News

センバツ「幻のノーノ―」左腕、聖地が引き寄せた縁を味方に飛躍狙う

2021.11.27

センバツ「幻のノーノ―」左腕、聖地が引き寄せた縁を味方に飛躍狙う | 高校野球ドットコム
慶應義塾大・増居 翔太投手(3年=彦根東)

 人の縁とは不思議なものだ。25日に行われた明治神宮大会・大学の部決勝を見ていて、ふとそう思った。マウンドには慶應義塾大(東京六大学連盟)の左腕、増居翔太投手(3年=彦根東)が投げていた。安定したフォームから、切れ味鋭い直球と変化球を低めに集め、中央学院大(関東五連盟第一代表/千葉県)の打者をつまらせ、ポップフライを打たせ、空振りさせていた。

 その顔とフォームには、見覚えがあった。

 3年前の春、甲子園の記者席にいた。ワクワク、ドキドキしていた。センバツ大会3回戦の彦根東(滋賀)と花巻東(岩手)の試合が、9回を終わろうとしていた。彦根東の投手が、ノーヒットノーランをしていたのだ。しかし味方が得点を奪えないまま0対0で9回裏に突入していた。抑えても無安打無得点は成立しない。もったいないなあと思っていたが、それでもその投手は9回を無安打無得点に抑えた。その投手こそ、慶應義塾大の増居投手だった。

 結局、延長10回、味方の援護なく、10回に初安打を許し、サヨナラ負けをした。ポーカーフェイスで感情を表に出さず、投手向きな性格かなと思っていた。その顔と安定したフォームは3年前と、さほど変わってなかった。

 増居はプロも考えたそうだが、大学を選んだ。悔しさが残るあの試合をともに味わった二塁手の朝日晴人内野手とともに慶應義塾大の門をたたいた。そこにはその時、甲子園で戦った選手もいた。同じセンバツの初戦で対戦した慶応義塾高校(神奈川)出身の選手たちだった。

 エース増居の好投もありチームは4対3で勝利したが、投げ合った相手投手は生井惇己投手、4番打者だったのが下山悠介内野手だった。センバツで戦った同士が、大学で同じチームとして日本一を目指すことになった。そして1年後には、9回代打で登場して三振し、最後の打者となった廣瀬隆太内野手が入部してきた。

 みんな現在の慶應義塾大主力メンバーに成長した。明治神宮大会大学の部決勝で中央学院大と戦ったスタメンには下山が3番、廣瀬が5番、朝日は8番、そして先発に増居が名を連ねた。

 増居が5回途中で降板し、6回から3番手で登板したのが生井だった。残念ながら、決勝では敗れ、東京六大学初の「大学四冠」は逃したが、増居らには来年がある。今年の東京六大学春季リーグで増居と朝日はベストナインに輝いた。昨年秋には下山と廣瀬がベストナインに輝いた。あのセンバツを戦った戦士は、東京六大学を引っ張っている。

 増居は高校2年の夏も甲子園を経験している。名誉ある開幕戦のマウンドに立ち、戦った相手は長崎代表の波佐見だった。増居は5失点しながら9回160球で完投。チームは9回に1点差を跳ね返して逆転サヨナラ勝ちした。

 涙した波佐見の先発は隅田知一郎投手。そう、今年のドラフトで4球団競合の末に西武にドラフト1位指名された左の剛腕だ。隅田は高校生活最後の夏、甲子園で味わったあの敗戦を糧にドラフト1位まで駆け上がった。

 増居投手は人を引き寄せる何かを持っているのか。それとも単なる偶然なのか。

 増居もあの悔しい「幻のノーノ―」が甲子園ラストマウンドだった。あの淡々と、黙々と、投げる姿はプロでも見られるのだろうか。今から1年間、目が離せなくなる投手がまた1人増えた。

(記事=浦田由紀夫)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.05.31

【鹿児島NHK選抜大会】鹿児島実がコールド勝ち!川内商工は終盤に力尽きる

2024.05.31

夏の愛知大会は6月28日から開幕!決勝戦は7月28日【愛知大会要項】

2024.05.31

【北信越】富山県勢4校が12年ぶりの県勢V狙う、茨木擁する帝京長岡にも注目<地区大会>

2024.05.31

【鹿児島NHK選抜大会】鹿屋農が"強気の勝負"で勝機を引き寄せ4強入り

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.05.26

【春季関東大会】白鷗大足利が初優勝!最後はタイブレークの末サヨナラ死球で幕切れ!

2024.05.26

【近畿大会注目チーム紹介】実力派監督就任で進化した奈良の名門・天理。超高校級の逸材3人を擁し、緻密な攻守で全国クラスのチームに!

2024.05.26

【近畿大会注目チーム紹介】エース頼み脱却を目指してきた京都国際。「素質はプロ入り左腕と同等」の2年生左腕の台頭と打線強化で京都の大本命に成長!

2024.05.28

交流戦開幕、初戦の注目は髙橋宏斗vs.今井達也の初対決!

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.19

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在30地区が決定、青森では青森山田、八戸学院光星がシード獲得

2024.05.21

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在33地区が決定、岩手では花巻東、秋田では横手清陵などがシードを獲得〈5月20日〉