏ったトレーニングはフォームや姿勢に影響を及ぼす
上半身のトレーニングそのものは野球にとっても重要なものが多く、実施することは特に問題ありません。ただし偏った内容で行っていると、筋肉のバランスが崩れて、姿勢やフォームにも悪影響を及ぼす可能性があります。わかりやすい例をあげると上半身のトレーニングはベンチプレスばかり行っているというケースなどです。ベンチプレスは主に大胸筋や上腕三頭筋、肩の前方にある三角筋などの強化につながりますが、筋肉が疲労などによって柔軟性が低下した状態が続くと、肩関節にある上腕骨骨頭の位置が前方にシフトし、背中が丸まってくることなどが考えられます。さらに三角筋の筋肉量が増えると腕を上げるスムーズな動作を妨げることもあります。肩がうまく上がらないと体を傾けたり、開いたりして何とか上げようとするため、肩の前方や肘への負担が大きくなり、ケガのリスクが高まります。これはほんの一例ですが、ベンチプレスを行うのであれば広背筋など背中を鍛えるトレーニングも行って筋肉のバランスを考慮する必要があります。

[page_break:肩の強さをもたらすもの]

肩の強さをもたらすもの

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肩の強さは下半身や体幹といった土台があってこそのもの

●肩の強さをもたらすもの
上半身のトレーニングを重視する理由の一つに「肩を強くしたい」ということがあるかもしれません。肩そのものを鍛えることは問題ありませんが、肩を強くするためには上半身のトレーニングだけではなく、むしろより大きな力を発揮する下半身のトレーニングや、その力を腕や指先に伝えるために必要な伝達力を高めるためのクイックリフト系のトレーニング(パワークリーンやスナッチなど)、そして力のロスを最小限にするために必要な体幹の強さなどを鍛えることがより優先順位が高いと言えるでしょう。投球動作を考えてみると力の伝わり方は地面から下半身、体幹をとおって上半身へと伝わっていき、最終的には指先からボールを力強く押し出すことでボールに力が伝わります。この伝達能力を高めるためにはクイックリフト系のエクササイズが良いと考えますが、一方でフォームの習得が難しいという問題があります。専門家の指導のもとで行うことが理想的ですが、指導をうける機会がないという場合はメディシンボール投げなどで足の力を上肢に伝える感覚を身に付けると良いと思います。

●肩周辺部のトレーニングで気をつけたいこと
肩関節は複雑かつ非常にさまざまな動きをすることのできる関節です。投げる動作を繰り返し、肩を上に挙げる動作や、腕が前方に投げ出されるときには腱板(以降、インナーマッスル)と呼ばれる小さな筋肉群が肩関節をあるべき位置に保持できるよう筋力発揮をしています。まずはインナーマッスルの機能が低下しないように、日頃からトレーニングを習慣化しましょう。ゴムチューブを使ったものが一般的ですが、軽負荷のダンベルを用いたり、自重で行ったりしても構いません。肩甲骨と上腕骨をしっかりとあるべき位置に保持することで投球動作によるケガの予防が期待できます。その上でインナーマッスルの上層部にあるアウターマッスルについてもトレーニングを行います。

 肩のトレーニングで気をつけたいことは筋肉がつきすぎて、投球動作に支障が出るような状態にならないようにしようということです。肩の三角筋などが大きくなると腕を上に挙げる動作が窮屈になってしまうことがあります。重いものを上に持ち上げるようなエクササイズ(ショルダープレスなど)を取り入れる場合は負荷や回数などは慎重に設定し、筋力が十分であれば他のエクササイズを実施するといったことも検討しましょう。

 せっかくトレーニングを行うのであれば、その効果が野球のプレーに結びつくようにしたいものです。これからトレーニングを行う機会も増える時期ですが、正しい方向性を確認しながらしっかりと取り組んでみてくださいね。

【野球に必要なトレーニングを再確認】
●野球選手が行うトレーニングの目的は「ケガ予防」と「パフォーマンス向上」
●偏ったトレーニングは筋バランスを崩し、姿勢やフォームにも影響を及ぼす
●胸筋群を鍛えるのであれば、背筋群も鍛えるようにしよう
●クイックリフト系のエクササイズは下肢から上肢への力の伝達能力を高める
●クイックリフトの実施がむずかしいときはメディシンボールを活用しよう
●肩周りに筋肉がつきすぎると腕が上がりにくくなるので注意しよう

(文=西村 典子

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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