試合レポート

報徳学園vs市立尼崎

2011.07.13

報徳学園vs市立尼崎 | 高校野球ドットコム

田村伊知郎(報徳学園)

成長の跡

「今年は去年(の初戦)のようにイカン」報徳学園・永田裕治監督に大会前に話を伺った時に出てきた言葉である。思えば甲子園4強だったチームの夏初戦は最高の滑り出しだった。(参照 2010年7月17日)
今年は3月の選抜大会、4月の春季大会といずれも初戦敗退。エース田村伊知郎(2年)を含め、チームはどん底の状態を味わった。夏へのカギは『3年生が田村に頼らず、いかに引っ張れるか』

大会直前の練習試合に伺った際、3年生の目の色が変わっていたのを確信できた。
迎えた今夏初戦、相手はご近所でもある市立尼崎。普段から良く知っているはずのチームである。だが相手は1回戦を勝ってきたチームで勢いがある。
立ち上がりに先制を許した報徳。

その裏の攻撃。市立尼崎の竹本修監督は、先発に登録変更でベンチ入りした瀬戸茂孝(2年)を立てていた。

1点に勇気をもらった瀬戸は1番平智也(3年)の第1球にスローカーブを投じた。これに戸惑ったのか、報徳打線は、130キロ台後半の瀬戸の直球に中々タイミングが合わない。
気がつけば5回までノーヒット。三振の数は9つに達していた。
4回表に追加点を奪われ2対0。球場内が徐々にどよめき出し始めた。

 「初戦で負ければ、報徳の歴史になってしまう」と永田監督は大会前から選手に話していたそうである。
6回裏。先頭の9番山下公平(3年)は、瀬戸の2球目をレフトへ弾き返した。必死のダイブでグラブを出したレフト・川浦健吾(3年)だったが、ボールはわずかにこぼれた。
ついに灯った【H】のランプ。グランドの空気は変わった。
続く1番平が1球で送りバントを決め走者二塁。永田監督がここで代打に起用したのは鈴木大輝(2年)。瀬戸が投じた初球、鈴木が止めたバットにあたり打球はセカンド方向へ。イージーなゴロに見えたが、ファーストの大旗将司(3年)が前に突っ込み、瀬戸のカバーが遅れた。結果は内野安打。


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4番越井勇樹(3年)

竹本監督が悔やんだ場面。初登板の2年生右腕は明らかに肩を落としていた。1、3塁で3番永岡駿治はストレートの四球で満塁に。
打席には4番越井勇樹(3年)。「ワンチャンスしかない。ここで決めなければ」と気持ちを奮い立たせていた。

竹本監督の指示で、市立尼崎内野陣は前進しバックホーム体制。でも越井勇は、「見えていなかった」とこの守備陣形を意に介さなかった。

この大事な局面が報徳学園の〝成長の跡〝
越井勇は瀬戸が投じたストライクを空振りすることもなく、見送ることもなくひたすらバットに当て続けた。カウントは2ボール2ストライク。でも瀬戸は5球もストライクを投じているのに、粘られる。

8球目、ついに瀬戸が根負けした。球は高めの変化球で明らかに甘いコース。越井勇はこの球を見逃さずジャストミート。打球は右中間の真ん中を破り、越井勇は一気に三塁まで走りきった。

会心のガッツポーズ。
「今までの自分だったら簡単に打っていた」と報徳の4番・越井勇は喜びを爆発させた。永田監督がこのチームのキーマンに挙げ、今まで何度もチャンスで粘れなかった男の粘った末の一打。
「勇樹が良く打った」と指揮官も思わず目じりを下げた。


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田村伊知郎(報徳学園)

ここで竹本監督は瀬戸を諦め、エースナンバーの信谷一輝(3年)に代えた。しかし直後に飛びだした6番田村の一発。事実上、試合の大勢はここで決してしまった。
「瀬戸が良かっただけに代え時は迷った」と肩を落とした竹本監督。
一方の報徳は肝心な場面で、今まで苦しみ続けた3年生が見事な活躍で、初戦を突破する原動力となった。
報徳学園が見せた〝成長の跡〝。
それは3年生の歴史でもある。

さて、最後に田村に感じた〝成長の跡〝
自らの暴投で先制されたように「少し焦った」と苦しんだのは事実だ。しかし終わってみれば毎回の15三振を奪い、おまけにとどめとなる本塁打も放った。新聞ではこの部分がクローズアップされるだろう。インタビューではいつも通り冷静に答えていた。
前半はヒットが出て勢いづいた市立尼崎がなぜ後半ほぼ完璧に抑えられたのか。田村の立ち直りはもちろんあるが、成長した田村のピッチングスタイルに驚いていたように感じられた。

田村の成長。
それはピッチングの幅。この日報道陣から質問が出ることはなく、田村自身も口にしなかったのであえてここでは詳細を書かないが、新しい球をモノにしつつある。
この日も何度か投げていた。さらに初回の暴投もワンバウンドをしっかり意識してのものだっただけに、結果として失点してしまったということだろう。
『田村といえば直球とスライダーの投手』という昨年のイメージはまったくない。着実に成長という階段を上っている。

(文=松倉雄太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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